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第十一章 彼らの選択
第百二十九話
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ミュアンは、グスターファスの語りを静かに聞いていた。
「今回、彼が魔術師の組織を追っているのは、私が彼に依頼したからなのです。彼は快く受けてくれました。ですので、この件に関して言いたい事があれば、私に述べてほしいのです」
「そうでしたか……では、述べさせて頂きます」
そう言って見つめるミュアンの瞳は強い意思を見て取れた。
「私は魔術師の組織に追われている身ですが、殺そうと追っ手を寄こすのは、ハルフォード国とヴィルターヌ帝国でしょう。確かにあの王子にはその意思はないようですが、国王は違うと思います。ですので、両国の関係を保ちたいのであれば、もう私達には係わらないで下さい」
その言葉にグスターファスは、言葉が出なかった。彼女は嘘は言っていないと感じたからだ。
グスターファスは一呼吸おいて話し出す。
「その忠告はありがたいが、魔術師の組織の情報は私としてはほしいのです。イリステーナ皇女も命がけで助けを求めて来た。せめて、彼らの目的を知っているなら教えてほしい」
「私が逃げだのは、実は殺されそうになったからなのです。勿論、文献も悪用されるとわかっていたから持ち出しました。魔術師の組織の狙いは、邪なるモノの封印を解く事でしょう。その為には、私が必要と気が付いたのです。ですのでそれを阻止するには、私達を殺すのが手っ取り早いのです。二国が、魔術師の組織の狙いに気づけばきっと、私とティモシーの命を狙うでしょう。それだけで、防げるのですから……」
本当の話だとしても信じられないとグスターファスはジッと彼女を見つめた。
「その話が本当なら、私はあなた達を保護します。薬師であるあなた達を守るのは当然の権利です」
「協定があったとしても戦争になるかもしれませんよ? 二国にとってはそれほど重要な事なのですから……」
「そこまで重要な事だと知りながら何故話して下さらないのですか! 一個人でどうこう出来る問題でもないでしょう? それとも魔術師ではない私達では、お役に立てませんか!」
グスターファスは、今までは優しく語りかけていたが、つい強い口調になってしまった。
「そうですね。陛下が魔術師の組織を止められると言うのであれば、何とかなるか知れません。ですが、実際には不可能に近いでしょう。それにこれは私の推論です。もしかしたら魔術師の組織の狙いは別にあるかも知れません。ですが、ヴィルターヌ帝国の皇帝を拉致したのなら、私の推論は残念ながら当たっているでしょう」
「彼らの目的を阻止するのには、それしか方法がないのですか?」
ミュアンは俯く。
「先ほども言った通り、それが一番手っ取り早いのです。そして、二国は自分たちの安全も確保できる」
グスターファスは首を横に振った。
「それだけでは私にはわかりかねる。あなたが推察した全てを教えてほしい」
今度はミュアンが首を横に振った。
「それを知れば、あなたも背負う事になってしまいます。できません!」
ミュアンが頑なに言わないのは自分の為ではなく、グスターファス、いやエクランド国の為だった。
「そこまで考えて下さっておりましたか。ありがとう。ですが、あなたはあなた方の事を考えて欲しいのです。この国の事は私が責任を持ちます。どうでしょう。今日一日考えてみては頂けませんか? ティモシーと一晩親子水いらずで泊まってはどうでしょうか?」
「………」
と、その時ドアがノックされた。
「陛下。レオナールです」
グスターファスは立ち上がり、ドアを開けた。
「お話し中、申し訳ありません。その……私は一度国に戻ります。父上から戻れと手紙も入っていたのです。……お役に立てず申し訳ありません」
レオナールはいつもより元気なく言うと、深々と頭を下げた。
「いや、十分助かった」
「先ほどはきつい事を言って悪かったわ。でも手を引いて下さい。それがあなたの為なのです」
ミュアンはレオナールに近づき、顔を上げた彼をジッと見つめて言った。
「私の為ですか……」
ミュアンは頷く。
「あなたは、頭は切れるのですが誠実すぎます」
「何故でしょうか。褒められている気がしません……」
「褒めている訳ではありませんので。長所でもあり短所でもあると言っているのです」
「心しておきます。では、失礼します」
レオナールは軽く会釈すると、自分の部屋に向かって行った。
「彼はもう、ここには戻って来れないかもしれませんね。きっとハルフォード国にも魔術師の組織は接触を図っているはずです。私達を渡せと言って来るかもしれませんよ? それでも私達を泊めますか?」
ミュアンの言葉に、グスターファスは勿論と頷いた。
「そこまで言うのなら泊まらせて頂きます。部屋はティモシーが今使っている部屋で宜しいです」
「是非、二人で話し合ってほしい」
そうグスターファスはミュアンに言った。
