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第八章 惑わす声

第八十二話

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 「ティモシーさん」

 何故か語尾が上がって呼ばれたような気がして目を開ける。
 エイブが機嫌がよさそうに声を掛けていた。

 「……エイブさん」
 「今日も元気ないね? って、ここどうしたの?」

 エイブは、自分の首をちょんこんと指差した。ティモシーは、自分の首に手を持っていき、ハッとする。
 包帯は巻かれていない。直接傷口に触れるも痛くもないし、勿論出血も止まっている。

 「………」
 「言いたくないら別にいいけど」

 ティモシーは、ジッとエイブを見つめた。エイブに関係する事だが、どちらかと言うとティモシーには、トンマーゾに非があると思っている。

 「あのさ。……トンマーゾさんってどんな人?」
 「トンマーゾさん? もしかして、彼が……」

 ティモシーは、彼がやったのと同じ事だと思うも首を横に振る。

 「まあ、いいや。彼は俺から見ると、ずる賢いというか、せこいというか……。あ、そうそう。お金にがめついがしっくりくるかな?」

 ティモシーは、あぁ、なるほどと頷く。エール草を栽培していたので納得したのである。

 「ところでなんでまた彼の話なんか……。君と接点あるように思えないけど……」
 「え? あぁ……。うーん……」
 「言えないならいいよ」

 エイブは、それ以上聞こうとはしなかった。

 「ねえ、俺も質問あるけどいいかな?」
 「えっと、何?」
 「ブラッドリーさんって、君が魔術師だって事知ってるの?」
 「え?」

 ティモシーは、なぜ彼が自分が魔術師だと知っているのかと驚く。

 「あ、この姿になったから、君の魔力の量で気づいたんだ。魔術を使っていなかったとしても、量が多いからね」

 エイブは、ティモシーが驚いている訳に気づき説明をすると、質問の答えを促すようにティモシーを見つめる。

 「えっと。どうだろう? 多分、知らないと思う……」
 「だよね?」
 「え?」

 エイブの相槌に、ティモシーは、どういう事なんだろうかと驚く。

 「彼は、俺の事も嵌めたけど、君の事も嵌めたと思うよ」
 「どういう意味?」

 ティモシーは、心臓がドクンドクンと脈打つのがわかった。

 「俺の仕事を手伝っていたのが、ブラッドリーさんだったって事。自分が手伝えないとなれば、誰か手伝わせるだろう? もし君を指定しなかったとしても、あの場合、君をあてがうのは自然だよね?」
 エイブの言葉に、ティモシーは茫然とする。動きを見せない彼を嵌めるのにちょうどいい自分がいた。だから利用した?

 (もしかして今回も……)

 ブラッドリーが、ランフレッド達にさえ報告を入れなかった事を思い出す。何か意図があったのではないか。そう思い当たる。

 「もしかして、何かあった?」

 ティモシーは無意識に、首の傷に手を持って行った。

 「自分の事棚に上げるようだけど、君を魔術師だと知らない魔術師は、信用しない方がいいよ。基本、普通の人達に虐げられた事あるはずだから。何とも思わず利用すると思うよ」

 ティモシーはそれを聞いて、目を見開く。
 ブラッドリーではなく、トンマーゾの事を思い浮かべる。彼は、ザイダを利用した。彼女に指示など出していない。だが、エイブを誰がこんな目に合せたか教えれば、彼女は勝手に動く。それをわかっていて教えている。
 エイブの言う通りだ。トンマーゾの事をあてはめ、そう納得した。

 「ブラッドリーさんには気を付けて!」

 ティモシーは、頷いた――。 
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