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第十四章 パンドラの箱

第百六十話

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 「トンマーゾ起きて!」

 バンッと勢いよくドアを開ける音と同時にクレが叫ぶ声が聞こえて来た。

 「なんだよ……。寝かせろって言っただろうが……」
 「もう十分寝たでしょう!」

 ガバッとクレは布団をはいだ。

 「ったく。なんだってんだよ!」

 トンマーゾは不機嫌そうに体を起こす。

 「ザイダがいなくなっちゃったのよ……」
 「いなくなった?!」

 声のトーンを落として言うも真後ろにエイブは居た為、驚いて言う。

 「あら? 後ろにいたのね」
 「あれだけ騒げば、何かと思うだろう? 詳しく話して!」

 慌てた様子でエイブがクレに聞く様子をドアからのぞき込んでティモシーも様子を伺う。レオナールも声を聞きつけ一緒に覗く。先ほどより顔色がいい。

 「詳しくと言ってもねぇ。買い物をしていて、数分で姿が見えなくなったのよ。辺りを探したけど見当たらない。戻って来ているかと思ったけどいないみたいね」

 腕を組みそう状況を説明する。

 「それって拉致られたって事?」
 「拉致? そうね、でもそういう輩はいなかったけど……。逃げ出したかしら?」
 「そんな事あるわけないだろう!」
 「落ち着けってエイブ」

 今にもクレに掴みかかりそうなエイブをトンマーゾはなだめる。

 「もういい。俺が探しに行ってくる」
 「待てって!」
 「何? トンマーゾさんが探しに行く訳?」
 「いや……」

 エイブの問いにトンマーゾは首を振りニヤッとすると、それを見て彼はムッとする。

 「だから落ち着けって。ザイダは戻って来るさ。ミュアンと一緒にな」
 「ミュアンさん?」
 「そうですね。その可能性が高いでしょう」

 トンマーゾの意見にレオナールも同意する。

 「え? 母さんが? どういう事?」
 「ザイダはミュアンに拉致されたって事さ。勿論、お前を迎えに来る為にな」
 「多分、その指輪を手に入れる事が目的でしょう」
 「ほう。気づいたのか」

 トンマーゾの言葉に付け加えたレオナールを流石だなと褒める。

 「皆、一緒の指輪をしていれば、気づくでしょう」

 レオナールはそう言うが、ティモシーは今聞かされて気が付いた。言われてみれば、エイブどころかトンマーゾもしていた。

 「では、迎え撃つ準備をしなくてはね」

 クレがそう言うと、トンマーゾはそうだなと頷く。

 「え? 何をする気?」

 驚いてティモシーに言うもトンマーゾはニヤッとするだけだ。

 「どこへ行く?」

 無言で部屋から立ち去ろうとするエイブにトンマーゾが問う。

 「……俺、何か手伝う事ある? ないよね? 部屋にいるよ」
 「探りを入れるのはいいけど、ヘマはするなよ」
 「わかってる」

 トンマーゾは、エイブが精神体で辺りを見に行くのだと思いそう声を掛けた。ミュアンなら何か精神体でも撃退する魔術を持ち合わせているかもしれないからだ。
 ティモシーは焦る。ミュアンに会えるのは嬉しいが、ここで捕まっては困るのだ。コーデリアの事を聞きだし、彼女を何とかする方法を考えなくてはいけない。そう、一緒にここから抜け出さなくてはいけない。

 「ティモシー。お前はこっちだ」

 ふとトンマーゾの手を見ればブレスレットのような物を持っている。

 (魔術を封印する気?)

 咄嗟にティモシーは、トンマーゾを突き飛ばし一階に走り去る。

 「おい!」
 「何あの子、ことごとくレジストされたわ!」

 クレは驚いて叫ぶ。

 「っち。めんどくせいな」

 トンマーゾがそう言った途端、一階に下りたティモシーが首の後ろを抑えつつしゃがみ込む!

 「うわー!」
 「抵抗するなよな……」

 トンマーゾが階段を下りながらティモシーにそう言って近づいた。そして、ティモシーの手を取った途端、後ろに吹き飛んだ。
 その場の全員が驚いた。エイブも部屋に入る前だった。

 「え? 何? 今、魔力感じなかったのに……」
 「腹に蹴りを入れただけで、魔術は使ってないから」

 クレの言葉に立ち上がりながらティモシーは返した。
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