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第十一章 彼らの選択

第百十九話

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 まだ夜が明ける前の森は不気味な影を落としている。
 森の中に空中高く、魔法陣が描かれていた。その魔法陣の上に一人の人物がいた。そして、その真下は明るかった。そこには、城がそびえ立っていたからだ。
 ヴィルターヌ帝国の城だ!
 少し時間を遡り、ティモシーがトンマーゾと夢で接触する前の時刻――。



 「まさか、こんな所だったとは。盲点だよ。お蔭で探すのに時間が掛かってしまった」
 「……エイブなのか?」

 呟いた人物に魔法陣の中にいる人物は話しかけた。

 「えーそうですよ。モゼレス様。お久しぶりです」

 エイブは、そう言って頭を下げた。

 「戻って来たのか!」

 モゼレスは嬉しそうに言うが、エイブは首を横に振る。

 「俺は、あなたに恩を返しにきました。この魔法陣は、下から見ても見えない様になっているので、誰も気づかなかったようです」

 モゼレスは、何か言いたげにエイブをジッと見つめる。

 「では何故、俺がここにいるかですか? 今、体の方は捕らわれていまして。精神で動いているんです。ですので、俺が直接助け出す事は出来ないので、誰かに伝えておきます」
 「誰から聞いたのだ? 私がこうなっていると……」

 エイブは、目を伏せた。

 「俺は、あなたの味方ではありません。……俺は組織の人間です。ただ、生きている間に恩だけは返しておこうと思っただけです。ですのでここにはもう、戻ってきません……」

 モゼレスは、エイブの言葉に表情を曇らせる。

 「そんな事をして大丈夫なのか?」
 「俺の心配などしなくていいです! では、失礼します」
 「エイブ!」

 モゼレスが叫ぶもエイブはスッと下におりて行き、城の内部に入って行った。
 そして、ある部屋に入ると机に寝潰している人物がいた。それは、皇太子ピルッガだ。

 「寝るならベットで寝ればいいのに。まあ、それも無理な相談か……」

 エイブはそう呟くと、ピルッガの精神に語り掛ける――。



 「ピルッガ様……」

 暗闇の中に佇むピルッガは、エイブに振り向き驚いた顔を見せた。

 「……夢の中か?」
 「お疲れなら、ちゃんとベットで寝た方が宜しいかと思いますよ」
 「なるほど。夢は夢でも、現実か……。もしかして、イリスはあなたに助けを求めに行ったのか?」

 ピルッガの言葉にエイブは首を横に振る。

 「俺になど求めに来るわけないではありませんか。彼女は、エクランド国におります。そこに今、魔術師の国の王子が来ているので、そちらにではないですか?」

 ピルッガは、眉を顰める。

 「では、何しに来た? それを伝えにか?」
 「いえ。皇帝を探しに」

 そう返しエイブは、上を指差した。それにつられるようにピルッガは、目線を上に向けた。

 「城の上に魔法陣があり、そこに捕らわれております。下から見ても見えませんので、気づけなかったのでしょう。浮遊出来る者に魔法陣を解除させれば、体に戻れるはずです」
 「やはりイリスに会って聞いたんだろう? 無事なんだな?」

 エイブは困り顔になる。

 「たぶんとしか、申し上げれません。俺は、あなた方の敵なので。たまたまこうやって会った時に、お聞きしました」
 「言っている意味がわからないな……」
 「俺は魔術師の組織側って事です。ですが恩を返しに来たんです」
 「なんだと……」

 ピルッガは、エイブを睨み付ける。

 「恩ねぇ。で、何故そこだとわかった?」
 「罠かもとお疑いですか? 精神には触れる事が出来ませんが、魔法陣を用いれば可能かもしれないと思いまして。でもそうなると、範囲が限定されます。だとしたら近くだと思ったのです……この話し方疲れるなぁ。もういい? 信じるも信じないも好きにしてよ」

 ふっとピルッガの口元が緩む。

 「相変わらずだな。ありがとう。助かった」
 「ふ~ん。信じるんだ」
 「そこは、探してないからな。ところで、さっき言った事は本当なのか? 組織の一員というのは……」
 「そんな冗談言っても仕方ないだろう? 俺はもうここには戻らない。医者にならないからね」

 ピルッガは溜息をついた。

 「だから俺はやめておけと言ったんだ」
 「うん。そうだね。……じゃ、そういう事で! さようなら」
 「おい! エイブ!」

 叫ぶピルッガを残し、エイブは夢から離脱しエクランド国へ向かう。

 「朝までに間に合うかな……」

 物体を通り抜けるので、一直線に移動できる。しかも馬車よりも早いスピードだ!
 エイブは、後ろを振り返った。

 「さようなら。俺のふるさと……」
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