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第十章 駆け引き
第百五話
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ティモシーはただ、何も考えずに走っていた。思いっきり全力疾走だった。
はぁはぁと息を切らし辺りを見渡す。見た事のない場所に来てしまったようで、辺りは雑木林だ。
(皆に責められ逃げ出してきてしまった。どうしよう……)
ティモシーは、これからどうしていいかわからなかった。来た道を戻れば、知っている道に戻るだろうと思うも、王宮に戻る気にもなれず、雑木林の中をフラフラと歩き回る。
まだ朝も早い。五時を過ぎた所だ。
(このまま母さんに会いに行こうかな……。あ、でもお金の持ち合わせがないや)
そんな事を思いながら歩いていた。
「ティ……モシー……さん……」
ふと呼ぶ声が聞こえたと振り向くとエイブが居た。一瞬夢の中かと思ったが、エイブは木に持たれかかりつらそうだ。
「ちょと! そんな体で何してるのさ!」
「君こそこんな時間にこんな場所で何してるの?」
「えっと……」
夢の事がバレて逃げ出して来たとは言いづらい。
「イリスに夢の事バラされた?」
「え……」
「まあ、彼女も皇女だから君の事など考えず問いただすよな……。う……」
エイブはその場に座り込んだ。
「エイブさん、どこから来たの? 横にならないと……」
「君に言いたい事があって……」
「聞くから! だから横になれる場所に……」
ティモシーがエイブを支え歩きだす。
「見つかったら大変とか思わないの?」
「見つからずに出て来たんだよね?」
そう返すと、エイブはだなと一言言って、指さした。
少し行くと小屋があった。そこに地下があり二人は下りて行く。扉の奥に部屋があり、ベットが置いてあった。ティモシーは、エイブを寝かせた。
「こんな所にいたんだね。そう言えば、ザイダさんは?」
「彼女は、ここに通っているだけだよ」
「そうなんだ」
少しの沈黙の後、エイブが切り出した。
「虫がいいかもしれないが、彼女の力になってほしい。俺は組織の人間だから……」
「そんなに心配なら……」
「いや、そうじゃない。俺は、皇帝に恩があるから返すだけだ。だから助け出す協力はする。それだけ……」
「恩があるって……。イリステーナ皇女も聞いていたけど一体何があったの? 国を追い出された訳でもなさそうだし……」
「話したら協力してくれるかな?」
別に話を聞かずとも協力はするつもりだったが、ティモシーは頷いた。エイブは、目を瞑り語り始めた――。
エイブの両親は、彼が小さな頃に流行病で亡くなった。その彼を魔術の腕を見込んで皇帝は、イリステーナ達と魔術を学ばせた。エイブはメキメキと力を付けていく。
彼が住んでいたヴィターヌ帝国は、隠れ魔術師の国だった。国の者の半分は魔術師で、魔術師の者もそうでない者も一緒に暮らしていた。
その国にも医者は数名いたが、流行病は治せなかった。でもエイブは、魔術師でも出来ない事が薬師になれば出来る事をその時に知る。
魔術の腕は国では上位のほうだったが、どうしても医者になりたかった。必ず戻って来るからと約束し国を出た。
しかしエイブは国の外に出て初めて知る。魔術師とバレると嫌煙される事を。それはまだましで、下手すれば殺されそうにもなった。
そしてそれは、友人や恋人でも同じだった。いつの間にか人を信じられなくなり、深くは付き合わなくなる。そして二十歳の時、薬師になりその後、トンマーゾと出会う。彼は自分と同じ魔術師で薬師だった。しかも王宮専属薬師で、魔術師の組織に属していた。
トンマーゾは、魔術師の世界を作ろうと組織に誘ってきた。別に特段断る理由もなく、誘われるまま入る。その組織は普段は別に自由だし色んな魔術も教えてもらい、特に魔法陣はエイブにとって魅力的だった。
トンマーゾは、エイブも王宮専属になる事を勧め、試験をパスし見事にエイブも王宮専属になった。
だがある日、付き合っていた恋人に魔術師とばれて告発すると言われ、慌ててトンマーゾに相談した。自分がバレれば、トンマーゾも魔術師だとバレる可能性があるからだ。
トンマーゾに言われ、彼女を呼び出すと彼は彼女に刻印を刻んだ。その行為には驚いたものの、これで彼女は他に話す事は出来ないと言われ安堵する。しかし、彼女は行方不明になった。
エイブはトンマーゾを問いただすと、ある商人に売ったという。驚くがもうすでに組織から抜け出せなかった。そうすれば、自分の命が危ないからだ。
それから半年後、トンマーゾはある人物をエイブに紹介した。彼女はエイブを好きだったらしく、トンマーゾの紹介の事もあり付き合う事にする。だが彼女にも魔術師だと知れてしまう。しかも彼女は、自分を薬を使って殺そうとしてきたのである。
エイブの部屋で飲んでいる時だった。隠れ見ていると、彼女が自分のグラスに毒を入れたのだ。エイブがそっとグラスを交換すると、当たり前だが彼女は倒れた。どうしていいかわからなくなったエイブはまた、トンマーゾに相談すると解毒剤を作り彼女に飲ませてくれた。
だが助けたとなると魔術師だと触れ回る恐れがると、トンマーゾは彼女を連れて行った。
その後噂が広まり王宮内にも居場所がなくなった。そして悟った。もう国には戻れないと。本当は王宮専属なんてやめたかったが、トンマーゾがそれを許さなかった。エイブは自暴自棄になった。
そんな時にティモシーが現れた。希望に溢れ何となく壊したくなった。本当はどこかに売り飛ばす気などなかった。トンマーゾにも内緒で、ティモシーに刻印を刻んでみようと思ったのだ。
