【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

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第五章 疑惑の彼

第五十三話

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 「ティモシー、起きろ」

 ティモシーは、自分の呼ぶ声が聞こえると目を覚ます。

 「ランフレッド?」

 医務室で待っている間、寝ていてもいいと言われたティモシーは、布団を被って横になっていた。そして、いつの間にか本当に寝てしまったようだ。

 「大丈夫か?」

 ティモシーは、頷きながら体を起こした。部屋にはアリックとダグはすでにいなかった。代わりにレオナールが居た。ティモシーは、彼を見てビクッと体を振るわす。

 「ダグとアリックは帰ったよ。今日から暫くは、薬師達は馬車で送り迎えする事になった。街も見回りも強化される事になった。でだ……」

 そこで何故かランフレッドは一旦言葉を切った。そして言いづらそうに続ける。

 「王宮が手薄になるので、俺は、二十四時間王宮に滞在する事に決まった。つまり、家に帰らない。そうなるとお前は、夜一人で家にいる事になるだろう? そこで王宮に泊まる許可をもらったから、お前も俺と一緒に暫くは王宮暮らしに……」
 「は? なんで? 一人で大丈夫だし!」

 ティモシーは、ランフレッドが言いたい事がわかり、言い終わる前に抗議する。王宮に滞在するという事は、レオナールの相手をする事になるのは、目に見えていた。

 「大丈夫って、お前なぁ。二度も狙われたんだぞ! 一人にしておけるか! 正式に陛下に許可を取ったんだ!」
 「え! でも、俺だけ特別って!」
 「別にお前だけっていう訳じゃない! 今回に限り、申し出があれば泊まる許可を陛下は出したんだ! まあ、今のところはティモシーだけだけどな……」

 ティモシーは、それを聞き俯いた。
 暫く王宮に泊まる事は、決定事項で覆す事は出来そうにもない。ティモシーは、大きなため息をついた。

 「レオナール王子がお前に話があるらしい。俺は仕事に戻るが、後で迎えに来るから話が終わったら大人しくここで待ってろよ」
 「え!」

 レオナールが部屋にいるので、話があるのだとは思ったが、ランフレッドも一緒だとティモシーは思っていた。

 「では、俺はこれで失礼します」

 ランフレッドは、レオナールに軽くお辞儀をすると、ドアに向かう。ティモシーはそれをボー然と見送っているとレオナールが視界に入った。彼は、ティモシーが寝ていたベットに腰を下ろしたのである。そして、ベットの周りに結界を張った。

 「別にあなたに危害をくわえる気はありませんよ」
 「はい……」

 ティモシーは、医務室に来た時よりもだいぶ落ち着きを取り戻していた。襲ってきた男たちが、自分達三人を最初から殺す気はないかったと今はわかっていた。殺す気があるのなら、最初にあの爆発を起こしていたに違いないからである。
 レオナールがあの男立ちを遣わせたわけでもない事もだ。あの男たちは、三人を拉致するつもりだったと言っていたからだ。レオナールにそれをする理由がない。
 落ち着いてみれば、わかる事だった。

 「今、結界を張ったのはわかりましたか?」
 「え? あ、はい。ベットの周りに……」

 何故そんな質問を? と思いつつティモシーは、素直に答えた。レオナールは、満足げに頷いた。

 「この結界は、声を外に漏らさない為のモノです。そして、これがわかったのなら、あそこで魔術が使われていれば、あなたは気づいているはず。聞かせてくれませんか? 何があったのか」

 ジッとティモシーを見つめるレオナールの瞳をティモシーは、ジッと見つめ返す。

 「あの……。亡くなったのは二人だけですか?」
 「えぇ、そうです。一人は命に別状ありませんが、まだ目を覚ましておりません」

 ティモシーの問いに、静かにレオナールは答える。
 一人の男は生きていた。そうなれば、ティモシーが話さなくともダグがやった事は男が目を覚ませばわかる。いや、二人を殺したところは見ていない。だが、ダグがやっただろうと推測はできるだろう。ただ、証拠はないし、普通なら男二人を簡単に首を絞めて殺せない。言い逃れができるだろう。
 自分が話した事を内緒にしてもらった所で、アリックにかかった術をダグ自身が解いているのだから、見ていたのは自分だとわかるだろうとティモシーは思った。それは、自分がダグと同じ魔術師だとバレる事になる。
 こうなったのだから、ダグにバレても仕方がないのかもしれないが、逆恨みをされる可能性がある。魔術を使われれば、ティモシーはダグに勝てない。

 「あなたの身の安全は、私が守って差し上げます。ですのでお話して頂けませんか?」

 レオナールには、見透かされているようだった。多分、ダグが魔術師だろうと見当もついているのだろう。ティモシーは、こくんと頷いた。覚悟を決めたのだ。
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