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第七章 彼と彼女の復讐劇

第六十九話

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 部屋には、ペラペラとページをめくる音が静かに響いていた。
 話が終わったが、ダグとティモシーはそのまま残り、魔術師に関する本を読まされていた。ダグもティモシー同様、自分で翻訳しながら読んでいる。
 その彼の手が止まった。腕にはもうブレスレッドはない。

 「あの……」
 「何です?」

 レオナールは読むのをやめ、顔を上げてダグを見た。ティモシーも彼を見る。

 「捕まった二人って今、どうなってるんですか?」

 ダグはふと思った。ここは、魔術師の国ではない。ただ牢屋に入れてあるだけなのだろうかと、疑問が湧いた。
 ティモシーもその質問を聞いてそういばと思い、レオナールを見た。

 「問題ありませんよ。魔力を封じ込めるアイテムを付け、結界の中にいます」
 「ブラッドリーさんが張っているんですか?」

 彼が、建物に結界を張ったのを見たことがあるティモシーは聞いた。

 「そうですね。結界は彼が張ったモノです。それを維持しているのは、私の魔力です。トライアングルを使っています」
 「トライアングル?」

 ダグが復唱すると、レオナールは頷いた。

 「私が命名しました。魔法陣の文献にあったのですが、そこに魔法陣の外周の円は、魔力を供給する役割もあると書いてあったのです」

 魔法陣とは、円を描きその中に文様を書く事によって、条件が揃った時に発動できる魔術である。今は使われておらず、それを記した書物も少ないので使える者がいないと思われていた。
 だが、エイブは魔法陣を応用して刻印を施していたとみられる。

 「実は綺麗な円を描かなくては、魔力を供給する力が発揮されないようなのです。そこで、円でなくともいいのではと思い、三角を描いて試してみたのです。三つの点を直線で結ぶ方法で、綺麗な直線が描ければ、円同様に魔力を供給出来ると確認できました」

 レオナールは更に詳しく説明した。
 魔力で描いたトライアングルは、その内側の結界などの魔術に魔力を供給し維持する事が出来る。それは、トライアングルが消える前にそれに、魔力を注げば半永久的に維持が可能だった。
 そして、トライアングルのもう一つの特徴は、見つかりづらいというところにあった。つまりは、関知されづらいのである。その為、トライアングルの中にある結界もまた、みつかりづらい。
 二人はそれを聞き、感心して頷いていた。

 「この部屋も結界が張られています。トライアングルを使っていると、中に入っても気づかないでしょう? まあ、これが魔力を封じるモノであれば知れるところでしょうが」

 二人は、部屋を見渡した。レオナールに言われるまで、二人は気づけなかった。

 「凄いな。全然気づかなかった」

 ダグは、ボソッと感想を漏らした。

 「もし万が一の事を考え、出来るだけ気づかれない様にと行ったモノだったのですが、本当にブラッドリー以外に魔術師が内部にいて、私も驚いているのです」

 エイブにティモシー、そしてダグにトンマーゾと次々に現れ、他にも潜んでいるかもしれないと、警戒を強めたところである。
 ティモシーも王宮内に魔術師がいて、いや同じく試験を受けていた。襲った相手も助け出してくれた相手も王宮内の人物。驚くほど自分に関与していると、ふとティモシーは思った。
 もし受けた試験が普通の薬師の試験だったならば出会う事もなった人達。何となく運命的なモノを感じ取った。

 (俺、大丈夫だよな?)

 普通の薬師としての生活に戻れるだろうか? と不安に思うティモシーだった。



 翌日、ダグの両親を連れてレオナールは、自国のハルフォード国に帰って行った。
 ダグは両親を見送ると、第一倉庫に向かった。ティモシーとアリックは暫く仕事が休みの為、彼は午前中はメジドルクの補佐を午後はベネットと一緒に護衛付きで配達をする事になったのである。そして、ティモシー同様王宮に暫く泊まる事になっている。
 ティモシーは、大人しくレオナールの部屋に行き、本を読むことにした。部屋の鍵は預かっている。ブラッドリーが解除した本棚から本を取り出し、昼間はずっと魔術の本を閲読する。静かにその日は過ぎ去った――。
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