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第二章 仕事が始まったばかりなのに……

第十五話

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 「二人が引いている。全く……。護衛としての腕は確かなんだが、いつもこんな調子だ。まあそれは置いとくとして。私もたまに君達の仕事を見学させていただく。……今の調合ではない時に……」

 二人はハッとする。
 本来なら苦臭素草の調合の後は、臭いを消す材料を混ぜた水を体に振りかけ臭いを消すが、具合が悪いティモシーを外に連れ出す為に忘れていたのである。

 「はい! 承知しました!」

 だがティモシーは、直立不動でそう返事を返し皆をギョッとさせる。
 そんなティモシーをランフレッドは、『ちょっとこっちこい』と皆と離れた場所へ連れて行く。

 「なんだよ」
 「お前さっきみたいに受け答えしてるのか?」
 「そうだけど? あんたが粗暴な態度をとるなっていうから……」

 ランフレッドは大きなため息をついた。
 その様子を三人はジッと見つめていた。何を言っているかは聞こえないが、さっきの返事の事だろうと察しはつく。

 「あのな。兵士じゃないんだから。女の様にすれって言っただろうが」
 「嫌だよ! あれでいいだ……」

 バン!

 「あなた達、いつまで……」

 ティモシーの抗議の最後の方は、現れたベネットの大きな声でかき消された。

 「これは、ルーファス王子!」

 まさか王子がいるなど思っていなかったベネットは、慌てて頭を下げる。

 「そうえいば君が今回、この者達の指導に当たるんだったな。宜しく頼む。特にあの子に一般常識を教えてほしい。あのランフでも手に負えないようだ」
 「はい。承知しました」

 ベネットはそう返事を返し、ティモシーを見た。
 もう具合が悪いのは治ったようで、ランフレッドに何か言われたのかむくれた様子がわかった。

 「ランフ!」
 「はい。ただいま……」

 王宮に入って行くルーファスにランフレッドは走って行く。その際、ティモシーに『頑張れよ』と声を掛けた。

 (何しに来たんだ。全く……)

 これでもランフレッドはティモシーを気に掛けているのだが、ただ口うるさいと思われているだけだった。
 二人が去った後、ベネットはティモシーに近づき声を掛ける。

 「はい!」

 ティモシーは、先ほどと同じように直立不動で返事を返す。初めは緊張からかと思ったが、これがティモシーの返事の仕方だとベネットは気がづいた。
 彼女は、ティモシーの両肩に手を乗せる。

 「もっと肩の力を抜いて、自然に返事をしてごらんなさい」
 「え?」

 ベネットにそう言われても、ティモシーは困惑するだけだった。
 村に居た時は、返事などの躾は父親のオズマンドが行い、母親は口出ししなかった。
 だがそう言われれば、従うしかない。ティモシーは、頷いて返事を返した。つまりは、ランフレッドが言ったように、女らしく振舞えと捉えたのだった。
 その後四人は部屋に戻り、調合を再開し二時間後部屋を出る。勿論今度は、臭いを消すのを忘れない。
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