【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

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第十章 駆け引き

第百九話

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 ティモシーは、レオナールの部屋に二人でいた。いつも二人で話す時と同じで、ソファーに向かい合って座っていた。

 「先ほどはすみませんでした。夢の事を口にしていしまい……。皆には、必ず時が来たら話すという事で、承諾を得ました。あなたが魔術師だという事も母親の事も話しておりません」
 「ありがとございます」

 俯いたままティモシーは礼を言った。ティモシーはずっと俯いたままだ。

 「イリステーナ皇女から夢の内容をお聞きしました。あなたはあの後、エイブと何をお話になったのですか?」
 「特段何も……。ただ、もう来ないと言われました……」
 「来ないとは? イリステーナ皇女に見つかったからですか? ですが、その前にあなたの母親にも知られておりますよね?」

 ティモシーは、ギュッと両手を握る。

 「俺を組織に誘おうとしていたみたいなんだけど、諦めたって言われました……」
 「そうですか。諦めましたか」

 驚きもせず納得した様子にティモシーは、エイブの目的を知っていたのかとチラッとレオナールを見ると、彼と目が合いサッと顔を伏せる。

 「あなたは夢を覚えてないと思っているようですが、思い出せないだけで記憶はしているのです。彼は、あなたが魔術師だと気づいて近いづいていました。上手く取り入って、あなたを仲間に引き入れようとした。そう考えれば、何度も接触した事に納得できます。そしてそれが成功すれば、連絡を取り合えるのですから、夢で情報交換が出来ます」

 その言葉にティモシーはドキリとする。これからは、そうする事になっているからだ。まるで見透かされたようで怖かった。

 「ティモシー、お願いがあるのですが……」
 「え? お願い?」

 レオナールは頷く。

 「昨日言っていたように、あなたの母親に連絡を取り、魔術師の組織に狙われている理由を聞き出して欲しいのです。彼女……あなたの母親は、組織の重大な情報を知っていると思われます。でなければ、一個人をずっと探している訳がありません。わかっていると思いますが、もう逃げきれません。助かる方法は一つ、魔術師の組織を潰す他ないのです。お願いできますか?」

 ティモシーは頷いた。

 「手紙を書いてみます。それで会う約束をして聞き出します」
 「わかりました。お願いしますね」

 そう言ってレオナールは立ち上がり、何やら持って来てテーブルの上に置いた。それは、ペンと紙、そして封筒だ。

 「………」
 「陛下に譲って頂いた封筒があります。手紙はこちらに入れて下さい。これは、薬師に緊急連絡をする封書です。これを使いましょう。私がこれから言う内容を一筆書いて下さい。出来ますよね?」

 レオナールは、ティモシーの顔を覗き込んでいつもより強い口調で言った。いつもと違いお願いではなく、やれと言ってきた。断れる訳がない。



   母さんへ

 お元気ですか? こんな封書でお送りした事お許し下さい。緊急事態が発生しました。エイブさんが逃げ出したのです。俺も組織に命を狙われました。
 魔術師の組織との関係を知りたい。会って話がしたい。連絡待ってます。

                    ティモシーより



 ティモシーは震える手で手紙を書いた。
 それを受け取ると、レオナールは封筒に入れた。
 緊急連絡用の封書は、直接本人手渡しが行われ、その場で本人が確認する事になっている。つまり、受け取れば必ず目を通す事になる。知らないと言い逃れが出来ないシステムなのだ。それをレオナールは利用した。

 「これで遅くても二日後には彼女が読む事になります。もし手紙で返事が返ってきましたら、必ずお見せなさい。いいですね?」
 「はい……」

 ティモシーはここまでするとは思っていなかった、ヴィルターヌ帝国の一件で動かざるを得なくなったのだろう。

 「あの。ヴィルターヌ帝国の事はどうするんですか? 夢で皇帝が連れ去られたって聞いたんだけど……」
 「あなたの母親が情報を持って来ましたら、一緒に聞かせて差し上げます。今は、これ以上申し上げる事はありません」
 「はい……」

 (もしかしたら、俺、何か疑われている?)

 夢でエイブと連絡を取り合える以上、自分には話す気がないのだろうとティモシーは思った。これじゃ、何も情報をエイブに渡せないと思うも仕方がなかった。

 「ティモシー。ないとは思いますが、エイブから接触があっても無視するのですよ。いいですね」

 ティモシーは元気なく頷いた。
 その日、午前中は調合を行い、昼からはダグと一緒に倉庫の手伝いをし、迎えに来たランフレッドと一緒に部屋に戻り、後はずっとランフレッドは部屋に居た。

 「今日は、ルーファス王子の護衛はもうないの?」
 「あぁ、しばらくは昼間だけになった」
 「そ、そうなんだ……」

 (もしかして、監視されている?)

 ティモシーはそう思った。布団に入ってもランフレッドの視線を感じ、彼にも疑われていると思うと悲しくなった。
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