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第十章 駆け引き

第百十二話

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 「お待たせ」

 そう言って姿を現したのは、エイブだった。

 「お前なぁ……」

 イライラとした口調で返したのはトンマーゾだ。彼は椅子に腰かけ足を組み、テーブルを右手人差し指でトントンと突いている。
 エイブは精神体だがトンマーゾは起きていた。
 トンマーゾが居る床には魔法陣が描かれている。これには、覚醒したまま精神体と話が出来るモノだ。

 「何をしていた!」
 「あぁ、ごめんごめん。一旦体に戻ったら寝ちゃった。ほら時間が早かったから、まだ寝てたでしょ?」

 エイブの返答にギロリとトンマーゾは睨む。

 「で、ティモシーの方はどうだった?」
 「予想通り、何も情報は得てないようだよ」

 トンマーゾは、エイブを何か言いたげにジッと見据える。

 「何? 信じてないの? 俺の迫真の演技聞いていたでしょう? ティモシーは、俺の事を信じ切っているって」

 トントンとトンマーゾは、机を突く。

 「俺が疑っているのは、ティモシーじゃないんだけどな」
 「ふ~ん。じゃ、俺はどうすれば信じてもらえる訳?」

 トンマーゾは腕を組む。

 「お前、あの時、皇帝を助け出すって言っていたな。いつ知った?」

 エイブはため息をつく。

 「細かいなぁ。実は、夢でティモシーに接触していた時に皇女に見つかったの。そこで聞いた。それでティモシーは、皇女から話を聞いたレオナールに夢の事を問いただされて逃げ出したみたい」

 ダン! トンマーゾはテーブルをぐうで叩き、エイブを睨み付ける。

 「お前、そんな大事な事黙っていたのか! 何やってるんだよ!」
 「そうやって怒ると思うから言いたくなかったんだよね……」

 とぼけた様にエイブは言った。

 「お前、事の重大さをわかっているのか?」
 「仕方がないだろう? 皇女が来ているのを知らなかったんだから! 防ぎようがなかった!」

 っち。
 トンマーゾは舌打ちをし腕を組んで考え込んだ。

 「ところでさ。皇帝を誘拐して何する気? 普通、頭をヤレばそれで方が付くでしょう?」

 チラッとエイブを見る。

 「それはお前に関係がない事だ。それとも祖国が心配か?」
 「別に。ただ疑問に思っただけ」
 「作戦変更だ。お前は昼間皇女を見張れ。何をしていたか、報告をしろ」
 「……皇女を? 外に出たら連絡すればいいって事?」
 「いや、目を離さずに寝るまで見張れ」
 「寝るまでねぇ……。一応皇女はレディなんだけどなぁ」

 ダン!
 トンマーゾは、テーブルを叩きエイブを睨む。

 「な・に・が、レディーだ! 勝手に動いて失敗した挙句、今度は勝手に接触して、見つかりやがって!」
 「はいはい。わかりました。見張りますって。で、ティモシーの方はどうするのさ?」
 「たまに状況を聞きに行け。それと薬はちゃんと飲めよ。お前の為に俺が調合してやっているんだからな」
 「わかってるって。じゃ、そういう事で……」

 エイブはトンマーゾの所から離れ、自分の体の元へ向かう。前の居場所から移動していた。今度は二階だ。窓のある壁際にベットが置かれていた。その下には、魔法陣が描かれている。トンマーゾのとは違い、これがあると精神体でも目で見たように風景がわかる。今までは真っ暗闇の中を彷徨っていたが、見える事により自分がどこにいるか把握できる。

 「でも、あれだね。自分の体がこうやって見えるって変な気分……」

 体の所まで戻って来たエイブは呟く。横たわったエイブの手を握りしめ、ザイダがベットの横にいた。

 「はぁ。まだ居るよ彼女……。俺のせいでこんな目に遭っているというのに、甲斐甲斐しく世話しちゃって……。俺にそんな価値ないのにね……」

 ボソッと呟くとエイブは、スッと体に戻って行った――。



     ☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆



 ピクッと指が動く。

 「エイブさん!」

 ザイダが声を掛けると、そっとエイブは目を開けた。

 「よかった。全然起きないからどうしようかと……」
 「うん? 深く眠っていたみたい」

 エイブが体を起こすと、ザイダが薬を手渡す。

 「はい。まだ飲んでないでしょう」
 「ありがとう……」

 エイブは水も受け取ると、それを一口飲む。
 ザイダが後ろを向き話しかける。

 「昼は、これないからここに置いておくね」

 その隙にエイブは、薬をサッとゴミ箱の中に捨てた。

 「うん。ありがとう」

 そう言いながら水だけを飲み干す。
 空になったコップと、薬を包んでいた紙を渡した。
 エイブは横になった。

 「俺、寝るから君は戻りなよ」
 「うん……」

 エイブにザイダは不安げな顔を向け返事をするも言われた通り部屋を出て行った。
 今いる部屋の窓はフィックス窓で開閉できないモノだ。その窓からは王宮が小さく見えていた――。
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