145 / 192
第十二章 たがう二人の王子
第百四十五話
しおりを挟む
レオナール達が出発して七日目。ティモシーは、今日も薬師の仕事に励んでいた。ベネットはずっと他の手伝いになり、三人で仕事をしていた。
「ねえ、噂聞いた?」
「噂?」
アリックの言葉にダグは彼に顔を向ける。ティモシーも彼を見た。
「やっぱり知らないか。街で今噂があるんだよ。ハルフォード国との戦争の話……」
「戦争だって!」
アリックの言葉にティモシーが驚きの声を上げる。
「なんだよそれ……」
ティモシー達はずっと王宮内にいた。配達もしていないし噂を耳にする機会がなかった。
「なんでもこの国でハルフォード国の王子を拘束しているっていう話で、その王子を取り返す為に戦争になるんじゃないかって……。知ってる? その国って魔術師の国なんだって! あり得ないよね? 王子って魔術師って事でしょう? どうやって拘束するんだって話……って、え?」
アリックの話を聞いていたティモシーが、突然部屋を出て行った。
「おい、待て!」
ダグは慌ててティモシーの後を追う。
「え?! ちょっと二人共!」
ティモシーは速かった。だが彼がどこに向かおうとしているのかダグはわかっていた。ハミッシュの所だ。ダグも彼が居る部屋に向かった。
ティモシーはノックもなしに、ハミッシュが居る部屋のドアを開けた!
そこにグスターファスもおり、驚いてティモシーに振り向いた。
「どうした?」
慌てた様子のティモシーにグスターファスは問う。
「すみません。失礼します」
そこに追いかけて来たダグも入って来る。
「噂! 戦争の噂の話を聞きましたか?」
グスターファスの問いには答えず、逆にティモシーは聞いた。
「その事か。先ほど耳にした。それで少しハミッシュ殿に話を聞こうと思ってな」
グスターファスはそう答えた。
ハミッシュは、今は体を起こせる程に回復していたが、一切話さず口を閉ざしていた。勿論、ヒースもそうである。
「僕を開放したほうがいい。戦争になる」
「別に拘束をしているつもりはない。治療をしているだけだが……」
「父上はそれを知る由もないだろう?」
ハミッシュはそうグスターファスに返す。
グスターファスは、返答に困った。帰れば殺されると聞いていた為、ハルフォード国には何も知らせてはいなかった。だがもし、殺されると言うのが嘘だった場合、エクランド国で拘束していると思われても仕方がない。何せ、失敗したとハミッシュは知らせを国に送っていたのだから。
「まさか、嵌めたのか!」
ダグは驚いてヒースを見た。彼がそう言っていたからだ。ヒースは何も語らない。
「失敗して戻ったら殺されるんじゃなかったの?」
「僕が何故殺されなければならない?」
ティモシーが問うと、ハミッシュはそう返して来た。ヒースを見ると彼は驚いた様子だ。ハミッシュの態度とは違う。
ヒースの態度は今も殺されると言った時も演技には見えなかった。彼はそう聞かされていた?
戦争の噂も故意に流したモノに違いない。戦争をしたくなければ、ハミッシュを返せという事である。真実を知らない者達が、今の状況を見ればハミッシュを拘束していると捉えるだろう。
ハミッシュが刺されたのは、予想外の出来事。もしかしたら失敗して拘束された時の事を考え、最初から決まっていたのかもしれない。
ティモシーはそういう考えに至った。
「ごめんなさい、陛下。母さんの言う通りここに居てはダメだった……。巻き込んでごめんなさい」
そう謝ったかと思うとティモシーは翻し、部屋を出て行こうとする。
「待て!」
ガシッとティモシーの腕をダグが掴む。
「離せよ!」
「どこに行くきだ! 今更出て行ってもどうにもならないだろう!」
「離せって言ってるだろう!」
ダグの説得にティモシーは耳を貸さず、手を振りほどく。
「………。っち。ダメか」
「もしかして眠らせようとかした?」
ダグの呟きを聞きティモシーはそう聞く。
「こうなったら……うわぁ!」
ティモシーを捕らえようと手を伸ばした途端、ダグはティモシーに投げ飛ばされた!
「ごめん……」
「………。マジかよ」
一言謝るとティモシーは部屋を出て行った。
「ティモシー!」
ティモシーが正門から出て行こうとすると後ろから声が掛かった。振り返るとアリックが近づいて来る。
「やっと見つけた! どこ行くき? ダグさんは?」
「アリックさん、今までありがとう。さようなら」
今回はちゃんとお別れが言えたとティモシーはほほ笑む。
「ちょっと待って! ここ辞めるの? どういう事?」
「ここに居ると迷惑が掛かるし、やっぱり聞きに行く事にしたんだ……」
アリックには、何を言われているのかわからなかった。
「待って……」
引き留めようと掴んできたアリックの手を振りほどくと、ティモシーは走り去る。それを茫然とアリックは見送った――。
「ねえ、噂聞いた?」
「噂?」
アリックの言葉にダグは彼に顔を向ける。ティモシーも彼を見た。
「やっぱり知らないか。街で今噂があるんだよ。ハルフォード国との戦争の話……」
「戦争だって!」
アリックの言葉にティモシーが驚きの声を上げる。
「なんだよそれ……」
ティモシー達はずっと王宮内にいた。配達もしていないし噂を耳にする機会がなかった。
「なんでもこの国でハルフォード国の王子を拘束しているっていう話で、その王子を取り返す為に戦争になるんじゃないかって……。知ってる? その国って魔術師の国なんだって! あり得ないよね? 王子って魔術師って事でしょう? どうやって拘束するんだって話……って、え?」
アリックの話を聞いていたティモシーが、突然部屋を出て行った。
「おい、待て!」
ダグは慌ててティモシーの後を追う。
「え?! ちょっと二人共!」
ティモシーは速かった。だが彼がどこに向かおうとしているのかダグはわかっていた。ハミッシュの所だ。ダグも彼が居る部屋に向かった。
ティモシーはノックもなしに、ハミッシュが居る部屋のドアを開けた!
