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第二章 仕事が始まったばかりなのに……
第十九話
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次の日、調合室に行くとアリックが『昨日はごめんね』と謝って来た。アリックは何も悪くないだろうと、ううんとティモシーは首を横に振った。
その日も午前中は、苦臭素草の調合に励んだ。
そして午後。ベネットは頭を抱えつつ三人に指示を出す。
「今日は二か所に届け物があります。昨日の事もありますので、私も含め二手に分かれて配達します」
昨日の事とは、アリックとティモシーが絡まれた件である。そうなると、必然的にティモシーとアリックは別行動になる。
「私とアリックで……」
「はい! 私はベネットさんと組みたいです!」
ティモシーは慌てて意見を述べた。ビシッと右手を上げ挙手をしつつ、懇願するような顔でベネットを見た。
その行動に三人は面食らう。
女だと思われているティモシーには、男のダグがいいだろうという判断だが、ティモシーにすれば一番組みたくない相手である。
「お願いします!」
直立不動の体制から頭を下げる。
「そんなに俺と行動したくないのかよ」
ダグは驚いて呟いた。
(そうだよ!)
ティモシーは心の中では肯定しつつ、首を横に振る。
「そういう訳では……」
言い訳を考えたが思い浮かばなかった。
「まあ、俺はどっちでもいいけどさ」
「わかりました。私とティモシー、アリックとダグで配達をします。いいですか? 何かあっても無くても私の指示に従う事。いいわね!」
ため息をつきながら言ったベネットの言葉に、ティモシーは真面目な顔で頷いた。
二組に分かれティモシー達は王宮を後にする。アリックとダグは昨日と同じダイヤ病院。そして、ティモシーとベネットは森の泉研究所。
森の泉研究所は、薬の開発や効果の研究など行う会社で、会社名の通り森の中にあった。時間にして八十分ほど。
森の中と言ってもそこまでの道は舗装されており、人の行き来は少ないが人通りはある。問題は、最後の十分ほどの距離が研究所の一本道で、研究所に用事がある者しか通らない。しかし待ち伏せでもしない限り、そこで出会う事はまずないだろう。
昨日と同じ道のりのダイヤ病院の方が、鉢合わせる可能性が高いという判断で、ティモシー達はこちら側になった。
「ねえ、ティモシー。彼と何かあったの?」
行くがてらベネットは、心配そうに聞いた。
「彼とは誰ですか?」
普通わかりそうなものだが、顔を見ると本当にわからない様子に見え、ベネットは溜息をもらす。
「ダグよ。拒絶していたでしょう?」
「え!」
確かにそうだが、ティモシーはバレていないと思っていた。
「そういう訳じゃなくて……。えーと。……男が苦手というか……」
ティモシーは苦しい言い訳をするが、嘘と言う訳でもない。ただ、ダグに関しては魔術師かもしれないからだった。
「なるほどね」
だが、ベネットは納得した。
ダグは、アリックに比べればガサツで遠慮がない。ティモシーは苦手にしているのだろうと、ベネットは勘違いをしたのである。
「ティモシー。自分でわかっているかも知れないけど、見た目も目立つけど行動も目立つわ。だからちゃんと私の指示に従ってね。この一年間で直さないと大変よ」
「はい……」
(言動って……俺、変な事したっけ?)
返事をするもピンと来ていないティモシーであった。その様子を見て取ったベネットは付け加える。
「返事はいいんだけど、何と言うか行動が固いのよ」
ティモシーは目を丸くする。
(もしかして、父さんに教わった返事の仕方の事か?)
ここでようやくティモシーは気づいたのである。ランフレッドの言っている事の方が正しいのだと。
「わかりました」
真面目な顔で答えるティモシーに、不安はあるものの少しずつ変えるしかないとベネットは思いにっこりして頷いた。
そして二人は、研究所の一本道に差し掛かる。
「ティモシーちゃん」
その声に振り向いて、ティモシーはギョッとする。昨日の緑の髪の男がいたのである。
その日も午前中は、苦臭素草の調合に励んだ。
そして午後。ベネットは頭を抱えつつ三人に指示を出す。
「今日は二か所に届け物があります。昨日の事もありますので、私も含め二手に分かれて配達します」
昨日の事とは、アリックとティモシーが絡まれた件である。そうなると、必然的にティモシーとアリックは別行動になる。
「私とアリックで……」
「はい! 私はベネットさんと組みたいです!」
ティモシーは慌てて意見を述べた。ビシッと右手を上げ挙手をしつつ、懇願するような顔でベネットを見た。
その行動に三人は面食らう。
女だと思われているティモシーには、男のダグがいいだろうという判断だが、ティモシーにすれば一番組みたくない相手である。
「お願いします!」
直立不動の体制から頭を下げる。
「そんなに俺と行動したくないのかよ」
ダグは驚いて呟いた。
(そうだよ!)
ティモシーは心の中では肯定しつつ、首を横に振る。
「そういう訳では……」
言い訳を考えたが思い浮かばなかった。
「まあ、俺はどっちでもいいけどさ」
「わかりました。私とティモシー、アリックとダグで配達をします。いいですか? 何かあっても無くても私の指示に従う事。いいわね!」
ため息をつきながら言ったベネットの言葉に、ティモシーは真面目な顔で頷いた。
二組に分かれティモシー達は王宮を後にする。アリックとダグは昨日と同じダイヤ病院。そして、ティモシーとベネットは森の泉研究所。
森の泉研究所は、薬の開発や効果の研究など行う会社で、会社名の通り森の中にあった。時間にして八十分ほど。
森の中と言ってもそこまでの道は舗装されており、人の行き来は少ないが人通りはある。問題は、最後の十分ほどの距離が研究所の一本道で、研究所に用事がある者しか通らない。しかし待ち伏せでもしない限り、そこで出会う事はまずないだろう。
昨日と同じ道のりのダイヤ病院の方が、鉢合わせる可能性が高いという判断で、ティモシー達はこちら側になった。
「ねえ、ティモシー。彼と何かあったの?」
行くがてらベネットは、心配そうに聞いた。
「彼とは誰ですか?」
普通わかりそうなものだが、顔を見ると本当にわからない様子に見え、ベネットは溜息をもらす。
「ダグよ。拒絶していたでしょう?」
「え!」
確かにそうだが、ティモシーはバレていないと思っていた。
「そういう訳じゃなくて……。えーと。……男が苦手というか……」
ティモシーは苦しい言い訳をするが、嘘と言う訳でもない。ただ、ダグに関しては魔術師かもしれないからだった。
「なるほどね」
だが、ベネットは納得した。
ダグは、アリックに比べればガサツで遠慮がない。ティモシーは苦手にしているのだろうと、ベネットは勘違いをしたのである。
「ティモシー。自分でわかっているかも知れないけど、見た目も目立つけど行動も目立つわ。だからちゃんと私の指示に従ってね。この一年間で直さないと大変よ」
「はい……」
(言動って……俺、変な事したっけ?)
返事をするもピンと来ていないティモシーであった。その様子を見て取ったベネットは付け加える。
「返事はいいんだけど、何と言うか行動が固いのよ」
ティモシーは目を丸くする。
(もしかして、父さんに教わった返事の仕方の事か?)
ここでようやくティモシーは気づいたのである。ランフレッドの言っている事の方が正しいのだと。
「わかりました」
真面目な顔で答えるティモシーに、不安はあるものの少しずつ変えるしかないとベネットは思いにっこりして頷いた。
そして二人は、研究所の一本道に差し掛かる。
「ティモシーちゃん」
その声に振り向いて、ティモシーはギョッとする。昨日の緑の髪の男がいたのである。
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