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第八章 惑わす声
第八十五話
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暫くするとランフレッド達は、トンマーゾを連れて戻って来た。彼は、ブラッドリーとダグの間に座らされる。ティモシーは、ダグとザイダの間に移った。
「さて、約束通り呼んだ。話してくれるな。ザイダ」
ザイダは、グスターファスの問いに頷いて答えた。
「私は、ティモシーに追われて、隠し扉の向こう側に身を隠したわ。扉の存在は前に発見していたの。使ったのは初めてだったけど」
やっぱり存在を知っていたとティモシーは一人頷く。
「その時、下に続いていたので下りたのよ。一階に続いていると思ったら地下牢に続いていたわ。壁にのぞき穴があって覗いたらトンマーゾさんが居て、隣にエイブさんもいるみたいだって言うから覗いたの……」
ザイダは辛そうな顔をする。
「ベットに寝かされ、大怪我をしたエイブさんが居たわ。驚いた私に、トンマーゾさんは、そうしたのはブラッドリーだって教えてくれたのよ!」
ザイダは、最後の方をブラッドリーを睨んで叫ぶように言った。
「トンマーゾよ。あなたは、経緯を知らないのに彼女にそのような事を言って惑わせたのか?」
「惑わせるねぇ。確かにエイブがどういう状況かは見ていない。だが、彼女に状況を聞いた。後は簡単だろう? あの魔術師の王子の仕業ではないのであれば、彼しかいまい。それとも外れていたか?」
トンマーゾも最後は、ブラッドリーに問いかけるように言った。彼は、ザイダにエイブの状況を聞いて、そんな怪我を負わせられるのは魔術師しかいないと思った。そう言ったのである。
「で、今日はあの王子が仕切っているんじゃないんだな? 王子も暇ではないか」
「王子……?」
誰の事だとザイダは呟く。
「なるほど。推測を聞かせた訳だな」
グスターファスがそういうと、トンマーゾは首を横に振る。
「推測ではなく結論ですよ。陛下。まあ、それが合っているかは、ティモシーに聞けばわかるでしょう。なあ、ティモシー」
ティモシーは、トンマーゾの問いに俯く。あの場面を思い出す。よく考えれば残酷だ。一歩間違えば死んでいただろう。
「もしかして、殺すつもりだった?」
つい、ボソッとティモシーはブラッドリーに聞いた。
彼は、少し間を置いてから、口を開く。
「そういう訳ではない。私は攻撃が苦手で結界が得意。だからあの方法を取った。彼の攻撃の威力が思ったより凄かっただけだ。殺すつもりなどなかった」
ブラッドリーの答えにランフレッドは驚いた。エイブに攻撃したのではなく、攻撃を反射したという答えだったからだ。何が起こったかは、レオナールには話してあるかもしれないが、実は語られていなかった。ここで真実を知っているのは、ティモシーとブラッドリーの二人だけである。
「でも、封印っていう……」
「残念ながら無理だな。彼に勝っているのは、結界だけだっただろう」
ティモシーの言葉に重なるように、ブラッドリーは答えた。ティモシーは信じられなかった。そうは見えなかったからである。堂々としていたし、エイブもそう思っていただろう。
「ブラッドリーさんは、とんだ策士だねぇ」
トンマーゾは、大袈裟なリアクションでニヤリと笑いながら言った。
「ねえ、いったいエイブさんが何をしたというの? 今の話からすると、攻撃を仕掛けてくるように仕向けたって事よね?」
そう……攻撃をするように仕向けた。そして、逃げられないようにして攻撃をした……。確実にダメージを与える為に。本当にあそこまで必要だったのだろうか? ティモシーは、売り飛ばそうとした相手だが、何故かそんなに悪い人ではないと思っていた。いや、この数日間でそう刷り込まれていたのかもしれない。
「彼が何をしたのかは、あなたには話せない。これは君を守る為でもある」
ザイダは、グスターファスの言葉に彼を睨みつけ俯いた。
「だったらもう何も話さないわ!」
「じゃ俺もそうするかな」
ザイダの言葉に合わせるようにトンマーゾは言う。彼は最初から話す気などないだろう。
「そうか。ならば仕方がない、今日はここまでとしよう」
グスターファスは、ティモシーも話さないだろうと思い、今日は終了する事にした。何とも後味が悪い終わり方になったと、彼は心の中でため息をついた。
部屋に戻って来たティモシーは、ボフンとベットに横になる。
「なあ、お前、誰かに何か言われたか?」
ランフレッドの言葉に、ティモシーはチラッと彼を見て、そして背を向ける。
「俺に誰が何を言うっていうんだ」
