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第九章 追われる者

第九十九話

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 「まあ、座れよ」

 部屋に着くとダグはそう言ってソファーに座った。ティモシーも向かい側に腰を下ろす。

 「で、皇女の言っていた事って本当なのか? 俺の代わりだと言ったというのは……」

 ダグの問いにティモシーは、小さく頷く。それを見て、彼は大きなため息をついた。

 「マジか。あの人何がしたかったんだ? 何か聞いているか?」

 その問いには、本当の事は言えない。ティモシーは首を横に振った。

 「そうか。俺達が集まっていたら、皇女がいなくなったってフレアさんが来た時には驚いた。王宮内を探したら、ティモシーが見かけない女の薬師と出て行った所を見た人がいて、特徴から皇女とわかった時は焦った。慌てて三人が馬車で追いかけたんだ。配達に向かったのなら森の泉研究所に行ったはずだからな」

 ダグの説明にティモシーはなるほどと頷く。
 イリステーナは、ティモシーに聞きたい事があったのだろう。それはレオナールの事なのかもしれない。昨日こっそりと二人で出掛けるぐらいの仲なのだから色々知っていると思われたのだろう。

 (俺に何か聞かれても何もわからないのにな……)

 ティモシーは、そのお蔭でブラッドリーに魔術師だとバレてしまったと思い出す。ずっと騙していた事になる。睨まれて当然なのかもしれない。

 「どうしたらいいんだろう……」
 「大丈夫だって。お前にお咎めはないだろうから」

 ブラッドリーの事だったのがだ、小さく呟いた声が聞こえたダグは、ティモシーを慰めるように言った。

 「しかしあれだな。結局ティモシーも巻き込まれちまったな。トンマーゾの時だって本当は予定外だったみたいだし。ブラッドリーさんに復讐するのに巻き込まれたり……お前ってついてないよなぁ」

 ダグにそう言われて、そう言われればそうだと思った。ついてない。



 暫くするとダグだけでなく、ティモシーも一緒に呼ばれた。場所は、レオナールの部屋だった。
 そこには丸く向かい合う様に椅子が七つ設置してあった。その一つにレオナールが座り右回りに、グスターファス、ルーファス、イリステーナそしてフレアの順に既に座っていた。勿論、ルーファスの後ろにはランフレッドが立っている。
 フレアの隣にティモシーが座り、その横にダグが座る。彼のよこはレオナール。そして、そのレオナールの後ろに
呼びに来たブラッドリーた立った。

 「では、申し訳ありませんが、この国の方法にて聞き取りを行いたいと思います」

 グスターファスが、イリステーナを見つめ口火を切った。

 「イリステーナ皇女。あなたは何故ティモシーを騙し王宮の外へ出たのでしょうか?」
 「……私は、ここに父の意思を告げに参りました。ですが、何やら慌ただしく、そちらにおられますレオナール様まで現れました。私にはそれが、不穏な動きに見えたのです。私が魔術師だと告げたせいだと思いました。それで……」

 イリステーナは、フレアの横に座るティモシーをチラッと見た。
 ティモシーは、ギュッと両手を握った。レオナールと出掛けた事がここで暴露されれば、ミュアンの事も魔術師だった事も全てこの場でバレるかもしれない。そして、夢を通してエイブと接触していた事実も公になる。レオナールが上手く皆を丸め込んだとしても、これには言い訳が出来ない。

 「それで、ランフレッドと一緒に暮らしているという彼女にこっそり話を聞こうとしたのです」
 「え……」

 ティモシーは小さく呟き、イリステーナを見た。それからハッとしてレオナールを見ると、彼は小さく頷いた。
 二人だけで話したのは、レオナールと二人で抜け出したのを見たと言わない様に口止めするつもりだったからと気づいた。どうして、それがわかったのかは、謎ではあるが。

 「結局聞けずじまいでした。ある男が私を狙ってきたからです」
 「すまない。その男は、トンマーゾだ。あなたが来訪した日に逃亡してしまい行方を追っていた。なぜ、あなたを狙ったのかは定かではないのですが……」

 ティモシーはふと思った。トンマーゾは、彼女の事を皇女だと知って襲ってきた。しかも、魔術師だと知っていた。逃げる時に尋ねて来たのが皇女だと知ったとしても内通者がいなければ魔術師だとは知れないだろう。

 (どうやって知ったんだ? この中にトンマーゾさんと繋がっている人が……)

 「陛下、ここからは私がお話致します」

 そうレオナールが申し立てた。

 「わかった。お願いしよう」

 グスターファスは許可する。先ほど、レオナールとイリステーナが二人で話している。先に聞いているに違いないからだ。
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