そこにグスターファスもおり、驚いてティモシーに振り向いた。
「どうした?」
慌てた様子のティモシーにグスターファスは問う。
「すみません。失礼します」
そこに追いかけて来たダグも入って来る。
「噂! 戦争の噂の話を聞きましたか?」
グスターファスの問いには答えず、逆にティモシーは聞いた。
「その事か。先ほど耳にした。それで少しハミッシュ殿に話を聞こうと思ってな」
グスターファスはそう答えた。
ハミッシュは、今は体を起こせる程に回復していたが、一切話さず口を閉ざしていた。勿論、ヒースもそうである。
「僕を開放したほうがいい。戦争になる」
「別に拘束をしているつもりはない。治療をしているだけだが……」
「父上はそれを知る由もないだろう?」
ハミッシュはそうグスターファスに返す。
グスターファスは、返答に困った。帰れば殺されると聞いていた為、ハルフォード国には何も知らせてはいなかった。だがもし、殺されると言うのが嘘だった場合、エクランド国で拘束していると思われても仕方がない。何せ、失敗したとハミッシュは知らせを国に送っていたのだから。
「まさか、嵌めたのか!」
ダグは驚いてヒースを見た。彼がそう言っていたからだ。ヒースは何も語らない。
「失敗して戻ったら殺されるんじゃなかったの?」
「僕が何故殺されなければならない?」
ティモシーが問うと、ハミッシュはそう返して来た。ヒースを見ると彼は驚いた様子だ。ハミッシュの態度とは違う。
ヒースの態度は今も殺されると言った時も演技には見えなかった。彼はそう聞かされていた?
戦争の噂も故意に流したモノに違いない。戦争をしたくなければ、ハミッシュを返せという事である。真実を知らない者達が、今の状況を見ればハミッシュを拘束していると捉えるだろう。
ハミッシュが刺されたのは、予想外の出来事。もしかしたら失敗して拘束された時の事を考え、最初から決まっていたのかもしれない。
ティモシーはそういう考えに至った。
「ごめんなさい、陛下。母さんの言う通りここに居てはダメだった……。巻き込んでごめんなさい」
そう謝ったかと思うとティモシーは翻し、部屋を出て行こうとする。
「待て!」
ガシッとティモシーの腕をダグが掴む。
「離せよ!」
「どこに行くきだ! 今更出て行ってもどうにもならないだろう!」
「離せって言ってるだろう!」
ダグの説得にティモシーは耳を貸さず、手を振りほどく。
「………。っち。ダメか」
「もしかして眠らせようとかした?」
ダグの呟きを聞きティモシーはそう聞く。
「こうなったら……うわぁ!」
ティモシーを捕らえようと手を伸ばした途端、ダグはティモシーに投げ飛ばされた!
「ごめん……」
「………。マジかよ」
一言謝るとティモシーは部屋を出て行った。
「ティモシー!」
ティモシーが正門から出て行こうとすると後ろから声が掛かった。振り返るとアリックが近づいて来る。
「やっと見つけた! どこ行くき? ダグさんは?」
「アリックさん、今までありがとう。さようなら」
今回はちゃんとお別れが言えたとティモシーはほほ笑む。
「ちょっと待って! ここ辞めるの? どういう事?」
「ここに居ると迷惑が掛かるし、やっぱり聞きに行く事にしたんだ……」
アリックには、何を言われているのかわからなかった。
「待って……」
引き留めようと掴んできたアリックの手を振りほどくと、ティモシーは走り去る。それを茫然とアリックは見送った――。
0
お気に入りに追加
676
あなたにおすすめの小説
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~
有楽 森
ファンタジー
人生最良の日になるはずだった俺は、運命の無慈悲な采配により異世界へと落ちてしまった。
地球に戻りたいのに戻れない。狼モドキな人間と地球人が助けてくれたけど勇者なんて呼ばれて……てか他にも勇者候補がいるなら俺いらないじゃん。
やっとデートまでこぎつけたのに、三年間の努力が水の泡。それにこんな化け物が出てくるとか聞いてないし。
あれ?でも……俺、ここを知ってる?え?へ?どうして俺の記憶通りになったんだ?未来予知?まさかそんなはずはない。でもじゃあ何で俺はこれから起きる事を知ってるんだ?
努力の優等生である中学3年の主人公が何故か異世界に行ってしまい、何故か勇者と呼ばれてしまう。何故か言葉を理解できるし、何故かこれから良くないことが起こるって知っている。
事件に巻き込まれながらも地球に返る為、異世界でできた友人たちの為に、頑張って怪物に立ち向かう。これは中学男子学生が愛のために頑張る恋愛冒険ファンタジーです。
第一章【冬に咲く花】は完結してます。
他のサイトに掲載しているのを、少し書き直して転載してます。若干GL・BL要素がありますが、GL・BLではありません。前半は恋愛色薄めで、ヒロインがヒロインらしくなるのは後半からです。主人公の覚醒?はゆっくり目で、徐々にといった具合です。
*印の箇所は、やや表現がきわどくなっています。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる