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第十一章 彼らの選択
第百三十二話
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「ミュアンさん……」
ミュアンは呼ばれ、声に振り向いた。
「あら、確かあなたはエイブだったかしら?」
「はい。覚えていてくれたんだ。嬉しいなぁ」
エイブは、ミュアンにニッコリと笑顔で言った。
「あなた生きていたのね。皇帝を助け出したって聞いたけど、組織を抜けたのかしら?」
「いやいや。実はその組織からの命令で、あなたを発見したら知らせるように言われたんだけど、話しかけてはダメって言われていないので少しお話をしたいなっと思いまして……」
「何を聞きたいのかしら?」
笑顔のエイブにミュアンも笑顔で返した。
「あなたが組織に追われている訳を聞きたいかな。俺、いつも蚊帳の外でさ、皇帝の時も何一つ聞かされてなかったんだよね。今回もただ命令されただけだからさ。聞いてもどうせ教えてくれないし。何か心当たりある?」
ミュアンは、吹き出し本気で笑い出した。
「あなた面白い事聞くのね。いいわよ。教えてあげる」
「え?」
まさか二つ返事で帰って来るとは思っていなかったエイブは驚く。
「ダメって言われると思っていた? 雑談している間に色々聞き出そうとでも?」
「見た目はティモシーさんと似ているのに、中身は全然違うね」
「それは勿論。そう育てましたから」
「そう。でも、ちょっと素直過ぎて危なかっしいよね」
何故かミュアンはジッとエイブを見つめ一歩近づいて来る。エイブは一歩引いた。
「あら? 何故逃げるのかしら?」
「あぁ……。何となく。多分本能的に?」
「私、そんなに怖いかしら? 今日は怖がられてばかりだわ」
そう言ってミュアンはほほ笑むが、目は笑っていない。
「……で、そちらの条件は?」
「条件?」
「いやだって、情報をタダで教えてくれる訳ないよね?」
「あら、タダで教えてあげるわよ。別に組織が知っている情報だもの。私にデメリットはないわ」
エイブは、ジッとミュアンを探るように見つめる。
「で、メリットはあるわけ?」
「ふふふ……」
フッとミュアンは、エイブの左耳たぶに手を伸ばした。
「いた!」
とっさにエイブは耳を抑える。
「え? 何で痛みが?」
「あなたは精神と体を離しているかもしれないけど、私の精神は体に入ったままなのよ。だからこんな事もできちゃうの」
何が起きたかと驚いているエイブにミュアンは説明をした。
「で、俺は何をされたわけ?」
「刻印を刻んだだけよ。体に付けた訳ではないから、余程でなければバレはしないわ。それは、私に話しかける事が出来るものなの。耳に触れて私に呼びかければOKよ」
「OKよって。怖い事するなぁ。普通、精神に刻む?」
エイブには笑顔はなかった。
「はぁ。失敗した。もっと用心すればよかったよ。で、俺に何をさせたいわけ?」
「あなた、したたかよね? 組織でも上手く立ち回れそうだわ。ティモシーを見守ってほしいのよ」
あまりの内容にエイブは一瞬思考が止まった。
「いや、ちょっと待って。俺達敵同士だよね? どうすれと?」
「言葉通りだけど? 組織の者はティモシーを殺そうとはしない。するのは、ヴィルターヌ帝国とハルフォード国よ」
「え……」
「興味を持ったかしら?」
ミュアンはニッコリ微笑む。
「話は聞くけどさ。俺、今魔力を練れなくされているんだよね。薬でも魔術でもない方法で。いつ練れる様になるか人体実験されている身なんだ。だから期待されても困るんだよね」
「ふうん。問題ないと思うわよ」
「問題ないって……。近くにいるんだから自分で守ればいいだろう?」
エイブの言葉にフッとミュアンは悲し気な顔を浮かべた。
「出来るだけそうするわ。でももし組織に捕まった時は宜しくね」
「マジで押し付ける気かよ……」
エイブは大きなため息をついた。
