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第一章 薬師になろうとしただけなのに……

第二話

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 ティモシーは、部屋の中をぐるっと見渡した。
 部屋の真ん中に小さなテーブルがあり、そこに向かい合わせに椅子が設置してある。それだけだった。後は、ドアが三つ。

 (ここ、村の家とほとんど変わらないんだけど!)

 都会の家はすごいと聞いていたので、ティモシーは期待していたのである。がっくしと肩を落とす。

 「取りあえず座れよ。紅茶飲む? もらったやつだけど……」

 そう言ってティモシーに背を向け、部屋の奥に進むランフレッドは、ハッとして振り向き飛び退いた!

 「おい! 何するんだよ!」

 (避けた!)

 ティモシーは、ランフレッドに蹴りを入れたのである。だがそれをひょいと避けた。

 「悪い。ちょっと試した……。父さん以外にどけられたの初めてかも」

 真顔で言うティモシーに、ランフレッドは面食らう。

 「お前、初めて会った奴に蹴り入れてるのかよ……」
 「いや、気に入らない奴にね」
 「おいおい……」

 それはティモシーが、ランフレッドを気に入らないと言っている事になる。

 「お前、俺と仲良くやって行く気ないわけ?」
 「そういう訳じゃなくて、父さんが自慢していたからさ。どれ程なのかなって、試しただけ」

 あっけらかんと言うティモシーに、ランフレッドは溜息をつく。

 「言っとくけど普通の薬師は、気に入らないからって蹴り入れないぞ」
 「わかってるよ、そんな事」

 ティモシーはそう答えながら、椅子に腰を下ろす。そしてテーブルの上に手を伸ばした。

 「だって悔しいじゃないか。俺は認められた事ないのに……」
 「八つ当たりかよ。子供だな……」
 「子供じゃない! 今年で十六!」

 ティモシーは、ムッとしてそう答えながら、体を起こし振り向いた。
 ランフレッドは、紅茶をカップに入れて戻って来る。

 「ほら。王族御用達の紅茶だ。俺が淹れてもうまい」

 ティモシーの前にカップを置いて、ランフレッドは言った。

 「ありがとう……」

 それに素直に礼を言ってティモシーは一口飲んだ。

 「美味しい!」
 「だろう?」

 ティモシーは、紅茶はあまり好きではなかった。だがこれは、渋みが少なく飲みやすかった。
 ランフレッドは、紅茶を飲みつつ、椅子に腰を下ろす。

 「で、お前、いつもそんなんなの? 驚かれないか? その容姿にその言動……」
 「いいんだよ。大人しくしていると変な奴が絡んで来るから。勿論、俺を女だと思ってね。大抵そういう奴は手を押さえてくるから、足が出る……」
 「なるほどね……」

 気に入らない奴とは、そういう輩を指していたのだとランフレッドは頷く。

 「俺は、母さんと同じ薬師になるつもりなんだけど、父さんは俺を同じ近衛兵とかにしたいみたいでさ。自分の事、私って言えとか言うんだよ。女じゃないのに……」
 「まあ、そう自分の事言う奴もいるな……」

 そう相槌を打つと、余程うっぷんが溜まっているのかティモシーは更に続ける。

 「やっと試験を受けるのを許可してもらったんだ。その変わりに、落ちたら父さんの望む仕事につくって事で……。あぁ、やっと自由になれる!」

 それを聞いたランフレッドは、驚いた顔をしていた。
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