【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

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第二章 仕事が始まったばかりなのに……

第十八話

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 二人は男達を振り切る為に、全力疾走で王宮まで走って帰って来た。
 王宮内に入った途端、アリックは座り込み、肩で息をしている。

 「大丈夫か?」

 それに対し、ほとんど息の切れていないティモシーは、アリックにそう声を掛けた。
 アリックは顔を上げティモシーに何か言おうとするが、息が切れている為にうまく話せない。ちょっと待ってと言わんばかりに、手を開いてティモシーに向ける。なのでティモシーは、ジッと待っていた。
 そこへ走って近づいてくる人物がいた。ランフレッドだ。

 (げ! なんで!)

 門番が異変に気づき、知らせるよう手配したのだ。

 「何があった?」

 息を切らして座り込んでいるアリックを見て、ティモシーに聞いた。

 「いや別に走って帰ってきただけ……」

 つらっとしてそうランフレッドに返した。

 「お前なぁ……。それは見ればわかるって! 走って帰って来た理由を聞いているんだ!」
 「アリック……さんの知り合いに絡まれた」

 ティモシーは、自分は悪くないと言う顔でそう言った。
 ランフレッドは、本当なのかとアリックを見ると、彼は頷いた。

 「す、すみません。僕のせいでティモシーを巻き込んでしまって……」
 「で、怪我は?」

 ランフレッドの問いに、二人は揃って怪我はないと首を横に振った。
 それに安堵するランフレッドだが、次の言葉を聞いてティモシーを睨み付けた。

 「ティモシーって切れると言い方がきつくなるんだね。きっと相手を怒らせちゃったよ……」

 ティモシーは上手く誤魔化せたと思ったのにと焦った。

 「だってあいつら……」
 「あいつら?」

 言葉遣い! とランフレッドに睨まれ、ティモシーはヤバッと言い直す。

 「あの人たち、アリックさんが不正して王宮に入ったって言ったんだ……よ。陛下までグルだって!」

 その言葉にランフレッドは目を丸くする。

 「それ言ったのティモシーでしょう? まあ、そう捉えたのかもしれないけど……」
 「お前、そんな事言ったのか……」

 ランフレッドは、頭が痛いと額を抑えた。

 「二人共大丈夫か?」

 そう話に割り込んで来たのはオーギュストだ。こちらも連絡を受けたのである。彼はアリックの後見人だった。

 「あ、すみません……。ご迷惑をおかけしました」

 アリックは立ち上がり、頭を下げる。

 「怪我は?」
 「ありません」

 オーギュストの質問にアリックは簡素に答える。

 「相手はどんな人物でした?」
 「……前の会社の人です。素行があまりよくない人達で、今回の騒動で僕だけじゃなく、ティモシーにも仕返しをしてくるかもしれません……」

 次のオーギュストの質問には答え辛そうに、アリックは俯いて答えた。

 「あの人達、本当に薬師だったんだ……」

 ティモシーの漏らした言葉に、ランフレッドはお前が言うのかよという顔つきでティモシーに振り返る。ティモシーは、フンとそっぽを向いた。

 「もしかして、あの二人か?」

 オーギュストは心当たりがあるのかそう言うと、アリックは頷いた。

 「あの二人って?」
 「ジェイクとミットの二人です。彼らは、陰湿な嫌がらせをアリックに繰り返していました。それを会社から厳重注意していただいたのですが……」

 オーギュストは困り顔だ。

 「あの人達は、僕だけじゃなく気に入らない人にもしていたので……。調合リストを隠したり、調合に使う材料をすり替えたり……」

 それを聞いたランフレッドとティモシーは驚く。それはもう嫌がらせの範疇を越していた。

 「なんでそれで首にならないんだ?」
 「証拠がなくて。必然的に彼らなのは確かで……。暴力沙汰を一回起こしていて、次起こせば解雇になるんだけど……それでも彼らは絡んで来た……」

 ランフレッドの質問にアリックは辛そうに答えた。

 (っち。だったら打ちのめしておけばよかった!)

 ランフレッドには何か言われたかも知れないが、相手が強いと思えばもう仕掛けてこないだろうし、会社は首になっていただろうとティモシーは思ったのである。
 アリックはその状況に耐え切れなくなって、まだ早いかもしれないが今回の王宮専属の試験に臨んだのだろう。
 ランフレッドを通し、街の巡回を強化する指示が出された。
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