後は知っての通りだとエイブは締めくくった――。
はぁはぁと息を切らし辺りを見渡す。見た事のない場所に来てしまったようで、辺りは雑木林だ。
(皆に責められ逃げ出してきてしまった。どうしよう……)
ティモシーは、これからどうしていいかわからなかった。来た道を戻れば、知っている道に戻るだろうと思うも、王宮に戻る気にもなれず、雑木林の中をフラフラと歩き回る。
まだ朝も早い。五時を過ぎた所だ。
(このまま母さんに会いに行こうかな……。あ、でもお金の持ち合わせがないや)
そんな事を思いながら歩いていた。
「ティ……モシー……さん……」
ふと呼ぶ声が聞こえたと振り向くとエイブが居た。一瞬夢の中かと思ったが、エイブは木に持たれかかりつらそうだ。
「ちょと! そんな体で何してるのさ!」
「君こそこんな時間にこんな場所で何してるの?」
「えっと……」
夢の事がバレて逃げ出して来たとは言いづらい。
「イリスに夢の事バラされた?」
「え……」
「まあ、彼女も皇女だから君の事など考えず問いただすよな……。う……」
エイブはその場に座り込んだ。
「エイブさん、どこから来たの? 横にならないと……」
「君に言いたい事があって……」
「聞くから! だから横になれる場所に……」
ティモシーがエイブを支え歩きだす。
「見つかったら大変とか思わないの?」
「見つからずに出て来たんだよね?」
そう返すと、エイブはだなと一言言って、指さした。
少し行くと小屋があった。そこに地下があり二人は下りて行く。扉の奥に部屋があり、ベットが置いてあった。ティモシーは、エイブを寝かせた。
「こんな所にいたんだね。そう言えば、ザイダさんは?」
「彼女は、ここに通っているだけだよ」
「そうなんだ」
少しの沈黙の後、エイブが切り出した。
「虫がいいかもしれないが、彼女の力になってほしい。俺は組織の人間だから……」
「そんなに心配なら……」
「いや、そうじゃない。俺は、皇帝に恩があるから返すだけだ。だから助け出す協力はする。それだけ……」
「恩があるって……。イリステーナ皇女も聞いていたけど一体何があったの? 国を追い出された訳でもなさそうだし……」
「話したら協力してくれるかな?」
別に話を聞かずとも協力はするつもりだったが、ティモシーは頷いた。エイブは、目を瞑り語り始めた――。
エイブの両親は、彼が小さな頃に流行病で亡くなった。その彼を魔術の腕を見込んで皇帝は、イリステーナ達と魔術を学ばせた。エイブはメキメキと力を付けていく。
彼が住んでいたヴィターヌ帝国は、隠れ魔術師の国だった。国の者の半分は魔術師で、魔術師の者もそうでない者も一緒に暮らしていた。
その国にも医者は数名いたが、流行病は治せなかった。でもエイブは、魔術師でも出来ない事が薬師になれば出来る事をその時に知る。
魔術の腕は国では上位のほうだったが、どうしても医者になりたかった。必ず戻って来るからと約束し国を出た。
しかしエイブは国の外に出て初めて知る。魔術師とバレると嫌煙される事を。それはまだましで、下手すれば殺されそうにもなった。
そしてそれは、友人や恋人でも同じだった。いつの間にか人を信じられなくなり、深くは付き合わなくなる。そして二十歳の時、薬師になりその後、トンマーゾと出会う。彼は自分と同じ魔術師で薬師だった。しかも王宮専属薬師で、魔術師の組織に属していた。
トンマーゾは、魔術師の世界を作ろうと組織に誘ってきた。別に特段断る理由もなく、誘われるまま入る。その組織は普段は別に自由だし色んな魔術も教えてもらい、特に魔法陣はエイブにとって魅力的だった。
トンマーゾは、エイブも王宮専属になる事を勧め、試験をパスし見事にエイブも王宮専属になった。
だがある日、付き合っていた恋人に魔術師とばれて告発すると言われ、慌ててトンマーゾに相談した。自分がバレれば、トンマーゾも魔術師だとバレる可能性があるからだ。
トンマーゾに言われ、彼女を呼び出すと彼は彼女に刻印を刻んだ。その行為には驚いたものの、これで彼女は他に話す事は出来ないと言われ安堵する。しかし、彼女は行方不明になった。
エイブはトンマーゾを問いただすと、ある商人に売ったという。驚くがもうすでに組織から抜け出せなかった。そうすれば、自分の命が危ないからだ。
それから半年後、トンマーゾはある人物をエイブに紹介した。彼女はエイブを好きだったらしく、トンマーゾの紹介の事もあり付き合う事にする。だが彼女にも魔術師だと知れてしまう。しかも彼女は、自分を薬を使って殺そうとしてきたのである。
エイブの部屋で飲んでいる時だった。隠れ見ていると、彼女が自分のグラスに毒を入れたのだ。エイブがそっとグラスを交換すると、当たり前だが彼女は倒れた。どうしていいかわからなくなったエイブはまた、トンマーゾに相談すると解毒剤を作り彼女に飲ませてくれた。
だが助けたとなると魔術師だと触れ回る恐れがると、トンマーゾは彼女を連れて行った。
その後噂が広まり王宮内にも居場所がなくなった。そして悟った。もう国には戻れないと。本当は王宮専属なんてやめたかったが、トンマーゾがそれを許さなかった。エイブは自暴自棄になった。
そんな時にティモシーが現れた。希望に溢れ何となく壊したくなった。本当はどこかに売り飛ばす気などなかった。トンマーゾにも内緒で、ティモシーに刻印を刻んでみようと思ったのだ。
後は知っての通りだとエイブは締めくくった――。
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