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第一章 薬師になろうとしただけなのに……

第十話

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 「あぁ、うまい!」

 ランフレッドは上機嫌である。
 好物の串をつまみに、ビールをグビグビと飲んでいる。
 ティモシーの合格祝いと称して、帰りに買って帰ってきたのである。

 「ほら、お前のお祝いなんだし、食えよ」

 (ただ飲みたいだけだろうが……)

 ティモシーは、テーブルにある串の一本を手に取る。

 「なんで、串だけなんだよ……」
 「俺の好物だから? 俺は、これさえあればいいし」

 そう満足げにランフレッドは答えた。

 「いや普通、祝ってやる相手の好みに合わせないか?」

 ティモシーは文句を言いつつも、串を口に運ぶ。

 「うまいだろ? それ?」
 「美味しいけどさ……」

 ランフレッドは、ティモシーの文句をスルーする。お金を出したのはランフレッドなので、ティモシーもそれ以上文句は言えない。

 「しかし本当に受かっちゃうなんてな! 俺も鼻高々だ」
 「なんであんたが……」
 「後見人だからな……」

 そう返した後、ランフレッドは急に真顔になり、言葉を続ける。

 「お前、最低一年間は、今日みたいに大人しくしていれよ」
 「は? 一年間?」

 ランフレッドは、頷く。

 「王宮内は、上下関係が厳しいから言葉遣いは気を付けれよって事だ。いいか間違っても手を上げるなよ。足も出すな! 今日みたいに女のフリして愛嬌振りまいていた方が得だ」

 そう言って、串の肉をパクッと美味しそうに食べた。そして、ビールをグビっと飲む。

 (何が女のフリして愛嬌を振りまけだ! 誰がそんな真似するかよ! うん? 女?)

 「そうだ! カード! 俺は男に○付けたのに、赤いカードだった! なんで教えてくれなかったんだ! これで取り消しになったらどうするんだよ!」

 女と言うキーワードで、すっかり忘れていたカードの件を思い出し、ティモシーはランフレッドを睨み付けた。
 ランフレッドは一瞬なんの事だ? という顔をするもゲラゲラと笑い出す。しかもバンバンと机を叩いて大笑いだ。

 「笑い事じゃない!」
 「大丈夫だって。あのカードは会場で識別する為のものだから書類に不備がなければ問題ない。でも、その容姿で赤いカードぶら下げていたのなら、男とは思わないだろうな。ちょうどいいだろう? 女のフリしておけ」

 それを聞いてティモシーは、更にムッとして言い返す。

 「酷くないか! 俺が女扱いされるの嫌なの知っているだろう! なのにカードの事黙っておくなんて!」
 「いやカードについては気づいていなかった。まさか赤を渡すなんて。だがまあ、今思えば、ありえるよな。普通、性別なんて見た目で判断して渡しているだろうし」
 「他人事だと思いやがって……」

  ランフレッドの言い訳に、ティモシーは睨みつつ呟いた。

 「わかった。わかった。俺が悪かったって! そんなに拗ねるな。まあ、同じ王宮内にいるんだし、何かあったら俺に言え。大抵な事は何とかしてやるから」
 「何とかって?」

 何が出来ると言うんだと、ティモシーは眉をひそめて問う。

 「力でねじ伏せるとか?」
 「なんだよそれ! 俺には大人しくしろって言っておいて!」
 「当たり前だろう? お前は薬師なんだ。俺はルーの護衛だが兵士だ。しかも、お前の後見人。何も問題ない」

 ティモシーの抗議に、しらっとランフレッドは答えた。
 確かにランフレッドの言う通りかもしれない。しかもダグとアリックが言っていた様に、面倒な事が置きそうな感じだ。だったら全部押し付けやると、ティモシーは密かに思った。

 「じゃ、お願いする」

 素直に応じたティモシーを一瞬驚いたように見たが、静かに頷いた。

 「ところで、ルーって、ルーファス王子の事? 本人がいない所では、皆そう呼んでるのか?」

 ティモシーは、さらりと『ルー』と言っていたのが気になった。

 「いや、俺だけだけど。あれ、聞いてない? 俺とルーは幼馴染だ。ついでにお前と俺の親父も幼馴染」
 「父さん達が幼馴染? そういう繋がりだったのか…。それで護衛やっているのか?」

 驚いていうティモシーに、そんな訳ないと首を振るとビールを飲み干す。

 「実力に決まっているだろう? まあ、そう陰口叩くやつもいるけどな。そんな事より、一緒に受かった二人とは、仲良く出来そうか?」

 ランフレッドは、串を手に取りながら聞いた。

 「まあ、あんたよりは親切だよ。一人、気に入らないけどほっとく」

 ティモシーも串に手を伸ばして答えた。

 「……そうか。まあ、仲良くすれよ。一年間はほぼ一緒に行動するんだから……」
 「あぁ、そうするよ」

 一年間は王宮務めをやめられない事が約款でわかっていた。
 ティモシーの場合、一年以内に辞めると薬師の資格が取り消しになるのがわかったのである。
 だが普通は逆に、どんな事があっても辞めない職だと思われるが……。

 (うまく乗り切るさ。魔術師だとバレないように……)

 魔術を使ってでも手に入れようとする者さえいるというのに、ティモシーにとっては、王宮専属薬師という名誉ある役職も、自分を縛る迷惑なものでしかなかった。
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