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第二章 仕事が始まったばかりなのに……

第二十一話

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 「おい、人が来る前に取りあえず移動だ」

 ティモシーの腕を掴んだまま男はそう言うと、研究所の方面にティモシーを引っ張り移動する。緑色の髪の男もベネットの背中に刃物をあて、彼女に前歩かせ一緒に進む。
 五分ほど歩くと、脇の森の中に連れて行かれ、さらに五分ほど歩かされた。

 「まあ、この辺か……」

 ティモシーの腕を掴んでいた男がそう呟いた。

 「さて、お楽しみタイムといくか」

 そう言うと緑色の髪の男は、ベネットを突き飛ばす。突き飛ばされたベネットは尻餅をついた。

 「ベネットさん!」
 「人の事を気にかけてる場合じゃないぜ」

 そう言ってティモシーの腕を引っ張り引き寄せた。

 「離せよ!」
 「おっと。同じ手は食わないぜ!」

 蹴りあげようとしたティモシーだが足払いをくらい倒れ込む。そこへ男が伸し掛かろうとする。

 「だったらこれでどうだよ!」

 ティモシーは、高く足を上げた! それは男ののど元にヒットしそのまま倒れ込む。そして、ピクリとも動かなくなった。

 (ふう。危なかった)

 「全く、お転婆なお嬢ちゃんだぜ」

 ベネットに乗りかかっていた男はそう言うと立ち上がり、ティモシーに襲い掛かってくる。大きくナイフを振りかざし、ティモシーを追い回した。
 ティモシーは、足場が悪いのと手を縛られバランスが取り辛く防戦一方だ。

 (っち。思ったより手が縛られていると動きづらいな)

 「うわ!」

 枝に足を取られティモシーはひっくり返り、これ幸いと男は腹の上に乗っかった。

 「鬼ごっこは終わりだ」

 男は首元にナイフを突きつける。

 (くそ。仕方がない……)

 ティモシーはプイッと横をく。男はニンマリとした。

 「そうそう、大人しくしてりゃ痛い目に遭わなくてすむぜ」

 足で攻撃出来ない以上、どうする事も出来ない。ティモシーが男だと知って、一瞬怯んだ時に仕掛けようと観念したフリをしたのである。

 「えい!」

 その時、ベネットが思いっきり横から男に体当たりをした!
 男はそのまま横にひっくり返る。ティモシーは驚いてベネットを見た。

 「ティモシー大丈夫?」

 彼女は震えながらもそう聞いて来る。
 ティモシーは頷くが、男が起き上がりナイフを振り上げた!

 「貴様!」
 「ベネットさん!」

 ティモシーは慌てて上半身を起こした。頭の上に構えた左腕にナイフは振り下ろされた!

 「うっ!」
 「キャー」

 ティモシーは痛みでそのままうずくまり、ベネットは悲鳴を上げる。

 (思ったより痛い……)

 痛みで動けないティモシーの頭をがっしりと掴み、男はティモシーの上半身を起こす。顔を上げたティモシーを見て男はニンマリとした。

 「いたぞ!」

 三人はハッとする。見ると巡回の兵士が数名現れた。

 「っち。気づかれたか! おら、立て!」

 男はティモシーの頭を鷲掴みしたまま立ち上がる。

 「いた! ちょ……」

 ティモシーは、引っ張られ無理やり立ち上がらされた。今度は、左手を捕まれ引っ張られる。

 「いた……」

 ティモシーは顔をしかめた。怪我した方の手が引っ張られたので痛みが走ったのである。
 男はそのままティモシーの後ろに回り、首元にナイフを突きつける。
 兵士は緊張した顔で対峙する。
 美少女が手首を縛られ、左腕から血を流した状態で、首元にナイフを突きつけられていたからである。

 「いいか近寄るなよ」

 男がそう叫び一歩後ろに下がる。勿論ティモシーも一緒だ。

 「こい!」

 ナイフを首から外すと、手を引っ張り森の奥へ走り出す。
 倒れていた男は数名の兵士に取り押さえられ、ベネットが保護されるのを見てティモシーは安堵する。

 (よかった。後はこいつだな!)

 普通なら引っ張られるものだが、ティモシーは男と一緒に走った。全速力で森の中を駆け抜ける。
 男は息を切らし後ろを振り返った。

 「ふ、振り切ったか?」

 ティモシーの方は、ほとんど息を切らしていない。
 ただ突っ立いて抵抗しないティモシーから男は手を離した。
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