ティモシーの返事に、ランフレッドは何も返せない。彼に何かをいう者などいない。では一体ティモシーに何があったのか。ずっとこの頃すれ違いでまともに話していない。ティモシーに何が起きたかランフレッドは気づけなかった。
そして、夜も更けて行った――。
「さて、約束通り呼んだ。話してくれるな。ザイダ」
ザイダは、グスターファスの問いに頷いて答えた。
「私は、ティモシーに追われて、隠し扉の向こう側に身を隠したわ。扉の存在は前に発見していたの。使ったのは初めてだったけど」
やっぱり存在を知っていたとティモシーは一人頷く。
「その時、下に続いていたので下りたのよ。一階に続いていると思ったら地下牢に続いていたわ。壁にのぞき穴があって覗いたらトンマーゾさんが居て、隣にエイブさんもいるみたいだって言うから覗いたの……」
ザイダは辛そうな顔をする。
「ベットに寝かされ、大怪我をしたエイブさんが居たわ。驚いた私に、トンマーゾさんは、そうしたのはブラッドリーだって教えてくれたのよ!」
ザイダは、最後の方をブラッドリーを睨んで叫ぶように言った。
「トンマーゾよ。あなたは、経緯を知らないのに彼女にそのような事を言って惑わせたのか?」
「惑わせるねぇ。確かにエイブがどういう状況かは見ていない。だが、彼女に状況を聞いた。後は簡単だろう? あの魔術師の王子の仕業ではないのであれば、彼しかいまい。それとも外れていたか?」
トンマーゾも最後は、ブラッドリーに問いかけるように言った。彼は、ザイダにエイブの状況を聞いて、そんな怪我を負わせられるのは魔術師しかいないと思った。そう言ったのである。
「で、今日はあの王子が仕切っているんじゃないんだな? 王子も暇ではないか」
「王子……?」
誰の事だとザイダは呟く。
「なるほど。推測を聞かせた訳だな」
グスターファスがそういうと、トンマーゾは首を横に振る。
「推測ではなく結論ですよ。陛下。まあ、それが合っているかは、ティモシーに聞けばわかるでしょう。なあ、ティモシー」
ティモシーは、トンマーゾの問いに俯く。あの場面を思い出す。よく考えれば残酷だ。一歩間違えば死んでいただろう。
「もしかして、殺すつもりだった?」
つい、ボソッとティモシーはブラッドリーに聞いた。
彼は、少し間を置いてから、口を開く。
「そういう訳ではない。私は攻撃が苦手で結界が得意。だからあの方法を取った。彼の攻撃の威力が思ったより凄かっただけだ。殺すつもりなどなかった」
ブラッドリーの答えにランフレッドは驚いた。エイブに攻撃したのではなく、攻撃を反射したという答えだったからだ。何が起こったかは、レオナールには話してあるかもしれないが、実は語られていなかった。ここで真実を知っているのは、ティモシーとブラッドリーの二人だけである。
「でも、封印っていう……」
「残念ながら無理だな。彼に勝っているのは、結界だけだっただろう」
ティモシーの言葉に重なるように、ブラッドリーは答えた。ティモシーは信じられなかった。そうは見えなかったからである。堂々としていたし、エイブもそう思っていただろう。
「ブラッドリーさんは、とんだ策士だねぇ」
トンマーゾは、大袈裟なリアクションでニヤリと笑いながら言った。
「ねえ、いったいエイブさんが何をしたというの? 今の話からすると、攻撃を仕掛けてくるように仕向けたって事よね?」
そう……攻撃をするように仕向けた。そして、逃げられないようにして攻撃をした……。確実にダメージを与える為に。本当にあそこまで必要だったのだろうか? ティモシーは、売り飛ばそうとした相手だが、何故かそんなに悪い人ではないと思っていた。いや、この数日間でそう刷り込まれていたのかもしれない。
「彼が何をしたのかは、あなたには話せない。これは君を守る為でもある」
ザイダは、グスターファスの言葉に彼を睨みつけ俯いた。
「だったらもう何も話さないわ!」
「じゃ俺もそうするかな」
ザイダの言葉に合わせるようにトンマーゾは言う。彼は最初から話す気などないだろう。
「そうか。ならば仕方がない、今日はここまでとしよう」
グスターファスは、ティモシーも話さないだろうと思い、今日は終了する事にした。何とも後味が悪い終わり方になったと、彼は心の中でため息をついた。
部屋に戻って来たティモシーは、ボフンとベットに横になる。
「なあ、お前、誰かに何か言われたか?」
ランフレッドの言葉に、ティモシーはチラッと彼を見て、そして背を向ける。
「俺に誰が何を言うっていうんだ」
ティモシーの返事に、ランフレッドは何も返せない。彼に何かをいう者などいない。では一体ティモシーに何があったのか。ずっとこの頃すれ違いでまともに話していない。ティモシーに何が起きたかランフレッドは気づけなかった。
そして、夜も更けて行った――。
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