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第五章 疑惑の彼

第四十七話

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 「お前、レオナール王子に偉く気にいられたみたいだな」

 家に帰り夕食後、紅茶を飲みながらランフレッドは嬉しそうに言うが、ティモシーの方は嬉しくない。逆に避けたい相手である。

 「勘弁してほしい。ブラッドリーさんとも仲いいみたいだし……」

 ため息交じりにティモシーは、そう返す。

 「仲いいってお前。ブラッドリーさんは、レオナール王子の部下だぞ? ハルフォード国の人だ」
 「え? ブラッドリーさんって、王族なの?」
 「いや、違うって。王族以外全くいない訳じゃないし。自分たちが魔術師だからか、魔術師だと名乗る者が忠誠を誓えば、囲まってるらしい。まあ、彼がそうかは知らないが」

 やっと二人の関係がわかり、スッキリするティモシーだが、別に安心感を得られた訳でなかった。
 レオナールに逆らえば、ブラッドリーがこっそり相手を始末――なんて事もありえるのではないかと、恐ろしい想像をしてしまう。なにせ、殺さなかったはいえ、エイブにした攻撃は容赦なかったのだから。



 翌日、まだ筋肉痛の腕で三人は調合を行い、午後からは、一か所しかないので三人で配達となり、倉庫の手伝いでなくてよかったと喜んで出掛けた。
 今日の配達先は、トラスアイテム。街が造られた時から開業している大企業である。薬師が使う道具や研究所が使う道具など、始めの頃は薬師の道具だけだったが今では幅広く生産している。
 トラスアイテム印の道具はブランド品として他国でも人気で、国外でも販売されている。勿論、王宮での道具は、全てこのトラスアイテムの物を使っていた。
 また、観光用に薬草付きの道具などを販売しており、たまに配達があるのである。
 そして、ティモシーは今日、それを知ったのだった。

 「全く、お前には呆れるわ。薬師の癖にトラスアイテムを知らないなんて……」
 ため息をしつつダグはそう言うも、ティモシーならおかしくもないとも納得する。むくれるティモシーだが、お店も開いていると聞いているので、見て帰れるとワクワクしていた。
 時間にして九十分ほど。ティモシー達には苦にならない距離である。天気もいいしルンルンでティモシーは歩いていた。

 「お前があまりにも機嫌がいいと、何かよくない事が起きそうで嫌だな」
 「何それ!」

 ダグがからかうと、いつものようにティモシーが反応しケラケラとダグは笑う。

 「もう、ダグさん、機嫌悪いよりいいんだから、ティモシーをからかうのやめて、あ、ここを曲がろう」

 アリックは、こっちと道を曲がった。

 「こっち? もっと真っ直ぐじゃなかったか?」

 ついて行くが、真っ直ぐの道を指差しダグは言う。

 「裏口の方が手前にあるんだよ。建物が大きいから十分ほど短縮なるよ」
 「え! お店屋さんは!」

 店を見て回るのを勝手に楽しみにしていたティモシーが驚いて言うと、二人はあきれ顔だ。

 「あのな、店は別な場所にあるんだ。こんな所にある訳ないだろう? って、言うかお前は、ホント懲りないな」
 「え、だって、配達……」

 薬草をここに持って行くのだから、ここで販売をしていると思っていたティモシーにアリックは丁寧に教える。

 「あのね。ここで作った道具と一緒にセットにして、商品としてお店に送っているの。だから、お店は別の場所だよ。それにお店には寄らないからね。仕事中はダメだってオーギュストさんに散々言われたでしょ」

 ティモシーはガックシと肩を落とす。ダグの言う通り辺りを見渡せば、遠くに見えるトラスアイテムの大きな建物以外には、トラスアイテムの社員用の宿舎ぐらいしかなかった。
 ここ一帯は、昔からトラスアイテムの敷地で建物も建っていない空き地もあり、観光には不向きな場所だ。観光客が来るとすれば工場見学ぐらいだろう。

 「わかったか? まあ、そんなに行きたいのなら早く上がれた日の帰りにでも連れて行ってやるよ。連れていくだけだけどな」

 ダグはお金は出さないけど、買い物には付き合ってやると言うと、ティモシーは嬉しそうに頷いた。

 「ホントちょろいな。大丈夫なのかよ……」

 ダグを信用しているからの態度なのだろうが、この前それで痛い目に合ったばかりだ。

 「僕も一緒に行くからね!」

 アリックは、ダグを軽く睨みながら言った。

 「お好きにどうぞ。俺は、アリックと違って下心ないし」
 「僕にだってないよ!」

 今度はアリックをからかい、ケラケラとダグは笑う。
 そんなやり取りをしながら進んでいると、目的地のトラスアイテムの裏口についた。配達を終えて後は王宮に帰るだけだ。
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