42 / 192
第四章 魔術師の国の王子
第四十二話
しおりを挟む
次の日、調合室のドアの前にティモシーは、昨日買ったばかりのポーチを身に着け立っていた。今までにない程緊張して、ドアを開ける。
「お、おはようございま……うわ」
「ティ、ティモシー!」
ティモシーは挨拶が終わるか終わらないかぐらいに、ガバッと抱き着かれた!
「ちょ! え! ベネットさん……は、離れて!」
彼女は涙目でギュッとティモシーを抱きしめるが、ティモシーもお年頃。顔が真っ赤である。ティモシーは、母親以外の女性に抱きしめられたのは初めてだった。
「おいおい、ティモシーが窒息するって……」
ダグが呆れてそう言うと、ベネットはやっとティモシーを開放した。
(びっくりした。一体何なんだ……)
「あ、ごめんなさい。もしかしたら、このままもうって思っていたから……」
ベネットは、目に溜まっていた涙を拭いつつ、嬉しそうに言った。
あんな目に会えば仕事場に出て来づらく、このまま辞めてしまうのでは? とベネットは思っていた。
「心配かけてごめんなさい。皆、心配して言ってくれていたのに、あの時は見えてなくて……」
「まあ、恋は盲目って言うしな」
ティモシーの言葉に、いつも通りダグは返してきた。
「だから恋とかじゃないって! あの人は、私の欲しい言葉を掛けてくれて、それを自分を認めてくれているからだって思って……。でも実際は、信用させる為の手口で……。大人として扱われていると思っていたのに、子供だったから簡単に引っかかったって……」
最後は悔しそうにティモシーは言った。三人は何も言えず、ただ頷く事しか出来ずにいた。王宮内で一番年下と言うのもあるので子供扱いされるのも仕方がない。何せ、次に若いのはアリックである。年齢に開きがあった。また、世間知らずでそれに拍車を掛けていた。
「まあ、俺達はお前の事を理解してるつもりだが、噂も広がってしまってるし変な行動は慎めよ」
ダグがボソッと呟くように言った。
「噂?」
「お前があいつに襲われて、切れたランフレッドさんが半殺しの目に合せたって言う噂……」
「ダグさん、ストレート過ぎない? もっとこう……」
「ストレートも何もすぐ耳に入るだろうが」
アリックが抗議するもダグはそう返し、アリックはそれ以上言い返せない。
(あ、ランフレッドが言っていた噂か。って、もう広まってるんだ……)
「それか。ランフレッドさんから聞いている。……私が悪いから仕方が……」
「何言ってるの! 君は悪くないよ! そりゃ僕達の言ってる事に耳を貸さなかったけど。騙されてあんな事されて! 僕だって殴ってやりたいよ!」
あまり声を荒げないアリックにそう言われて、凄く心配掛けたんだとティモシーは項垂れる。
「あ、ごめん、ティモシー……。えっと……」
「俺言っただろう? お前が傷つけば、皆悲しむんだって。でもまさか、こんな事するとは……」
「待って! 未遂で終わってるわよ!」
そう断言したのはベネットだった。
「え? あ、その場にいたのか……」
ベネットと配達中の出来事だったと思い出しダグがそう言うも、ベネットは首を横に振った。
「違うの。聞いたのよ」
「あ、ランフレッドさんに聞いていたんだ……」
どういう風に聞いたかはわからないが、そう言えば起きた時に彼女が家に居たと思い呟くようにティモシーが言うも、それにも首を横に振った。
「違うわ。ルーファス王子よ」
三人は意外な人物に驚いた。確かに、ランフレッドはルーファスの護衛だが、わざわざ王子であるルーファスが一個人に伝える事でもない。
「ごめんね。私がしっかりあなたを見ていなかったばかりに……」
そうベネットは言うと、経緯を話し始める――
「お、おはようございま……うわ」
「ティ、ティモシー!」
ティモシーは挨拶が終わるか終わらないかぐらいに、ガバッと抱き着かれた!
「ちょ! え! ベネットさん……は、離れて!」
彼女は涙目でギュッとティモシーを抱きしめるが、ティモシーもお年頃。顔が真っ赤である。ティモシーは、母親以外の女性に抱きしめられたのは初めてだった。
「おいおい、ティモシーが窒息するって……」
ダグが呆れてそう言うと、ベネットはやっとティモシーを開放した。
(びっくりした。一体何なんだ……)
「あ、ごめんなさい。もしかしたら、このままもうって思っていたから……」
ベネットは、目に溜まっていた涙を拭いつつ、嬉しそうに言った。
あんな目に会えば仕事場に出て来づらく、このまま辞めてしまうのでは? とベネットは思っていた。
「心配かけてごめんなさい。皆、心配して言ってくれていたのに、あの時は見えてなくて……」
「まあ、恋は盲目って言うしな」
ティモシーの言葉に、いつも通りダグは返してきた。
「だから恋とかじゃないって! あの人は、私の欲しい言葉を掛けてくれて、それを自分を認めてくれているからだって思って……。でも実際は、信用させる為の手口で……。大人として扱われていると思っていたのに、子供だったから簡単に引っかかったって……」
最後は悔しそうにティモシーは言った。三人は何も言えず、ただ頷く事しか出来ずにいた。王宮内で一番年下と言うのもあるので子供扱いされるのも仕方がない。何せ、次に若いのはアリックである。年齢に開きがあった。また、世間知らずでそれに拍車を掛けていた。
「まあ、俺達はお前の事を理解してるつもりだが、噂も広がってしまってるし変な行動は慎めよ」
ダグがボソッと呟くように言った。
「噂?」
「お前があいつに襲われて、切れたランフレッドさんが半殺しの目に合せたって言う噂……」
「ダグさん、ストレート過ぎない? もっとこう……」
「ストレートも何もすぐ耳に入るだろうが」
アリックが抗議するもダグはそう返し、アリックはそれ以上言い返せない。
(あ、ランフレッドが言っていた噂か。って、もう広まってるんだ……)
「それか。ランフレッドさんから聞いている。……私が悪いから仕方が……」
「何言ってるの! 君は悪くないよ! そりゃ僕達の言ってる事に耳を貸さなかったけど。騙されてあんな事されて! 僕だって殴ってやりたいよ!」
あまり声を荒げないアリックにそう言われて、凄く心配掛けたんだとティモシーは項垂れる。
「あ、ごめん、ティモシー……。えっと……」
「俺言っただろう? お前が傷つけば、皆悲しむんだって。でもまさか、こんな事するとは……」
「待って! 未遂で終わってるわよ!」
そう断言したのはベネットだった。
「え? あ、その場にいたのか……」
ベネットと配達中の出来事だったと思い出しダグがそう言うも、ベネットは首を横に振った。
「違うの。聞いたのよ」
「あ、ランフレッドさんに聞いていたんだ……」
どういう風に聞いたかはわからないが、そう言えば起きた時に彼女が家に居たと思い呟くようにティモシーが言うも、それにも首を横に振った。
「違うわ。ルーファス王子よ」
三人は意外な人物に驚いた。確かに、ランフレッドはルーファスの護衛だが、わざわざ王子であるルーファスが一個人に伝える事でもない。
「ごめんね。私がしっかりあなたを見ていなかったばかりに……」
そうベネットは言うと、経緯を話し始める――
0
お気に入りに追加
686
あなたにおすすめの小説
超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。
烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。
その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。
「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。
あなたの思うように過ごしていいのよ」
真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。
その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。
【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ひだまりを求めて
空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」
星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。
精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。
しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。
平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。
ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。
その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。
このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。
世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる