【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

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第八章 惑わす声

第八十三話

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 ティモシーは、目が覚めた時、心臓がバクバクいっていた。そして今日は、少し夢の最後を覚えている。『ブラッドリーさんには気を付けて!』そう耳に残っていた。

 (なんでそう言われたんだっけ?)

 ティモシーは、上半身を起こしボーっと考える。そう言えばこの頃、エイブさんの夢見ていた気がする。

 (そうだ。ザイダさんが、しつこいと教えてくれたのも夢の中のエイブさんだ。……本当に夢なんだろうか?)

 ティモシーは、ふと首に手を持っていく。包帯が巻かれていた。それをほどく。そして、傷口を直に触る。

 (覚えがある。俺、こうやって触った……)

 そう思い出すと、ある言葉も思い出す。『自分の事棚に上げるようだけど、君を魔術師だと知らない魔術師は、信用しない方がいいよ。基本、普通の人達に虐げられた事あるはずだから。何とも思わず利用すると思うよ』
 ティモシーは混乱していた。夢のはずなのに、現実味を帯びていて、本当に言われたような気がした。

 「どうかしてる。今、あの人は牢の中。話せない状態だし……」
 「おぉ、起きていたか」

 ティモシーは、ビクッと体を震わせる。
 ランフレッドが、部屋を覗きに来たのか、それとも帰って来たのか、そう声を掛け入って来た。

 「あ、ごめん。昨日寝ちゃった」

 心臓が飛び出るほど驚いたが、平然として言えた。

 「いや、いいけどって、どうした? 傷痛むのか?」

 ティモシーはドキリとする。
 包帯をほどいている事に気が付き、ランフレッドは気になって聞いたのだろう。

 「え? あ、傷どうなってるかなって診てただけ」
 「そうか。あ、昼からは聴取になったからダグと一緒に来いよ」

 ティモシーは頷く。
 ランフレッドは、伝えると「じゃ後で」と部屋を出て行った。
 ティモシーは、何もやましい事などはずだが安堵する。

 「俺、何、ビクビクしてるんだ? ……聴取か。俺、ここに来てから何回目だ?」

 小さくため息をつくと身支度をし、迎えに来たダグと一緒に調合室に向かった。
 午前中は、昨日と同じく簡単な調合をこなし、昼食後ティモシーとダグは聴取の為、五階の応接室に向かった。



 グスターファスとルーファスが並んで座り、後ろにランフレッドが立ち、前には四人座っている。右から順に、ブラッドリー、ティモシー、ダグそしてザイダだ。
 今回、ブラッドリーも聴取される側なので、一緒に座っているのである。

 「さて今度は、昨日の事をお伺いしたい」

 四人を見渡しグスターファスが言った。

 (今度は? もしかして午前中も聴取していたとか?)

 予想通りミゲルとギルシュそしてザイダを呼び、道具アイテム倉庫の件を聞いていたのである。

 「ザイダ、あなたは、何故あのような事を起こしたのかお聞きしたい」
 「………」

 グスターファスがそう問うも、ザイダは口を開かない。そこで、彼はティモシーを見て問う。

 「ティモシー、あなたは彼女から話を聞いたというがどうかね? どんな話を聞いたか教えてほしいのだが」
 「……それは」

 ティモシーは、ためらう。出来れば、ザイダに話して欲しかった。そのほうが、彼女の思いがまだ、グスターファス達に届くのではないかと考えた。

 「ザイダさんから直接聞いて下さい」

 ティモシーの言葉に全員驚く。素直に話すと思っていたからだ。ザイダも驚いていた。

 「そうね。ここに、トンマーゾさんを連れて来て、彼からも証言を取るというのならいいわ」

 ザイダは、取引めいた事を言い出した。トンマーゾは魔術師だ。レオナールがいない今、ここに連れて来るのは危険なのではないか。皆、同じ考えである。

 「それはできない」
 「何故ですか?」

 グスターファスは言葉に詰まる。トンマーゾが魔術師だからとは言えないからである。彼女が、ブラッドリーの事を魔術師だと聞かされていたとしても今はまだ誤魔化せる。だが、トンマーゾが魔術師だと明かせば、ブラッドリーが魔術師だというの事は否定出来なくなる。
 それに、トンマーゾ達が、魔術師だと知ってしまえば危害が及ぶかもしれない。

 「オレ……私も、トンマーゾさんから話を聞きたいです」

 ティモシーの言葉に、また周りが驚く。
 何かおかしい。ランフレッドは、ティモシーの様子をそう捕らえる。ダグも一緒だ。
 ティモシーは、トンマーゾに聞きたかった。ザイダが魔術師ではなかったから利用したのか。それとも、ちょうどよく現れたからなのか……。
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