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第十一章 彼らの選択

第百三十話

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 ティモシーとミュアンは二人っきりで部屋に居た。

 「母さん……」

 ソファーに座るミュアンの前にティモシーは立ち話しかける。

 「俺、ちゃんと話を聞きたいんだ。その……どんな話を聞いても母さんの事は嫌いにならないから……」

 ジッとミュアンは、ティモシーを見つめた。

 「嫌われるから話さない訳じゃないわ。私の心の準備が出来ていないからが正しいの……」
 「母さん……。もしかして、一人で何とかしようとしているの? それ、陛下とかレオナール王子とかと一緒に出来ないの?」

 ミュアンは、首を横に振った。

 「レオナール王子にはきっと、荷が重いわ。陛下に話せば色んな物を背負わせる事になる。あなたもそうよ。出来ればあなたには背負わせたくない。わかってるわ。私の我が儘だって」
 「母さん一人じゃ、無理だよ。トンマーゾさんって言う人は切れ者だよ。俺、その人に首の後ろに刻印を刻まれたんだ。俺は、その人からは逃れられない! 逃げるだけじゃだめなんだよ! 背負うとかじゃなくて、協力しあって行こうよ」

 ミュアンは頷いた。ティモシーはホッとする。ミュアンは、ティモシーの手を引っ張り引き寄せると彼を抱きしめた。

 「私達の命を狙うのは、魔術師の組織ではないわ。ヴィルターヌ国とハルフォード国よ。レオナール王子に頼ると彼はきっと板挟みになるわ。魔術師の組織は、邪なるモノを開放するつもりなのよ。それには、三カ国にそれぞれ伝わる呪文が必要でね。どれか一つでもかければ、それが出来ない」

 ティモシーは、ミュアンの胸の中で目を見開いて驚く。

 「そ、それって……。魔術師の組織を潰すより俺達を殺した方が楽って事だから襲ってくるって事?」
 「そうよ。私達は魔術師の組織に捕まっても直ぐには殺されないでしょう。ですが、二カ国は刺客を送ってくるかもしれないわ。もしかしたら手段を選ばないかもしれない」
 「ねえ。それなら陛下にお願いしてもいいんじゃない?」

 ミュアンは、ティモシーを離し顔を望み込む。

 「封印を解かれると魔術師はタダの人間になるの。彼らはそれを知られたくはないはず。知られれば、魔術師の組織だけではなく、他の者もそうしようと企てるかもしれないから……」
 「で、でもそれっておかしくない? 魔術師の組織の人達だって魔術師じゃなくなっちゃうって事だよね? 何のメリットがあってそんな事を……。それにエイブさんは、目的は魔術師の世界の復活って言っていたよ」

 ティモシーは、ジッとミュアンを見つめ問うと、彼女は俯いた。そして、暫くして語り出す。

 「そうですか。復活でしたか。ですが二カ国にしてみれば、どちらも妨げたいでしょう」

 (そうかもしれないけど、今の間って何? まだ何か隠している?)

 「状況はわかったけど、それずっと逃げ回る事になるよね? 流石に無理だと思うけど……」
 「私もいつかはこの日が来ると思って色々準備はしていたのだけど、まだ整ってないのよ」
 「準備?」

 ミュアンは頷いた。

 「例えば、魔術と調合の融合とか」
 「え!」

 ミュアンは、色々と研究をしていたのだった。

 「まあ、戦うのにはこれは不向きだけど。そういう様な事をしていたの。兎に角ここにいては、エクランド国まで巻き込まれる。だから明日の早朝にここを出るわよ。いいわね!」
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