94 / 192
第九章 追われる者
第九十四話
しおりを挟む
ミュアンの顔は青ざめていた。
「ハルフォード国ですって……」
「危害を加えるつもりはありません。ただ夢の話をお伺いに来ただけです」
警戒するミュアンに、レオナールはそう語り掛ける。
ミュアンは、ティモシーを見た。
「ごめんなさい。実は、レオナール王子にはバレてしまっていて……」
ティモシーは俯いて言った。
ミュアンは、一つため息をつくと、結界の中に足を踏み入れる。それに、ティモシーも続く。
「信用して頂きありがとうございます」
「別に信用したわけではありません」
ミュアンにそう返され、レオナールも少し困り顔だ。
「そうですか。やはり魔術師は信用して頂けませんか」
その言葉にミュアンは、レオナールを睨み付けた。
「彼に与えたそのペンダントは、魔術師から魔術師だと隠す為のものですよね? レジストの付与を付け誤魔化してはおりますが、逆に見抜かれれば魔術を使わずとも暴かれると思わなかったのですか?」
その問いにミュアンは、目を丸くする。
「まさか……」
「えぇ。そうです。私はそのペンダントで彼が魔術師だと気づきました」
「結構、自信があったのですが……」
ティモシーは、二人の会話に驚いた。
確かに魔術師だと隠す為だとミュアンから貰ったものだが、その対象が魔術師だとは思っていなかったのである。
「え? どういう事? 母さん」
「………」
ミュアンは、ティモシーの問いに答えない。
「ティモシー、あなたの父親は、あなた方が魔術師だとご存知ですか?」
ティモシーは、知らないと首を横に振った。
「この話はもういいでしょう! 夢の話をしましょう」
「そうですね」
ミュアンが強い口調でいうと、レオナールは頷き、今の話は一旦置いておく事にしたようだ。
「エイブという男がティモシーに近づいていました。知っている人ですか?」
ミュアンから切り出した。
「えぇ、王宮に入り込んでいた魔術師です。彼とはどのようなお話をなさったのでしょうか?」
レオナールの問いにミュアンは、そう言えばという表情を一瞬浮かべる。
「彼にもティモシーが魔術師だとバレているようです。ペンダントを造った方と言われました。あなたの言う通りですね……」
「気づかれてしまいましたか。それで接触をしてきたのでしょうか? ところで、あなたも同じ様にティモシーに接触をなさっておりましたがどのような魔術でしょうか? 出来ればお教え願いたいのですが」
ミュアンは首を横ふる。
「あれは魔術ではありません。ですが、あのエイブと言った者は何かしら教わって行っているのでしょう」
「と、申しますと?」
「あれは魔術ではなく、精神を体から切り離し、意識のみで行動するのです。一応ペンダントに見つけづらいように施していたのですが、あまり効果はなかったようですね」
魔術師でなくても行えるものだが、誰にでも出来る事ではない。もっと言えば、魔術師だとしても出来ない者には出来ない。
ジッと俯くミュアンをティモシーは見つめた。
ティモシーでも今の話を聞けばわかる。ミュアンがそれを扱う者達から身を隠していたことが……。でも、知れてしまったかもしれない。
「あなたはどこの出身なのでしょうか?」
「それはお答え出来ません」
「では、チミキナスナという、言葉に聞き覚えはありますか?」
「え?」
ミュアンの表情は知っていると語っていた。
「エイブが所属していると思われる魔術師の組織の名前なのですが……。ご存知のようですね」
レオナールがそう言うと、ミュアンはティモシーに振り返った。
「ティモシー、一緒にここを出ましょう!」
「出てどうするおつもりです? そのペンダントを持ってしても防げなかった。逃げられはしないでしょう」
ミュアンは、キッとレオナールを睨み付ける。
「わかっています! でも、ここにいたら守ってあげられないのです!」
「では、私が守って差し上げます。彼とすでにそういう約束をしております。いかがですか?」
ミュアンは少し考えあぐんでから頷いた。
「そうですね。息子の事をお願いします」
「あなたもご一緒にどうですか?」
「私は……明日一度、村に戻ります。後の事はそれから考えます」
ミュアンは、レオナールに頭を下げた。
「母さん……」
不安げなティモシーに、大丈夫とミュアンは頷く。
「いい? 彼にはもう会ってはダメよ。語り掛けられても」
ティモシーは頷くも、どうやったら拒否できるかわからなかった。
「ハルフォード国ですって……」
「危害を加えるつもりはありません。ただ夢の話をお伺いに来ただけです」
警戒するミュアンに、レオナールはそう語り掛ける。
ミュアンは、ティモシーを見た。
「ごめんなさい。実は、レオナール王子にはバレてしまっていて……」
ティモシーは俯いて言った。
ミュアンは、一つため息をつくと、結界の中に足を踏み入れる。それに、ティモシーも続く。
「信用して頂きありがとうございます」
「別に信用したわけではありません」
ミュアンにそう返され、レオナールも少し困り顔だ。
「そうですか。やはり魔術師は信用して頂けませんか」
