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第十五章 謀略に始まり謀略で終わる
第百八十六話
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乾いた風が砂を巻き上げ過ぎ去っていく。
――衝撃的な過去だった。
「彼女は本当に亡くなったのですか……」
ミュアンはボソッと俯いて呟いた。ステラミリスとは同じ歳で、交流もあったのだ。まったく知らない相手ではない。
「私が調べたわ。国民には知らされてないけどステラミリス様は亡くなっていた。内部紛争に巻き込まれた事になってね。これは国王もそう知らされているわ。あの日死んだはずなのに、その一週間後に亡くなった事になってね……」
「そうですか……」
「俺は結婚したって事だけ知っている事になっていた。そして腑抜けになったって事にしたのさ」
その場がずんと重くなった感じだ。
「気持ちはわかりますが、まだ十六、七ぐらいの彼女にスパイの様な事をさせていたのですか?」
「気持ちがわかるだと?! お前なんかにわかってたまるかよ! 十七年だぞ! 十七年間ずっと機会を伺っていたんだ! その間、クレにこのまま二重スパイをさせていいのかって何度も自問したさ! けどな彼女の協力なしじゃ出来なかったんだ!」
トンマーゾはレオナールを睨み付けて叫んだ! レオナールは彼の気迫に押され、すみませんと謝る。
「この王子にはわからないって。私がそうしたかったからしていたんだ。今日この時をどれ程待ち望んだ事か。私が騙されトンマーゾを見張っていたせいで、ステラミリス様を助け出すチャンスを逃したんだ。私は必死だったよ。あいつに信頼されるようになるよにね」
クレは涙を溜めてそう語った。
「ねえ、俺に何をさせる気だったの? サンチナドだっけ? この人、俺の事知らなかったようだけど?」
「知っている訳ないでしょう? 下っ端の事なんて……」
エイブの質問にクレが答える。
「って、俺の事をひた隠しにしていたよね? ずっと不思議だった。あんな怪我していたのに王宮から連れ出して、俺一人違う場所だったし。皇帝を助けたって言った時だって殺さずにパンチ一つだったし。あの水を飲ませたのだって何か意味があったんだよね? 実験以外の意味が……」
ジッとエイブはトンマーゾを見つめる。
「魔術師を見つけた事を隠しておきたかったんだ」
「隠しておきたいって、何で俺を魔術師の組織に誘ったの?」
「それは……奪われたくなかったからかな」
レオナールの方を向いてトンマーゾは言った。
「何ですそれは……。どういう意味ですか?」
「エイブは、この世界に……人間に嫌気がさしていた。ほおっておけば、いずれおたくの国に行ったかもしれないだろう?」
ハルフォード国に逃げ込むかもしれないという意味だ。
「まあ、確かにないとは言えなかったかもしれないけど……。何故、彼女を――クレメンディーナさんを俺に紹介して騙したんだ?」
「それもあんたのせいよ」
今度はクレがレオナールを見てそう言った。
「……何でもかんでも私のせいにしないで頂きたいのですが」
ため息交じりにレオナールはそう言った。
「嘘じゃないわ。サンチナドはあなたの魔術師宣言にかなり焦っていたわ」
クレは詳細を話し始める――。
――衝撃的な過去だった。
「彼女は本当に亡くなったのですか……」
ミュアンはボソッと俯いて呟いた。ステラミリスとは同じ歳で、交流もあったのだ。まったく知らない相手ではない。
「私が調べたわ。国民には知らされてないけどステラミリス様は亡くなっていた。内部紛争に巻き込まれた事になってね。これは国王もそう知らされているわ。あの日死んだはずなのに、その一週間後に亡くなった事になってね……」
「そうですか……」
「俺は結婚したって事だけ知っている事になっていた。そして腑抜けになったって事にしたのさ」
その場がずんと重くなった感じだ。
「気持ちはわかりますが、まだ十六、七ぐらいの彼女にスパイの様な事をさせていたのですか?」
「気持ちがわかるだと?! お前なんかにわかってたまるかよ! 十七年だぞ! 十七年間ずっと機会を伺っていたんだ! その間、クレにこのまま二重スパイをさせていいのかって何度も自問したさ! けどな彼女の協力なしじゃ出来なかったんだ!」
トンマーゾはレオナールを睨み付けて叫んだ! レオナールは彼の気迫に押され、すみませんと謝る。
「この王子にはわからないって。私がそうしたかったからしていたんだ。今日この時をどれ程待ち望んだ事か。私が騙されトンマーゾを見張っていたせいで、ステラミリス様を助け出すチャンスを逃したんだ。私は必死だったよ。あいつに信頼されるようになるよにね」
クレは涙を溜めてそう語った。
「ねえ、俺に何をさせる気だったの? サンチナドだっけ? この人、俺の事知らなかったようだけど?」
「知っている訳ないでしょう? 下っ端の事なんて……」
エイブの質問にクレが答える。
「って、俺の事をひた隠しにしていたよね? ずっと不思議だった。あんな怪我していたのに王宮から連れ出して、俺一人違う場所だったし。皇帝を助けたって言った時だって殺さずにパンチ一つだったし。あの水を飲ませたのだって何か意味があったんだよね? 実験以外の意味が……」
ジッとエイブはトンマーゾを見つめる。
「魔術師を見つけた事を隠しておきたかったんだ」
「隠しておきたいって、何で俺を魔術師の組織に誘ったの?」
「それは……奪われたくなかったからかな」
レオナールの方を向いてトンマーゾは言った。
「何ですそれは……。どういう意味ですか?」
「エイブは、この世界に……人間に嫌気がさしていた。ほおっておけば、いずれおたくの国に行ったかもしれないだろう?」
ハルフォード国に逃げ込むかもしれないという意味だ。
「まあ、確かにないとは言えなかったかもしれないけど……。何故、彼女を――クレメンディーナさんを俺に紹介して騙したんだ?」
「それもあんたのせいよ」
今度はクレがレオナールを見てそう言った。
「……何でもかんでも私のせいにしないで頂きたいのですが」
ため息交じりにレオナールはそう言った。
「嘘じゃないわ。サンチナドはあなたの魔術師宣言にかなり焦っていたわ」
クレは詳細を話し始める――。
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