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第三章 仕掛けられた罠

第三十一話

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 くねくねと曲がる細い路地を五分ほど進むと、小さな小屋のような建物に突き当たった。

 「ここだよ。ただの小屋に見えるから隠れ屋的な?」

 エイブはにっこりほほ笑む。

 (本当にここ、道具屋?)

 看板もなければ、人がいる気配もない。噂を確かめようと思ってはいたものの、疑ってはいなかったティモシーは不安になった。
 エイブは、ドアを押して開ける。

 「お先にどうぞ」

 彼にそう言われて、ティモシーは怖ず怖ずと中へ入った。
 そこは残念な事に、道具屋ではなかった。というか、何もなかった。
 ティモシーが慌てて振り向くと、エイブはパタンとドアを閉めた。それを見たティモシーは目を見開く。
 閉めた行為ではなく、閉めた事によって発生した結界に驚いたのである。

 「う、うそ……」

 ティモシーは、信じられなくて呟く。

 「ごめんね。でもまさか今日偶然会えるなんて、運命だよね?」

 目を見開いたままティモシーは何も答えられない。普段なら『何が運命だ!』と叫んでいた事だろう。だが、思考が止まってしまっていた。

 (エイブさんが魔術師?)

 ドン!
 気づくとエイブに肩を掴まれ、床に押し倒されていた。それでも茫然としている。
 彼が魔術師だという事もそうだが、魔術まで使ってまでここに閉じ込めた事が信じられなかった。それだけ彼を信じていたのである。

 「余りにも順調だからちょっと疑がっちゃけど」

 そう言いながらティモシーの両手を頭の上に持っていき右手で抑え込むが、ティモシーは抵抗しない。

 「そんなにショックだった? お子様だから疑う事知らなかったもんね? 俺の噂聞いてるでしょ?」

 ティモシーの心を抉る様な台詞をエイブが笑顔で言うと、ティモシーの目から涙が零れ落ちた。大人の扱いを受けていると思っていたティモシーは愕然とする。

 「あぁ、とうとう泣いちゃった。じゃ泣き止む様に喜ぶような事教えてあげるよ。君はね、ご主人様の所に行けば本も道具も買い与えてもらえるからね。でも、その前にちょっと味見ね」

 そう言うと、器用に左手でボタンを外していく。
 ティモシーは抵抗する気も起きなかった。抵抗した所で魔術師のエイブには勝てない。それに、元々男だとバラす気でいたのだから……そう思うも悔しさと悲しさが込み上げて来て、嗚咽をあげて泣き出した。

 「ごめんね。泣いてもやめないから……ん?」

 一瞬抑えて付けている右手に力が掛かった。

 「君、男の子?」

 驚いたように呟くと、突然笑い出した。

 「この俺が騙されるなんて」
 「……俺……だ、騙す……つもり……なんて……」

 それを聞いたエイブは笑うのをやめ、一瞬殺されるのではないかと思うほどの殺気を込めて、ティモシーを睨みつけた。

 (殺されるかも知れない!)

 とティモシーは体を震わせる。

 「よく言うよ。君、俺の前では私って言っていなかった?」
 「そ、それは……ランフレッド……に、言われて……」

 ティモシーはどうしたらいいかわからなくなった。男だとわかれば解放されると考えていが、このままでは殺さるかもしれない。しかし逃げる術がないのだ。
 エイブを押しのけたところで、相手は魔術師。攻撃をしてくるかもしれない。かわしたところで、結界から外に出られる保証もないのである。
 ティモシーも魔術師だが、攻撃魔法なんて使えない。いや、使った事などない。魔術師だという事を隠して過ごしていた彼は、使ったとして体を強化する術ぐらいだった。一応、母親からは結界の類も習ったが、それも使った事などなかった。
 試してみるまでもなく、勝てる見込みがなかったのである。

 「君はランフレッドさんの言いなりだもんね?」

 そういうとエイブはクスッと笑い、右手から左手に抑える手を変えた。

 「さて、準備といきますか」
 「準備?」
 「ここに刻印を刻むんだよ。ご主人様に従うようにね」

 エイブは、ティモシーの左胸を人差し指で突いた。

 「刻印? え? ご主人様?」
 「あれ? さっきの話聞いていなかった? 色々買ってもらえるって教えてあげたのに。ダメだな。ちゃんと人の話を聞かないと。だからこんな目に遭うんだよ」

 ティモシーはエイブの言葉に信じられないと、彼をジッと見つめた。
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