【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

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第八章 惑わす声

第八十八話

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 「ティモシーさん……」

 目を開けるとエイブが居るが、今日は何となく悲し気な表情だ。

 「今日はね。お別れを言いに来たんだ……」
 「え!」

 エイブは、驚いたティモシーに、何となく嬉しそうな表情を浮かべる。

 「実は仲間がお迎えにくるらしい」
 「どういう意味?」
 「そのままの意味さ」

 ティモシーは、目をぱちくりとする。何故、そんな事教えてくれるのだろうと。

 「と言っても、俺は殺されるだろうけどね」
 「……なんで? 仲間じゃないの?」
 「仲間というか、同志? でも、今の俺じゃ足手まといというか邪魔なだけ? 多分逃げるのは彼だけだと思うよ」

 エイブが言う彼とはトンマーゾの事だろう。やはり二人は繋がっていた。ティモシーは、そう思うも今はそれどころではない。

 「逃げるってどうやって? 結界が張ってあるんだよね?」
 「うーん。仲間に何とかしてもらうんじゃない?」
 「どうやって、連絡を……」

 魔術が使えないのでは? ティモシーはそう思い聞くがエイブはニッコリ微笑む。

 「こうやって。精神だけになって。多分つてがあるんじゃない? 俺と違って顔が広そうだし」
 「……何とかならないの?」
 「何とかとは?」
 「だ、だから殺されない方法というか」

 それを聞き、エイブは嬉しそうだ。

 「心配してくれるんだ」
 「そりゃ、まあ……」

 酷い目にあったというのに、ティモシーはエイブには死んでほしくなかった。

 「嬉しいな。会いに来てよかった。もし、生きていられたらまた会いに来ていいかな?」
 「勿論!」

 ティモシーは、大きく頷いた。

 「ティモシー!」

 突然ティモシーは呼ばれ驚き、声の方を振り向いて更に驚いた。ミュアンがいた。

 「え? 母さん? なんで……」

 ミュアンは、ティモシーの前に立った。

 「あぁ。ペンダントを造った方ですね? お会いできて光栄です。俺はエイブといいます。ティモシーさんには、仲良くして頂いてます」
 「何が目的で、近づいています!」

 エイブの言葉には耳を貸さず、ミュアンは彼を睨み付ける。

 「ちょっと、母さん!」
 「あなたも何をやっているの!」

 ミュアンは、ティモシーにも厳しい顔つきで言った。余り母親には叱られた事のないティモシーは驚く。

 「あぁ、彼を叱らないであげて。今日はただ、お別れを言いに来ただけだから」

 ジッと、ミュアンはエイブを睨み見つめる。

 「参ったなぁ。仕方がない。もう少しお話していたかったけど……元気でね。あ、そうそう。俺、一応薬師です。魔術師を敬遠しているのなら、ちょっとご忠告。王宮にはまだ魔術師がおりますよ。では、失礼します」

 エイブは、二人に礼をすると、スッと消え去った。

 「あ、待って!」

 手を伸ばすも彼の姿はもうなかった。

 「明日の朝、会いに行きます」

 それだけ言うと、ミュアンもスッと消えた。

 「エイブさん……。死なないで」

 夢のはずなのに、ティモシーは不安な気持ちでいっぱいだった――。
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