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第十二章 たがう二人の王子

第百四十五話

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 レオナール達が出発して七日目。ティモシーは、今日も薬師の仕事に励んでいた。ベネットはずっと他の手伝いになり、三人で仕事をしていた。

 「ねえ、噂聞いた?」
 「噂?」

 アリックの言葉にダグは彼に顔を向ける。ティモシーも彼を見た。

 「やっぱり知らないか。街で今噂があるんだよ。ハルフォード国との戦争の話……」
 「戦争だって!」

 アリックの言葉にティモシーが驚きの声を上げる。

 「なんだよそれ……」

 ティモシー達はずっと王宮内にいた。配達もしていないし噂を耳にする機会がなかった。

 「なんでもこの国でハルフォード国の王子を拘束しているっていう話で、その王子を取り返す為に戦争になるんじゃないかって……。知ってる? その国って魔術師の国なんだって! あり得ないよね? 王子って魔術師って事でしょう? どうやって拘束するんだって話……って、え?」

 アリックの話を聞いていたティモシーが、突然部屋を出て行った。

 「おい、待て!」

 ダグは慌ててティモシーの後を追う。

 「え?! ちょっと二人共!」

 ティモシーは速かった。だが彼がどこに向かおうとしているのかダグはわかっていた。ハミッシュの所だ。ダグも彼が居る部屋に向かった。
 ティモシーはノックもなしに、ハミッシュが居る部屋のドアを開けた!
 そこにグスターファスもおり、驚いてティモシーに振り向いた。

 「どうした?」

 慌てた様子のティモシーにグスターファスは問う。

 「すみません。失礼します」

 そこに追いかけて来たダグも入って来る。

 「噂! 戦争の噂の話を聞きましたか?」

 グスターファスの問いには答えず、逆にティモシーは聞いた。

 「その事か。先ほど耳にした。それで少しハミッシュ殿に話を聞こうと思ってな」

 グスターファスはそう答えた。
 ハミッシュは、今は体を起こせる程に回復していたが、一切話さず口を閉ざしていた。勿論、ヒースもそうである。

 「僕を開放したほうがいい。戦争になる」
 「別に拘束をしているつもりはない。治療をしているだけだが……」
 「父上はそれを知る由もないだろう?」

 ハミッシュはそうグスターファスに返す。
 グスターファスは、返答に困った。帰れば殺されると聞いていた為、ハルフォード国には何も知らせてはいなかった。だがもし、殺されると言うのが嘘だった場合、エクランド国で拘束していると思われても仕方がない。何せ、失敗したとハミッシュは知らせを国に送っていたのだから。

 「まさか、嵌めたのか!」

 ダグは驚いてヒースを見た。彼がそう言っていたからだ。ヒースは何も語らない。

 「失敗して戻ったら殺されるんじゃなかったの?」
 「僕が何故殺されなければならない?」

 ティモシーが問うと、ハミッシュはそう返して来た。ヒースを見ると彼は驚いた様子だ。ハミッシュの態度とは違う。
 ヒースの態度は今も殺されると言った時も演技には見えなかった。彼はそう聞かされていた?
 戦争の噂も故意に流したモノに違いない。戦争をしたくなければ、ハミッシュを返せという事である。真実を知らない者達が、今の状況を見ればハミッシュを拘束していると捉えるだろう。
 ハミッシュが刺されたのは、予想外の出来事。もしかしたら失敗して拘束された時の事を考え、最初から決まっていたのかもしれない。
 ティモシーはそういう考えに至った。

 「ごめんなさい、陛下。母さんの言う通りここに居てはダメだった……。巻き込んでごめんなさい」

 そう謝ったかと思うとティモシーは翻し、部屋を出て行こうとする。

 「待て!」

 ガシッとティモシーの腕をダグが掴む。

 「離せよ!」
 「どこに行くきだ! 今更出て行ってもどうにもならないだろう!」
 「離せって言ってるだろう!」

 ダグの説得にティモシーは耳を貸さず、手を振りほどく。

 「………。っち。ダメか」
 「もしかして眠らせようとかした?」

 ダグの呟きを聞きティモシーはそう聞く。

 「こうなったら……うわぁ!」

 ティモシーを捕らえようと手を伸ばした途端、ダグはティモシーに投げ飛ばされた!

 「ごめん……」
 「………。マジかよ」

 一言謝るとティモシーは部屋を出て行った。



 「ティモシー!」

 ティモシーが正門から出て行こうとすると後ろから声が掛かった。振り返るとアリックが近づいて来る。

 「やっと見つけた! どこ行くき? ダグさんは?」
 「アリックさん、今までありがとう。さようなら」

 今回はちゃんとお別れが言えたとティモシーはほほ笑む。

 「ちょっと待って! ここ辞めるの? どういう事?」
 「ここに居ると迷惑が掛かるし、やっぱり聞きに行く事にしたんだ……」

 アリックには、何を言われているのかわからなかった。

 「待って……」

 引き留めようと掴んできたアリックの手を振りほどくと、ティモシーは走り去る。それを茫然とアリックは見送った――。
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