その言葉にミュアンは、レオナールを睨み付けた。
「彼に与えたそのペンダントは、魔術師から魔術師だと隠す為のものですよね? レジストの付与を付け誤魔化してはおりますが、逆に見抜かれれば魔術を使わずとも暴かれると思わなかったのですか?」
その問いにミュアンは、目を丸くする。
「まさか……」
「えぇ。そうです。私はそのペンダントで彼が魔術師だと気づきました」
「結構、自信があったのですが……」
ティモシーは、二人の会話に驚いた。
確かに魔術師だと隠す為だとミュアンから貰ったものだが、その対象が魔術師だとは思っていなかったのである。
「え? どういう事? 母さん」
「………」
ミュアンは、ティモシーの問いに答えない。
「ティモシー、あなたの父親は、あなた方が魔術師だとご存知ですか?」
ティモシーは、知らないと首を横に振った。
「この話はもういいでしょう! 夢の話をしましょう」
「そうですね」
ミュアンが強い口調でいうと、レオナールは頷き、今の話は一旦置いておく事にしたようだ。
「エイブという男がティモシーに近づいていました。知っている人ですか?」
ミュアンから切り出した。
「えぇ、王宮に入り込んでいた魔術師です。彼とはどのようなお話をなさったのでしょうか?」
レオナールの問いにミュアンは、そう言えばという表情を一瞬浮かべる。
「彼にもティモシーが魔術師だとバレているようです。ペンダントを造った方と言われました。あなたの言う通りですね……」
「気づかれてしまいましたか。それで接触をしてきたのでしょうか? ところで、あなたも同じ様にティモシーに接触をなさっておりましたがどのような魔術でしょうか? 出来ればお教え願いたいのですが」
ミュアンは首を横ふる。
「あれは魔術ではありません。ですが、あのエイブと言った者は何かしら教わって行っているのでしょう」
「と、申しますと?」
「あれは魔術ではなく、精神を体から切り離し、意識のみで行動するのです。一応ペンダントに見つけづらいように施していたのですが、あまり効果はなかったようですね」
魔術師でなくても行えるものだが、誰にでも出来る事ではない。もっと言えば、魔術師だとしても出来ない者には出来ない。
ジッと俯くミュアンをティモシーは見つめた。
ティモシーでも今の話を聞けばわかる。ミュアンがそれを扱う者達から身を隠していたことが……。でも、知れてしまったかもしれない。
「あなたはどこの出身なのでしょうか?」
「それはお答え出来ません」
「では、チミキナスナという、言葉に聞き覚えはありますか?」
「え?」
ミュアンの表情は知っていると語っていた。
「エイブが所属していると思われる魔術師の組織の名前なのですが……。ご存知のようですね」
レオナールがそう言うと、ミュアンはティモシーに振り返った。
「ティモシー、一緒にここを出ましょう!」
「出てどうするおつもりです? そのペンダントを持ってしても防げなかった。逃げられはしないでしょう」
ミュアンは、キッとレオナールを睨み付ける。
「わかっています! でも、ここにいたら守ってあげられないのです!」
「では、私が守って差し上げます。彼とすでにそういう約束をしております。いかがですか?」
ミュアンは少し考えあぐんでから頷いた。
「そうですね。息子の事をお願いします」
「あなたもご一緒にどうですか?」
「私は……明日一度、村に戻ります。後の事はそれから考えます」
ミュアンは、レオナールに頭を下げた。
「母さん……」
不安げなティモシーに、大丈夫とミュアンは頷く。
「いい? 彼にはもう会ってはダメよ。語り掛けられても」
ティモシーは頷くも、どうやったら拒否できるかわからなかった。
0
お気に入りに追加
676
あなたにおすすめの小説
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
【完結】気味が悪い子、と呼ばれた私が嫁ぐ事になりまして
まりぃべる
恋愛
フレイチェ=ボーハールツは両親から気味悪い子、と言われ住まいも別々だ。
それは世間一般の方々とは違う、畏怖なる力を持っているから。だが両親はそんなフレイチェを避け、会えば酷い言葉を浴びせる。
そんなフレイチェが、結婚してお相手の方の侯爵家のゴタゴタを収めるお手伝いをし、幸せを掴むそんなお話です。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていますが違う場合が多々あります。その辺りよろしくお願い致します。
☆現実世界にも似たような名前、場所、などがありますが全く関係ありません。
☆現実にはない言葉(単語)を何となく意味の分かる感じで作り出している場合もあります。
☆楽しんでいただけると幸いです。
☆すみません、ショートショートになっていたので、短編に直しました。
☆すみません読者様よりご指摘頂きまして少し変更した箇所があります。
話がややこしかったかと思います。教えて下さった方本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる