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第三章 仕掛けられた罠

第三十三話

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 茶色い髪で渋めのおじさんだ。そして、王宮専属薬師なのは見てわかった。制服を着てバッチをつけていたからである。

 「ブラッドリーさん! どうやって入った!」

 本気で驚いた表情をし、エイブは叫んだ。

 「勿論そこの扉からだ。鍵が開いていたからな」
 「鍵だと? そんな事を聞いているんじゃないんだけどね!」

 ブラッドリーを睨みつつ、ティモシーの手を離す。
 ティモシーは今の状況が飲み込めず、唖然として二人を見ていた。
 っと、ブラッドリーがエイブに手を伸ばす。咄嗟にエイブは飛びのいた。
 ブラッドリーの手には、ティモシーのペンダントがあった。

 「ほら、あなたのだろう? 大事にしろ。かなりの良品だ」

 横になったまま茫然としているティモシーの上に、ブラッドリーはポトンとペンダントを落とす。

 「さて、さっきの質問の答えだが、これの事か?」

 ブラッドリーは、右腕を伸ばし、横にスッとずらすと結界が消滅した。

 「な!」

 (やっぱりこの人も魔術師だった! え? どういうこと? って、いうか王宮に魔術師が居過ぎじゃないか!)

 ティモシーは軽くパニックになる。本当は、魔術師って沢山いるんじゃないか? と思ってしまった程だ。

 「尾行を付けて正解だったな」

 ブラッドリーがポツリとそう言うと、エイブがキッと睨み付ける。

 「なるほどな。目を付けられていったって事か。俺とした事が気づかなかったよ!」
 「尾行を付けたのは彼にだけどな。なかなか尻尾を出さないから、思案を巡らせていたところだった」

 (え? 俺に尾行!)

 勿論ティモシーも気づいていなかった。
 次の獲物がティモシーだと感づいたブラッドリーが、エイブではなくティモシーに尾行を付けていたのだ。

 「っち。まんまと餌に飛びついてしまったってわけか……」

 憎々し気にエイブは、ブラッドリーを睨む。

 「いや、彼をあなたに預けたのは偶然だ。まあ、彼には気の毒だがな」
 「どうだか……」

 そうエイブが呟くと、ブラッドリーはまた手を伸ばしスッと動かした。
 今度は逆に建物に結界が張られ、さらにティモシーにも張られた。

 「そこを動くなよ」

 ブラッドリーはティモシーに一言そう言うと、今度はエイブに話しかける。

 「あなたに攻撃を先に譲る。好きに攻撃して来い」

 ブラッドリーは自信満々にエイブを挑発する。

 「あぁ、そうかよ! じゃ食らいなよ!」

 エイブは、右手を真横に伸ばし、少し後ろにそらす。その握った手に魔力が溜まっていく。
 そして、それをぶん投げるように手を前に出すと、開いた手のひらからは黒い小石のような物が投げられ、それは二人のちょうど中心ぐらいに叩きつけられ、砂のように粉々になった。その砂のような物が、氷の刃に変わりブラッドリーに向かい襲う。
 また、エイブの左手は右手とほとんど変わらずに前に突き出され、そこからは火の玉が発せられ、これもまたブラッドリーに向かい襲う。
 だが、彼は微動だにもしない。そして氷の刃と火の玉は、驚いた事にブラッドリーの前で消滅する。いや、ティモシーには、そこにある見えない結果に吸収されたのがわかった。

 「私の番だ!」

 そう叫んだブラッドリーは、手を前に振るった。するとエイブは見事に転倒し、彼に見えない結界が張られた。
 そしてティモシーは、恐ろしい攻撃を目撃する事になった。
 エイブが放った氷の刃が、彼に張られた結界の中で降り注いだのである。

 「ぐわぁー!」

 絶叫を上げ血だらけになったエイブは動かなくなった!

 (魔術師だとバレたら殺される!)

 それを見たティモシーは咄嗟にそう思い、ペンダントを首に掛けた。
 ブラッドリーは、その後何事もなかったように、建物の結界を解くとドアを開けた。

 「終わりました」

 そうドアの向こうに告げると、勢いよく人が入って来た。
 驚く事にそれはランフレッドだった。彼はエイブには目もくれず、ティモシーに駆け寄り抱きしめた。

 「バカ野郎! なぜ約束を破ったんだ!」

 怒っていると言うよりは安堵感から出た言葉に、ティモシーもやっと助かったとわかり、ランフレッドの腕の中でわんわん泣き出した。
 そしてティモシーは、『巻き込んでごめんな』と小さく呟いたのを確かに聞いた……。
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