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第八章 惑わす声

第九十一話

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 その日の午後、調合室で調合をしていると、そこにブラッドリーが訪ねて来た。

 「悪いが、ダグとティモシーを借りる」

 何故その二人と思うもベネットは頷く。
 ティモシーは、ドキリとした。もしかしたらエイブさんは……。不安を胸にブラッドリーの後をダグと一緒について行った。
 連れて行かれたのは、レオナールの部屋だった。結界がある部屋。何かあったのには違いない。

 「失礼します。二人を連れてきました」

 中に入ると、レオナールの姿はない。やはり何かがあって、この部屋に集まっている。部屋には、グスターファスとルーファス、そしてランフレッドが居た。

 「何かあったんですか?」

 レオナール本人がいないのに、彼の部屋に連れて来られたのでダグも何かあったのだろうと気がついた。

 「二人が逃げた……」

 ため息交じりにグスターファスが言った。

 「え! どうやって?」

 ダグは、心底驚いていた。逃げられないと思ったから、レオナールは二人を置いて行ったのだろうと思っていた。なのに脱走したのである。しかも怪我で動けないエイブまで。

 「たぶん、ザイダが手引きしたのだろう。彼女の姿も消えた……」

 参ったとグスターファスは言う。
 ザイダは、二人が魔術師だと知らずに助け出したのに違いない。どうやって仲間と連絡を取ったかはわからないが、彼女一人では無理な話だ。

 「じゃ、エイブさんは生きている?」
 「面白い聞き方をするな? 王宮内にはいない。生きているかは不明だが、ザイダが手引きをしたとなるとエイブは生きているだろうな」

 ティモシーの質問にルーファスはそう答えるも目つきは鋭い。
 勿論ティモシーの質問に違和感があるからだ。昨日もそうだったが、様子が変だと言うのは、全員一致の意見だった。

 「お前、何か知っているのか?」

 ランフレッドが聞くも、ティモシーは慌てて首を横に振る。ここで夢の事を言う気にはなれなかった。

 「あの、ブラッドリーさんは、気づかなかったんですか?」

 ダグが聞くが、すまなそうに首を横に振った。

 「実は今朝、ヴィルターヌ帝国の使者が来ていて色々慌ただしかったのだ。その隙に逃げられた」

 ルーファスがそういうと、ティモシーは思い当たる。今朝、ブラッドリーがランフレッドを呼びに来た事を。

 「あの……。その人達は関係ないんですよね?」
 「わからん」

 ダグの質問にルーファスは、即答で返した。この場合は、可能性があると取るべきなのか。ダグは悩む。

 「実はヴィルターヌ帝国の使者の者は魔術師でな。だからここで話し合っているわけなのだ」

 グスターファスは、はぁっと大きなため息をついた。
 使者と二人の逃亡。偶然なのかそれとも策略なのか。

 「明日には、レオナール様がこちらにつくはずです。それにヴィルターヌ帝国の者は二人が捕らわれている事は知らないはずです。まあ、組織の者だった場合は、話は違いますが……」
 「使者が組織の人間なら、その国が組織の中枢って事になるけどな」

 ランフレッドがそう言うと皆頷く。

 「そうなると、宣戦布告の様なモノですよね」

 ダグがが発言すると皆、顔が険しくなる。

 「……ティモシー、あなたは今回の事について何も知らないのだな?」
 「え!」

 (俺、疑われているのか? 何で!)

 ティモシーは、グスターファスの質問に驚いて皆の様子を伺うと、全員ジッとティモシーの返事を待っていた。ティモシー自身は気づいていないが、いつもと態度が違うと周りは思っている。それで、この逃亡事件が起きた。疑うなというのは無理な話だ。

 「……関係ない」

 ボソッとティモシーは答えた。知らないとは言わない。逃げると知ってはいたが、夢の中の話だ。

 「そうか。わかった。信じよう。あなた達は、二人に関わっている。気を付けて過ごして欲しい」

 グスターファスの言葉に、二人は頷いた。
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