31 / 51
31話
しおりを挟む
高鳴る胸を左手で抑え、メルティは深呼吸する。
今日はとうとう、待ちに待ったデビュタントの日なのだ。
どうせドレスは着替えるだろうと、いつもと同じ着古したドレスを着たメルティは、迎えの馬車を待つ。
そして、迎えに来た馬車を出迎えた。
いつしかの事を思い出す。初めてのダンスの練習の日、クラリサも連れて行ってとお願いした日だ。
四人揃ってお出迎えをしたが、リンアールペ侯爵夫人は忙しいらしく御者が一人で迎えに来た。
「さあ、行きましょう」
さも、自分も馬車に乗るが当然と言う風にクラリサが乗り込もうとする。
「申し訳ありませんが、メルティ嬢お一人だけお連れするように、申し使っておりますので、ご遠慮願います」
「え? どうせ、そちらに伺うのよ。一緒に行っても同じでしょう」
クラリサが抗議するも、申し訳ありませんと乗車を拒否される。
「もういいわよ!」
「お騒がせしました。お願いします」
つらっとしてメルティが言う。
馬車が出発するのを三人は、複雑な思いで見送った。特にクラリサは、ムッとした顔つきだ。
「お父様、さっさと行きましょう」
「いや、まだ行かない。パーティーは、夜だ」
「な、何をいっているのよ。エスコートするのなら揃えた衣装でしょう? メルティの衣装をリンアールペ侯爵夫人がご用意なさっておられるのなら、お父様の衣装も一緒にご用意してくれているでしょう」
リンアールペ侯爵夫人だ。両親をよく思っていないとしても、彼らみたいな事はしない。メルティの為にも、ちゃんとエスコートするイヒニオの分も用意しているはずだ。だったら着替える為にも、悠長に夜になど言っていられないはず。
「中に入って話そう」
そう言ってイヒニオは踵を返し玄関へと入って行く。
どういう事とチラッと母親のファニタを見るも、目を逸らしイヒニオについて行く。
何かを隠している。そう思ったクラリサは、それを聞く為について行った。
「もしかして衣装は届けられているのですか?」
着替えにいかないとなればそうだろうと聞けば、首を横に振る。
「いいや。衣装は届いていない」
「どういう事ですの? まさか! お父様がエスコートなさらないのですか!?」
そうだとイヒニオが頷けば、クラリサは驚愕の顔つきになった。
「そんな事が許されるのですか」
「落ち着けクラリサ。契約書に書かれていたんだ……」
バツが悪そうにイヒニオが言う。
「エスコート役を他の人にするとでも書いてあったのですか?」
「具体的にそうは書いていない。私もリンアールペ侯爵夫人が招待状を手渡しするので楽しみにしていて欲しいと言われ、エスコートするものだと思っていたのだ」
そうだからこそ、いい恥さらしになるなぁなどメルティに言ったのだ。
だが、授業の最後の日に約束通り渡された招待状は、ただの招待状だった。デビュタントの件には一切触れてはいなかったのだ。
まさかと思い、契約書を読み直してみると『デビュタントはミリィ・リンアールペが後見人として全て行う』と書いてあった。
「それってエスコート役もリンアールペ侯爵夫人が決めるという事なの?」
「そうなるな。誰かはわからないが、私ではないのは確かだ」
「何よそれ! なぜそんなのんきな事を言っていられるのよ! メルティが私より煌びやかにデビュタントをするのよ!」
癇癪を起し、クラリサは叫ぶ。
「仕方がないだろう!」
「でもお父様は、メルティが養女だとはいえ父親ではないですか!」
「まあ、そうかもしれないな。と、とにかく、無理なんだ。もしお前が行きたくないというのなら、私達だけで……」
「行かないとは言っていないわ!」
クラリサは悔しくてたまらない。
自分のドレスは用意されていないだろうと、この前買ったドレスを着こんで意気込んでいたのだ。一緒に行って、姉のクラリサだと売り込もうと思っていた。
もちろん、両親もメルティの親だと紹介して回ると思っていたのだ。
「今回は我慢してくれ」
イヒニオに言われ、悔しそうにクラリサは部屋へ戻って行った。
「あなた」
「わかっている。メルティの16歳までに何とかする為に、デビュタントを先延ばししようと思ったが、それが叶わなくなった今、何としてもクラリサをルイス殿下と婚約させないとな」
「そうね。婚約さえ漕ぎ着ければこのまま……」
イヒニオとファニタは、頷き合う。
ルイスとメルティが知らない所で会っており、クラリサより仲良くなっているなど思っていない二人は、デビュタントさえ終わればリンアールペ侯爵夫人がメルティから離れる。