「厄介な人に話掛けちゃったよ……」
ミュアンはニッコリ微笑むと、エイブに語り始めた――。
ミュアンは呼ばれ、声に振り向いた。
「あら、確かあなたはエイブだったかしら?」
「はい。覚えていてくれたんだ。嬉しいなぁ」
エイブは、ミュアンにニッコリと笑顔で言った。
「あなた生きていたのね。皇帝を助け出したって聞いたけど、組織を抜けたのかしら?」
「いやいや。実はその組織からの命令で、あなたを発見したら知らせるように言われたんだけど、話しかけてはダメって言われていないので少しお話をしたいなっと思いまして……」
「何を聞きたいのかしら?」
笑顔のエイブにミュアンも笑顔で返した。
「あなたが組織に追われている訳を聞きたいかな。俺、いつも蚊帳の外でさ、皇帝の時も何一つ聞かされてなかったんだよね。今回もただ命令されただけだからさ。聞いてもどうせ教えてくれないし。何か心当たりある?」
ミュアンは、吹き出し本気で笑い出した。
「あなた面白い事聞くのね。いいわよ。教えてあげる」
「え?」
まさか二つ返事で帰って来るとは思っていなかったエイブは驚く。
「ダメって言われると思っていた? 雑談している間に色々聞き出そうとでも?」
「見た目はティモシーさんと似ているのに、中身は全然違うね」
「それは勿論。そう育てましたから」
「そう。でも、ちょっと素直過ぎて危なかっしいよね」
何故かミュアンはジッとエイブを見つめ一歩近づいて来る。エイブは一歩引いた。
「あら? 何故逃げるのかしら?」
「あぁ……。何となく。多分本能的に?」
「私、そんなに怖いかしら? 今日は怖がられてばかりだわ」
そう言ってミュアンはほほ笑むが、目は笑っていない。
「……で、そちらの条件は?」
「条件?」
「いやだって、情報をタダで教えてくれる訳ないよね?」
「あら、タダで教えてあげるわよ。別に組織が知っている情報だもの。私にデメリットはないわ」
エイブは、ジッとミュアンを探るように見つめる。
「で、メリットはあるわけ?」
「ふふふ……」
フッとミュアンは、エイブの左耳たぶに手を伸ばした。
「いた!」
とっさにエイブは耳を抑える。
「え? 何で痛みが?」
「あなたは精神と体を離しているかもしれないけど、私の精神は体に入ったままなのよ。だからこんな事もできちゃうの」
何が起きたかと驚いているエイブにミュアンは説明をした。
「で、俺は何をされたわけ?」
「刻印を刻んだだけよ。体に付けた訳ではないから、余程でなければバレはしないわ。それは、私に話しかける事が出来るものなの。耳に触れて私に呼びかければOKよ」
「OKよって。怖い事するなぁ。普通、精神に刻む?」
エイブには笑顔はなかった。
「はぁ。失敗した。もっと用心すればよかったよ。で、俺に何をさせたいわけ?」
「あなた、したたかよね? 組織でも上手く立ち回れそうだわ。ティモシーを見守ってほしいのよ」
あまりの内容にエイブは一瞬思考が止まった。
「いや、ちょっと待って。俺達敵同士だよね? どうすれと?」
「言葉通りだけど? 組織の者はティモシーを殺そうとはしない。するのは、ヴィルターヌ帝国とハルフォード国よ」
「え……」
「興味を持ったかしら?」
ミュアンはニッコリ微笑む。
「話は聞くけどさ。俺、今魔力を練れなくされているんだよね。薬でも魔術でもない方法で。いつ練れる様になるか人体実験されている身なんだ。だから期待されても困るんだよね」
「ふうん。問題ないと思うわよ」
「問題ないって……。近くにいるんだから自分で守ればいいだろう?」
エイブの言葉にフッとミュアンは悲し気な顔を浮かべた。
「出来るだけそうするわ。でももし組織に捕まった時は宜しくね」
「マジで押し付ける気かよ……」
エイブは大きなため息をついた。
「厄介な人に話掛けちゃったよ……」
ミュアンはニッコリ微笑むと、エイブに語り始めた――。
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