112 / 192
第十章 駆け引き
第百十二話
しおりを挟む
「お待たせ」
そう言って姿を現したのは、エイブだった。
「お前なぁ……」
イライラとした口調で返したのはトンマーゾだ。彼は椅子に腰かけ足を組み、テーブルを右手人差し指でトントンと突いている。
エイブは精神体だがトンマーゾは起きていた。
トンマーゾが居る床には魔法陣が描かれている。これには、覚醒したまま精神体と話が出来るモノだ。
「何をしていた!」
「あぁ、ごめんごめん。一旦体に戻ったら寝ちゃった。ほら時間が早かったから、まだ寝てたでしょ?」
エイブの返答にギロリとトンマーゾは睨む。
「で、ティモシーの方はどうだった?」
「予想通り、何も情報は得てないようだよ」
トンマーゾは、エイブを何か言いたげにジッと見据える。
「何? 信じてないの? 俺の迫真の演技聞いていたでしょう? ティモシーは、俺の事を信じ切っているって」
トントンとトンマーゾは、机を突く。
「俺が疑っているのは、ティモシーじゃないんだけどな」
「ふ~ん。じゃ、俺はどうすれば信じてもらえる訳?」
トンマーゾは腕を組む。
「お前、あの時、皇帝を助け出すって言っていたな。いつ知った?」
エイブはため息をつく。
「細かいなぁ。実は、夢でティモシーに接触していた時に皇女に見つかったの。そこで聞いた。それでティモシーは、皇女から話を聞いたレオナールに夢の事を問いただされて逃げ出したみたい」
ダン! トンマーゾはテーブルをぐうで叩き、エイブを睨み付ける。
「お前、そんな大事な事黙っていたのか! 何やってるんだよ!」
「そうやって怒ると思うから言いたくなかったんだよね……」
とぼけた様にエイブは言った。
「お前、事の重大さをわかっているのか?」
「仕方がないだろう? 皇女が来ているのを知らなかったんだから! 防ぎようがなかった!」
っち。
トンマーゾは舌打ちをし腕を組んで考え込んだ。
「ところでさ。皇帝を誘拐して何する気? 普通、頭をヤレばそれで方が付くでしょう?」
チラッとエイブを見る。
「それはお前に関係がない事だ。それとも祖国が心配か?」
「別に。ただ疑問に思っただけ」
「作戦変更だ。お前は昼間皇女を見張れ。何をしていたか、報告をしろ」
「……皇女を? 外に出たら連絡すればいいって事?」
「いや、目を離さずに寝るまで見張れ」
「寝るまでねぇ……。一応皇女はレディなんだけどなぁ」
ダン!
トンマーゾは、テーブルを叩きエイブを睨む。
「な・に・が、レディーだ! 勝手に動いて失敗した挙句、今度は勝手に接触して、見つかりやがって!」
「はいはい。わかりました。見張りますって。で、ティモシーの方はどうするのさ?」
「たまに状況を聞きに行け。それと薬はちゃんと飲めよ。お前の為に俺が調合してやっているんだからな」
「わかってるって。じゃ、そういう事で……」
エイブはトンマーゾの所から離れ、自分の体の元へ向かう。前の居場所から移動していた。今度は二階だ。窓のある壁際にベットが置かれていた。その下には、魔法陣が描かれている。トンマーゾのとは違い、これがあると精神体でも目で見たように風景がわかる。今までは真っ暗闇の中を彷徨っていたが、見える事により自分がどこにいるか把握できる。
「でも、あれだね。自分の体がこうやって見えるって変な気分……」
体の所まで戻って来たエイブは呟く。横たわったエイブの手を握りしめ、ザイダがベットの横にいた。
「はぁ。まだ居るよ彼女……。俺のせいでこんな目に遭っているというのに、甲斐甲斐しく世話しちゃって……。俺にそんな価値ないのにね……」
ボソッと呟くとエイブは、スッと体に戻って行った――。
☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆
ピクッと指が動く。
「エイブさん!」
ザイダが声を掛けると、そっとエイブは目を開けた。
「よかった。全然起きないからどうしようかと……」
「うん? 深く眠っていたみたい」
エイブが体を起こすと、ザイダが薬を手渡す。
「はい。まだ飲んでないでしょう」
「ありがとう……」
エイブは水も受け取ると、それを一口飲む。
ザイダが後ろを向き話しかける。
「昼は、これないからここに置いておくね」
その隙にエイブは、薬をサッとゴミ箱の中に捨てた。
「うん。ありがとう」
そう言いながら水だけを飲み干す。
空になったコップと、薬を包んでいた紙を渡した。
エイブは横になった。
「俺、寝るから君は戻りなよ」
「うん……」
エイブにザイダは不安げな顔を向け返事をするも言われた通り部屋を出て行った。
今いる部屋の窓はフィックス窓で開閉できないモノだ。その窓からは王宮が小さく見えていた――。
そう言って姿を現したのは、エイブだった。
「お前なぁ……」
