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第十三章 嘘に紛れた思惑

第百五十六話

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 レオナールが近くにいると言って、トンマーゾとクレが出て行って数時間。ティモシーはベットの上で膝を抱え待っている。
 ティモシーは、ため息を漏らす。
 その原因は目の前にいる二人にもある。

 「これ美味しいね」
 「でしょう。私のお薦めのクッキーよ」

 ベットの横に椅子を並べて二人で食べている。
 いつの間にこんなに仲良くなったのだろうかと、ティモシーはエイブとザイダの二人を見つめる。いやもしかして最初から仲が良かったのかもしれない。

 (まあ、どっちでもいいけど。ここでいちゃつかなくても……)

 何故二人はここにいるのだろうかと、ジッと見つめていると、エイブがクッキーを持って手を伸ばしてきた。

 「はい。あーん」
 「え?!」
 「欲しいんでしょ?」
 「別に……食べるにしても自分で食べれるし!」

 赤くなりながらティモシーはエイブに言う。

 「それ私に頂戴」

 と、ザイダは口を開けてエイブに催促する。

 「じゃ、はい」

 ポイッと、ザイダの口にクッキーを放り込む。そしてティモシーの手の上に新しいクッキーを乗せる。

 「おいしいよ」
 「……ありがとう」

 ティモシーもクッキーを口にする。サクサクしてほんのり甘い。確かにおいしいクッキーだった。

 「おいしい!」
 「でしょう? もう一つ食べる?」

 ザイダの言葉に素直に頷き、ティモシーはまたクッキーを口に運んだ。

 「おーい。奥の部屋のドア開けておけ!」

 一階から声が掛かる。

 (帰って来た!)

 トンマーゾ達が帰って来たと喜ぶティモシーだがエイブは違った。

 「はあ……。帰ってきちゃったよ」

 言われた通りティモシーの隣の部屋のドアを開ける。エイブの部屋の並びの一番奥だ。
 トンマーゾは疲れ切った顔で階段を上って来た。肩にはブラッドリーが担がれている。その後ろにレオナール、クレと続いて上がって来た。

 「え?! ブラッドリーさん?」
 「その人とやり合ったの?」

 対戦して負かして連れて来たのかと驚いてエイブは問うが、違うとクレが首を横に振った。

 「襲われていたのよ。この国も物騒になったわね~」
 「ごめんなさい……」

 それを聞いたティモシーは、レオナールを向いて言った。襲ったのはハルフォード国。そう思い咄嗟に出た言葉だった。

 「何故、あなたが謝るのです。何も悪くはないでしょう?」
 「でも……。母さんのせいで……」
 「違いますよ。彼女のせいではありません」

 そう返したレオナールの顔は、とても悲しげだった。

 「おい、誰か手伝え」

 トンマーゾは、ブラッドリーをベットに寝かせると振り向きそう言った。

 「傷を縫うんでしょ? 私は出来ないわよ」
 「俺も実践ないけど……」

 クレとエイブが返すと、トンマーゾはティモシーとザイダを見る。二人も首を横に振った。
 ティモシーは、ミュアンが行っているのを見てはいるが、自分でやった事などない。

 「っち。使えない薬師達だな」
 「医者ではないのですから仕方がないでしょう。私が補佐に入ります。所であなたは医者の資格をお持ちなのですか?」

 持っていたとは驚きだとレオナールは言うもトンマーゾはにやっとする。

 「持ってねぇよ。俺が薬師になったのは、技術を盗む為だからな。そういう、おたくだって資格は持ってないだろう?」
 「まあまだ資格は取得しておりませんが、出来ると思います」
 「え? でも、持ってないのに医療行為は……」

 驚いてティモシーは二人に言うもレオナールは何も返さない。いや、返せない。確かに二人には資格はない。だが、出来るのだ。それにそれを持ち出すと、ブラッドリーをこのままにしておかなくてはいけなくなる。病院には連れて行ってはくれないだろう。

 「ティモシー。これからはそういう時代じゃなくなる」

 そうトンマーゾは返した。

 「じゃまだから、お前らは出て行け」

 そしてトンマーゾに言われ、レオナール以外は部屋から出された。
 ティモシーはトボトボと部屋に戻るとベットにごろんと横になる。
 本当は自分でも出来たかもしれない。実践はした事はない。だが練習はした事はあった。本来は薬師でもない者がする行為ではない。でもミュアンは教えていたのである。
 自分の事を棚に上げて言った言葉だった……。

 「あらら。落ち込んじゃった?」

 クレがからかう様に言うもティモシーは答えない。

 「でも、トンマーゾが言った事は本当よ。資格がなくとも……いいえ薬師でなくとも出来る世界になるのよ。魔術の能力が優れた者が頂点に立つ。そんな時代になるのよ」
 「それが組織が作ろうとしている世界?」

 体を起こしつつティモシーはクレに言った。

 「えぇ。魔術師の世界の到来よ。昔のようにね」
 「昔……?」

 ふと思い出す。魔術師の言い伝えの事を。二通りありその一つが最初から魔術師がいたという考え方だ。
 本当にそんな事が可能なのだろうか? いやそれよりもそんな時代が来ては困る。ティモシーは、立派な医者を目指しているのだから――。
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