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第十二章 たがう二人の王子

第百三十九話

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 もう夕刻だが、グスターファス以外は何となくレオナールの部屋にいた。イリステーナとフレアも来ている。聞こえてくるのは溜息ばかりだ。

 「失礼する」

 ノックと共に声が聞こえ、グスターファスが部屋に入って来る。そして、その後ろに驚く人物がいた。レオナールだ!
 皆驚き一瞬シーンと静まり返る。

 「レ、レオ殿! ご無事でしたか!」

 ルーファスはソファーからガバッと立ち上がり興奮して叫んだ。

 「レオナール王子が生きていた! よかった……」

 ティモシーもルーファス同様ソファーから立ち上がる。その顔は今にも泣きそうである。

 「陛下もそうですが、皆さん大袈裟ですね。体調はもう大丈夫ですよ」
 「大丈夫ではないでしょう!」

 レオナールが言うとブラッドリーが強めに否定する。チラッとレオナールはブラッドリーを見てから視線をベットに移す。

 「ハミッシュがここを使っているときいたのですが……」

 寝ているハミッシュを伺う様にベットをレオナールは見た。そして、ただ寝ているだけではないと気づくと、小走りでベットに近づいた。
 近くで彼を見たレオナールの顔は顔面蒼白になる。

 「一体何が……。国に連絡用の魔術が送られたようなので、ティモシー達が襲われたのかもと思い戻って来たのですが……。何故ハミッシュがこんな事に? 失敗したと送ったのはハミッシュだったのですか……?」

 そう聞くレオナールの声の最後は震えていた。
 ハミッシュが最後に放った魔術は、連絡用の物だった。それを見たレオナールは、ティモシー達が襲われたと思い途中で引き返して来たのだった。レオナールの体調が悪かった為に結局は宿に泊まり、まだエクランド国内にいたのである。

 「トンマーゾに刺されました。一瞬の事で対応できず……申し訳ありません」

 ランフレッドがそう頭を下げた。
 彼のせいでもないし、あの時は逆に敵対していた。だが、元々ランフレッド達はハミッシュを傷つけるつもりなどなかった。取りあえず諦めさせようと思ったのである。しかしきっと、それは叶っていなかっただろう。彼はどんな手段でもという感じで襲ってきていた。自分の命が掛かっているのだから当然なのかもしれないが。

 「トンマーゾは、私に恩を売ったのよ」

 そう言ったミュアンに驚いて皆振り向く。

 「彼なら魔術でハミッシュ王子を殺せたでしょう。でもそうしなかった。急所もはずして刺していた。あの場を納める為にした事よ。彼がしなければ、私がしていたでしょうね……。何せもうあの場を切り抜けるには、それしか方法がなかったのですから」

 レオナールは、そう説明するミュアンをジッと見つめていた。彼女の言葉を誰も否定しない。それは、ハミッシュが本気でミュアン達を襲い、彼を倒さなければ止める事が出来なかった証拠だ。

 「ち、父上は何を考えて……」

 視線をハミッシュに戻しレオナールは呟く。

 「レオナール殿、ギデオン殿に近づく者はおりませんでしたか? 自分の子供達を殺そうとするなど、誰かがそそのかしたとしか思えん」

 グスターファスの言葉にレオナールは驚いて振り向いた。

 「殺そうとした……?」

 グスターファスは真剣な顔で頷いた。

 「ま、まさか……」
 「ハミッシュ殿は、そう言っていました。ティモシー達を庇い立てすれば、あなたは死罪になると……。そして、殺すのに失敗して戻っても同じ処遇だとも」

 失敗してもというのはヒースが言った事だが同じ事だ。レオナールは信じられないと首を横に振る。

 「そ、そんなはずはありません! ハミッシュは跡取りです! ハミッシュを殺そうとする訳がありません……」
 「何故第一王子のあなたを差し置いてハミッシュ殿が継ぐのです! そんな段取りが正式に伝えられていたのですか?」

 ルーファスも驚きの声を上げる。

 「……言わずとも知れた事です。私は体が弱かった。決定的なのは魔術の能力。だからコーデリアさんを側室に迎えたのですから……」
 「側室?」

 ティモシーは聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 「私の国は、一夫多妻制なのです。ですが余程の事がなければ、妻を複数もちません。私は見限られたのです……」

 ハミッシュはレオナールの弟だったが母親が違ったのである。

 「それは違います! 確かにレオナール様に何かあったらという思いはあったでしょうが、継ぐのはレオナール様です!」

 ブラッドリーがそう言うもレオナールは首を横に振り、その場に膝から崩れ落ちるように座り込んだ。

 「レオナール様」
 「私が……私が全て壊してしまったのですね……」

 レオナールは俯き焦心して呟いた。
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