イライラとした口調で返したのはトンマーゾだ。彼は椅子に腰かけ足を組み、テーブルを右手人差し指でトントンと突いている。
エイブは精神体だがトンマーゾは起きていた。
トンマーゾが居る床には魔法陣が描かれている。これには、覚醒したまま精神体と話が出来るモノだ。
「何をしていた!」
「あぁ、ごめんごめん。一旦体に戻ったら寝ちゃった。ほら時間が早かったから、まだ寝てたでしょ?」
エイブの返答にギロリとトンマーゾは睨む。
「で、ティモシーの方はどうだった?」
「予想通り、何も情報は得てないようだよ」
トンマーゾは、エイブを何か言いたげにジッと見据える。
「何? 信じてないの? 俺の迫真の演技聞いていたでしょう? ティモシーは、俺の事を信じ切っているって」
トントンとトンマーゾは、机を突く。
「俺が疑っているのは、ティモシーじゃないんだけどな」
「ふ~ん。じゃ、俺はどうすれば信じてもらえる訳?」
トンマーゾは腕を組む。
「お前、あの時、皇帝を助け出すって言っていたな。いつ知った?」
エイブはため息をつく。
「細かいなぁ。実は、夢でティモシーに接触していた時に皇女に見つかったの。そこで聞いた。それでティモシーは、皇女から話を聞いたレオナールに夢の事を問いただされて逃げ出したみたい」
ダン! トンマーゾはテーブルをぐうで叩き、エイブを睨み付ける。
「お前、そんな大事な事黙っていたのか! 何やってるんだよ!」
「そうやって怒ると思うから言いたくなかったんだよね……」
とぼけた様にエイブは言った。
「お前、事の重大さをわかっているのか?」
「仕方がないだろう? 皇女が来ているのを知らなかったんだから! 防ぎようがなかった!」
っち。
トンマーゾは舌打ちをし腕を組んで考え込んだ。
「ところでさ。皇帝を誘拐して何する気? 普通、頭をヤレばそれで方が付くでしょう?」
チラッとエイブを見る。
「それはお前に関係がない事だ。それとも祖国が心配か?」
「別に。ただ疑問に思っただけ」
「作戦変更だ。お前は昼間皇女を見張れ。何をしていたか、報告をしろ」
「……皇女を? 外に出たら連絡すればいいって事?」
「いや、目を離さずに寝るまで見張れ」
「寝るまでねぇ……。一応皇女はレディなんだけどなぁ」
ダン!
トンマーゾは、テーブルを叩きエイブを睨む。
「な・に・が、レディーだ! 勝手に動いて失敗した挙句、今度は勝手に接触して、見つかりやがって!」
「はいはい。わかりました。見張りますって。で、ティモシーの方はどうするのさ?」
「たまに状況を聞きに行け。それと薬はちゃんと飲めよ。お前の為に俺が調合してやっているんだからな」
「わかってるって。じゃ、そういう事で……」
エイブはトンマーゾの所から離れ、自分の体の元へ向かう。前の居場所から移動していた。今度は二階だ。窓のある壁際にベットが置かれていた。その下には、魔法陣が描かれている。トンマーゾのとは違い、これがあると精神体でも目で見たように風景がわかる。今までは真っ暗闇の中を彷徨っていたが、見える事により自分がどこにいるか把握できる。
「でも、あれだね。自分の体がこうやって見えるって変な気分……」
体の所まで戻って来たエイブは呟く。横たわったエイブの手を握りしめ、ザイダがベットの横にいた。
「はぁ。まだ居るよ彼女……。俺のせいでこんな目に遭っているというのに、甲斐甲斐しく世話しちゃって……。俺にそんな価値ないのにね……」
ボソッと呟くとエイブは、スッと体に戻って行った――。
☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆
ピクッと指が動く。
「エイブさん!」
ザイダが声を掛けると、そっとエイブは目を開けた。
「よかった。全然起きないからどうしようかと……」
「うん? 深く眠っていたみたい」
エイブが体を起こすと、ザイダが薬を手渡す。
「はい。まだ飲んでないでしょう」
「ありがとう……」
エイブは水も受け取ると、それを一口飲む。
ザイダが後ろを向き話しかける。
「昼は、これないからここに置いておくね」
その隙にエイブは、薬をサッとゴミ箱の中に捨てた。
「うん。ありがとう」
そう言いながら水だけを飲み干す。
空になったコップと、薬を包んでいた紙を渡した。
エイブは横になった。
「俺、寝るから君は戻りなよ」
「うん……」
エイブにザイダは不安げな顔を向け返事をするも言われた通り部屋を出て行った。
今いる部屋の窓はフィックス窓で開閉できないモノだ。その窓からは王宮が小さく見えていた――。
0
お気に入りに追加
693
あなたにおすすめの小説
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!


異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる