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第七章 彼と彼女の復讐劇
第七十一話
しおりを挟む幼い頃から花に囲まれていた。
領地は決して豊かでも便利でもなかった。
それでも特産物になるオリーブにハーブのおかげで領民は食べるのに困らなかった。
長男でありながらも、平凡で魔力もなかった。
他の貴族からは男の癖に花の土いじりが趣味なんて軟弱だと馬鹿にされたが、花の手入れは好きだった。
花は愛情を注げば応えてくれる。
精魂込めれば美しい花を咲かせ、人々に癒しを与えてくれるから。
「ルイス…」
「母上」
体が弱い母上に少しでも癒しの時間を与えたい。
もう余命が後僅かの母上が少しでも笑顔で過ごせるようにと願いを込めていた。
けれど、母上の病は酷くなる一方だった。
元から体が弱かった母は私の出産でさらに体が弱くなり、一日中ベッドで寝たきりな状態も多かった。
それでも、伯爵領地では母は聖女のように慕う領民が多かった。
薬学を学び、病気で苦しんでいる人の為に少しでも手助けになるようにと務めている母上は、病気が辛くとも弱音を吐かなかった。
そんな母が誇りで大好きだった。
けれど、日に日に痩せて行く母を毛嫌いする人がいた。
「ルイス、あの人を外に出さないちょうだい。病気がうつったらどうするの」
「マリエル…」
ストラス伯爵令嬢のマリエル。
俺の婚約者であり、俺は彼女の実家の婿養子になることが決まっている。
通常は長男ではなく次男以下が婿養子になるのが当然だったが、姉が跡継ぎとなることが決まっているので俺が婿養子に入る事になっていた。
ただ、長男でありながら跡継ぎにもなれない俺を見下し、罵倒する声は多かった。
けれど、花が多くの役割を持つように、人には向き不向きがあるのだとも思っていたのに。
「母上の病気はうつったりしないよ」
「やせ細った醜い体で外を歩かれたら、ストラス家の恥だわ。無能で出来損ないのルイスを婿養子にする時点で汚点なのに…いい?貴方は婿養子になるけど、私と対等になれるなんて身の程を弁えてね」
「解っているよ」
「解っている?解ってますでしょ」
俺の言葉が気に入らなかったのか地面の砂をかけ見下す。
マリエルはストラス伯爵家の跡継ぎである事から傲慢だった。
無能で何をしても平凡な俺を夫として迎える気はないようで、物心ついた頃から俺を見下し、汚い物を見るような目を向けていた。
それでも、仕方ない事だから耐えて来た。
「解ってます」
「フンっ、情けない男。本当に無能で役立たずで最低ね!」
家族の為にも、耐えなくてはならない。
ストラス家との縁ができれば姉の後ろ盾を用意できる。
俺なんかにできることはそれぐらいしかないのだから。
「ルイス!なんて格好なの!」
「姉上…」
泥だらけになった体を洗おうと井戸に向かうも、姉にバレてしまった。
「もう我慢できないわ。マリエル様はルイスを何だと思っているの!」
「姉上、声が大きいです」
「貴方も何、黙っているのではありません!」
フェンネル伯爵家長女、アディール。
男装の麗人と言われる程凛々しい姉上は男顔負けの剣の使い手だった。
その所為か、周りからは逆転姉弟とも言われている。
父にも性別を間違えて生まれて来たのでは?とも言われる程だった。
「婿養子でも夫となる相手にこんな事許されるはずはありません!やはり剣の…」
「姉上、物騒な物言いはお止めください」
「チッ…」
この通り姉は血気盛んだった。
剣の腕はいいけど、女性らしさが欠けている。
まぁ、母と俺を守る為に剣を取ったので仕方ないけど。
俺にできるのは姉上の後ろ盾を作ること。
それだけだったけど――。
俺とマリエル嬢の関係は最悪だったが、まさかあんな事になるなんて思いもしなかった。
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