上 下
114 / 192
第十章 駆け引き

第百十四話

しおりを挟む
 「やっぱり無理か……」

 腕を組み部屋の前でドアを見つめエイブは言った。

 「しかしあんな文献を持って何しに来たんだろう? せめて会話が聞こえればなぁ……」

 エイブは、魔法陣の力で景色は見える様にはなったが、音は聞こえないのである。

 「でもまあ、見張れと言われた目的はわかった。あの文献で十中八九間違いなさそうだね。……そう言えばティモシーさんって寝ていたよね? 具合が悪い? それとも眠らされた?」

 エイブは、ティモシーの部屋に戻って来た。ランフレッドがソファーに座り、ティモシーを心配そうに見つめている。
 エイブはティモシーに近づいた。

 「ティモシーさん……。ティモシーさん……」

 反応が無い。ぐっすり寝ているようだ。

 「顔色も優れないし、体調を崩したみたいだね。まあそれも仕方がないか……。暫くは、部屋から出て来ないだろうし……」

 エイブはそう言うと、スッと王宮から移動し始めた。ついた場所はエイブが寝泊りしている建物だ。彼はその一階に入って行く。
 数人の組織の連中とトンマーゾがいた。

 「……トンマーゾさん?」

 ふと、トンマーゾが振り返る。エイブは慌てて隠れた。

 「いや、隠れなくてもいいのか……。しかし何かの方法で見えるかもしれない。って、明日にでも何かする気なのか?」

 普段はいない彼に、そう勘ぐる。エイブはフッと浮かんで自分の部屋に戻った。そして、体に戻った――。



     ☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆



 ――レオナールの部屋のソファーに四人は座っていた。
 レオナールの横にルーファスが、向かい側にはイリステーナとフレアが座っている。

 「先ほどの続きですが、他国名を書かないのは、ある場所を隠す為にあえて名を伏せているようです」
 「ある場所とは?」

 レオナールの言葉にイリスが身を乗り出して聞いた。

 「書いてある訳がありません。それがどのような場所かも書いてはいません。……ただ邪なるモノと記されています。それは、我が国の文献とも一致します」

 「それってもしかして、封印した?」

 ルーファスがボソッと言うと、レオナールは頷いた。

 「可能性はあります。封印したモノも場所も書かなかったのは、それだけ危険なモノだった。魔術師の組織の目的は、それを手に入れる事なのかもしれません」
 「でも結局は、どの文献にも書かれていなかったって事ですよね?」

 イリステーナの言葉にレオナールは頷くも浮かない顔だ。

 「そうであってほしいのですが……」
 「どういう意味ですか?」

 ルーファスの言葉に、レオナールは首を横に振る。

 「今はまだ。ですが、一緒に調べて頂いています。緊急にしているので明日には情報が手元に届くでしょう。それからです」

 ルーファスとイリステーナは、顔を見合わせる。二人には全く何も思い当たらなかった。
 そして夜も更けて行った――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ネカマ姫のチート転生譚

八虚空
ファンタジー
朝、起きたら女になってた。チートも貰ったけど、大器晩成すぎて先に寿命が来るわ! 何より、ちゃんと異世界に送ってくれよ。現代社会でチート転生者とか浮くだろ! くそ、仕方ない。せめて道連れを増やして護身を完成させねば(使命感 ※Vtuber活動が作中に結構な割合で出ます

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

処理中です...