その後ほどなくして、レオナールとブラッドリーは、エクランド国を出発した。ブラッドリーは、レオナールの体調を気遣い明日にしてはと言ったが、今日中に出発するようにと国王の命令だと馬車を走らせた。
「今回、彼が魔術師の組織を追っているのは、私が彼に依頼したからなのです。彼は快く受けてくれました。ですので、この件に関して言いたい事があれば、私に述べてほしいのです」
「そうでしたか……では、述べさせて頂きます」
そう言って見つめるミュアンの瞳は強い意思を見て取れた。
「私は魔術師の組織に追われている身ですが、殺そうと追っ手を寄こすのは、ハルフォード国とヴィルターヌ帝国でしょう。確かにあの王子にはその意思はないようですが、国王は違うと思います。ですので、両国の関係を保ちたいのであれば、もう私達には係わらないで下さい」
その言葉にグスターファスは、言葉が出なかった。彼女は嘘は言っていないと感じたからだ。
グスターファスは一呼吸おいて話し出す。
「その忠告はありがたいが、魔術師の組織の情報は私としてはほしいのです。イリステーナ皇女も命がけで助けを求めて来た。せめて、彼らの目的を知っているなら教えてほしい」
「私が逃げだのは、実は殺されそうになったからなのです。勿論、文献も悪用されるとわかっていたから持ち出しました。魔術師の組織の狙いは、邪なるモノの封印を解く事でしょう。その為には、私が必要と気が付いたのです。ですのでそれを阻止するには、私達を殺すのが手っ取り早いのです。二国が、魔術師の組織の狙いに気づけばきっと、私とティモシーの命を狙うでしょう。それだけで、防げるのですから……」
本当の話だとしても信じられないとグスターファスはジッと彼女を見つめた。
「その話が本当なら、私はあなた達を保護します。薬師であるあなた達を守るのは当然の権利です」
「協定があったとしても戦争になるかもしれませんよ? 二国にとってはそれほど重要な事なのですから……」
「そこまで重要な事だと知りながら何故話して下さらないのですか! 一個人でどうこう出来る問題でもないでしょう? それとも魔術師ではない私達では、お役に立てませんか!」
グスターファスは、今までは優しく語りかけていたが、つい強い口調になってしまった。
「そうですね。陛下が魔術師の組織を止められると言うのであれば、何とかなるか知れません。ですが、実際には不可能に近いでしょう。それにこれは私の推論です。もしかしたら魔術師の組織の狙いは別にあるかも知れません。ですが、ヴィルターヌ帝国の皇帝を拉致したのなら、私の推論は残念ながら当たっているでしょう」
「彼らの目的を阻止するのには、それしか方法がないのですか?」
ミュアンは俯く。
「先ほども言った通り、それが一番手っ取り早いのです。そして、二国は自分たちの安全も確保できる」
グスターファスは首を横に振った。
「それだけでは私にはわかりかねる。あなたが推察した全てを教えてほしい」
今度はミュアンが首を横に振った。
「それを知れば、あなたも背負う事になってしまいます。できません!」
ミュアンが頑なに言わないのは自分の為ではなく、グスターファス、いやエクランド国の為だった。
「そこまで考えて下さっておりましたか。ありがとう。ですが、あなたはあなた方の事を考えて欲しいのです。この国の事は私が責任を持ちます。どうでしょう。今日一日考えてみては頂けませんか? ティモシーと一晩親子水いらずで泊まってはどうでしょうか?」
「………」
と、その時ドアがノックされた。
「陛下。レオナールです」
グスターファスは立ち上がり、ドアを開けた。
「お話し中、申し訳ありません。その……私は一度国に戻ります。父上から戻れと手紙も入っていたのです。……お役に立てず申し訳ありません」
レオナールはいつもより元気なく言うと、深々と頭を下げた。
「いや、十分助かった」
「先ほどはきつい事を言って悪かったわ。でも手を引いて下さい。それがあなたの為なのです」
ミュアンはレオナールに近づき、顔を上げた彼をジッと見つめて言った。
「私の為ですか……」
ミュアンは頷く。
「あなたは、頭は切れるのですが誠実すぎます」
「何故でしょうか。褒められている気がしません……」
「褒めている訳ではありませんので。長所でもあり短所でもあると言っているのです」
「心しておきます。では、失礼します」
レオナールは軽く会釈すると、自分の部屋に向かって行った。
「彼はもう、ここには戻って来れないかもしれませんね。きっとハルフォード国にも魔術師の組織は接触を図っているはずです。私達を渡せと言って来るかもしれませんよ? それでも私達を泊めますか?」
ミュアンの言葉に、グスターファスは勿論と頷いた。
「そこまで言うのなら泊まらせて頂きます。部屋はティモシーが今使っている部屋で宜しいです」
「是非、二人で話し合ってほしい」
そうグスターファスはミュアンに言った。
その後ほどなくして、レオナールとブラッドリーは、エクランド国を出発した。ブラッドリーは、レオナールの体調を気遣い明日にしてはと言ったが、今日中に出発するようにと国王の命令だと馬車を走らせた。
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