上 下
146 / 192
第十二章 たがう二人の王子

第百四十六話

しおりを挟む
 レオナール達がヴィルターヌ帝国に着いたのは出発してから七日目の朝だった。宿には泊まったが夜明けと共に出発し先を急いだ。
 帝国に着くとすぐにレオナールとルーファスは、謁見の間に通され二人は無事モゼレスに直接会う事が出来た。
 ルーファスは少し緊張していた。エクランド国には、謁見の間などないからだ。グスターファスと会うのは薬師が多い。普通の会社の様に応接室にて対応していた。国王としてではなく、薬師のトップとして接していたのだ。

 「長旅、ご苦労だった。それと、娘を助けてた頂きありがとう」

 座ったままだが、モゼレスは軽く頭を下げた。
 レオナール達は、片膝を付き彼らもまた軽く頭を下げる。

 「して、協定の件だが、その前に結界を完成させてほしいのだが宜しいか?」
 「はい。構いません」

 モゼレスの問いに、ルーファスは答えた。

 「では、レオナール殿。最後の仕上げを頼む」
 「はい。お任せください」

 城に結界を張る為の魔法陣をそれぞれ違う紙に書きだし、一足先に向かったイリステーナが持って行き、魔法陣を描き終えていたのである。彼女達は馬だった為四日で着いていた。細い道も走る事が出来る彼女達は、近道をすること出来たからだ。
 後は、レオナールがトライアングルを描き、発動させるだけだった。
 レオナールとルーファスは、モゼレスに一例すると謁見の間を出た。

 「早かったな」

 ランフレッドがルーファスに声を掛ける。

 「先にレオ殿が結界を張る事になった」
 「お身体は大丈夫ですか? レオナール様」

 それを聞き、心配そうにブラッドリーはレオナールに声を掛けた。

 「問題ありません」

 その後、レオナールは三つの魔法陣を見渡せる高台に登り、トライアングルを描いた。そして、魔法陣を起動させ三つの魔法陣を中心に寄せる。それはちょうど城で重なり、一つの新たな魔法陣になる。トライアングルは消滅した。これで完成だ。もう一つのトライアングルの使い方だ。
 魔法陣を発動させ続けるのには魔力が必要だが、それは漂う魔力を使う。
 これでもう精神体を連れ出される心配はなくなった。



 「大丈夫ですか?」

 ベットに腰を下ろしたレオナールは、そのまま体を横たえる。

 「大丈夫です。薬も飲みました。魔力を大量に消費したので脱力感があるだけです」

 ブラッドリーは、レオナールの姿を見て大きなため息をついた。

 「これだけの事をしたのと見合う情報を提供して頂けるのでしょうか? 逆に裏切りにあう事も考えられませんか?」
 「余程の事がなければそれはないでしょう。ここには、ルーファスもいるのですから。まあ、エクランド国と協定を結ぶどころか、戦争を吹っ掛ける気なら別ですが。そうなったらルーファスの命も危ういです。ですがもう、これしか方法がないのですから仕方がありません。陛下もルーファスもわかってここに来たはずです……」

 トントントン。
 ドアがノックされ、慌ててレオナールは体を起こした。

 「はい」

 レオナールが返事をすると、失礼しますとドアが開いた。
 開けた兵士はビシッと頭を下げる。そして、モゼレスとピルッガが部屋に入って来た。

 「下がっていろ」
 「っは!」

 ピルッガの指示で兵士はドアを閉めた。レオナールとブラッドリーは、まさかの事態になるのではと警戒する。

 「そのままでよい。お疲れでしょう」
 「はい……」
 「そこに座っても宜しいか?」

 そことは、設置されているソファーの事だ。

 「どうぞ……」

 モゼレスとピルッガはソファーに腰を下ろす。

 「結界は助かった。ありがとう」
 「いえ。お役に立てて光栄です」

 モゼレスの言葉にレオナールはそう返すのが精いっぱいだった。ここはエクランド国ではない。皇帝自ら訪ねて来る事は普通はないのだ。

 「そんなに警戒しないでほしい。私も魔術師だ。あれだけの事をすれば、身体がどういう状態になるかはわかっている。だから出向いたまでだ」
 「お気遣いありがとうございます」
 「で、何を聞きたいのだ? 見返りもなしにここまではしないであろう?」

 レオナールはジッと二人を見つめた。
 普通なら自分の体調を気遣うにしても別に回復するまで待てばいいだけだ。わざわざ情報を提供しに来る事もない。しかも、ルーファスと協定を結ぶ事になっている。その後でもいいはずなのである。
 何故後回しにしないのだろうかと、レオナールは不安になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

処理中です...