そうなれば、自信を失ってメルティをまた丸め込めると思っているのだ。
「今日は、クラリサが余計な事をしないように見張ろう」
「そうね。あの子の評判を落とすわけにはいかないわ」
今日行く場所は、今までとは違う。お呼ばれしている人達も伯爵以上だろう。その中で、デビュタントをする一人として紹介されるのだ。
クラリサがメルティの姉とさえ、覚えて貰えばいい。そうすれば、クラリサが聖女として発表された時に、連鎖的に思い出されるだろう。
なので好印象を与えるだけでいいのだ。そう思い身支度をするのだった。
今日はとうとう、待ちに待ったデビュタントの日なのだ。
どうせドレスは着替えるだろうと、いつもと同じ着古したドレスを着たメルティは、迎えの馬車を待つ。
そして、迎えに来た馬車を出迎えた。
いつしかの事を思い出す。初めてのダンスの練習の日、クラリサも連れて行ってとお願いした日だ。
四人揃ってお出迎えをしたが、リンアールペ侯爵夫人は忙しいらしく御者が一人で迎えに来た。
「さあ、行きましょう」
さも、自分も馬車に乗るが当然と言う風にクラリサが乗り込もうとする。
「申し訳ありませんが、メルティ嬢お一人だけお連れするように、申し使っておりますので、ご遠慮願います」
「え? どうせ、そちらに伺うのよ。一緒に行っても同じでしょう」
クラリサが抗議するも、申し訳ありませんと乗車を拒否される。
「もういいわよ!」
「お騒がせしました。お願いします」
つらっとしてメルティが言う。
馬車が出発するのを三人は、複雑な思いで見送った。特にクラリサは、ムッとした顔つきだ。
「お父様、さっさと行きましょう」
「いや、まだ行かない。パーティーは、夜だ」
「な、何をいっているのよ。エスコートするのなら揃えた衣装でしょう? メルティの衣装をリンアールペ侯爵夫人がご用意なさっておられるのなら、お父様の衣装も一緒にご用意してくれているでしょう」
リンアールペ侯爵夫人だ。両親をよく思っていないとしても、彼らみたいな事はしない。メルティの為にも、ちゃんとエスコートするイヒニオの分も用意しているはずだ。だったら着替える為にも、悠長に夜になど言っていられないはず。
「中に入って話そう」
そう言ってイヒニオは踵を返し玄関へと入って行く。
どういう事とチラッと母親のファニタを見るも、目を逸らしイヒニオについて行く。
何かを隠している。そう思ったクラリサは、それを聞く為について行った。
「もしかして衣装は届けられているのですか?」
着替えにいかないとなればそうだろうと聞けば、首を横に振る。
「いいや。衣装は届いていない」
「どういう事ですの? まさか! お父様がエスコートなさらないのですか!?」
そうだとイヒニオが頷けば、クラリサは驚愕の顔つきになった。
「そんな事が許されるのですか」
「落ち着けクラリサ。契約書に書かれていたんだ……」
バツが悪そうにイヒニオが言う。
「エスコート役を他の人にするとでも書いてあったのですか?」
「具体的にそうは書いていない。私もリンアールペ侯爵夫人が招待状を手渡しするので楽しみにしていて欲しいと言われ、エスコートするものだと思っていたのだ」
そうだからこそ、いい恥さらしになるなぁなどメルティに言ったのだ。
だが、授業の最後の日に約束通り渡された招待状は、ただの招待状だった。デビュタントの件には一切触れてはいなかったのだ。
まさかと思い、契約書を読み直してみると『デビュタントはミリィ・リンアールペが後見人として全て行う』と書いてあった。
「それってエスコート役もリンアールペ侯爵夫人が決めるという事なの?」
「そうなるな。誰かはわからないが、私ではないのは確かだ」
「何よそれ! なぜそんなのんきな事を言っていられるのよ! メルティが私より煌びやかにデビュタントをするのよ!」
癇癪を起し、クラリサは叫ぶ。
「仕方がないだろう!」
「でもお父様は、メルティが養女だとはいえ父親ではないですか!」
「まあ、そうかもしれないな。と、とにかく、無理なんだ。もしお前が行きたくないというのなら、私達だけで……」
「行かないとは言っていないわ!」
クラリサは悔しくてたまらない。
自分のドレスは用意されていないだろうと、この前買ったドレスを着こんで意気込んでいたのだ。一緒に行って、姉のクラリサだと売り込もうと思っていた。
もちろん、両親もメルティの親だと紹介して回ると思っていたのだ。
「今回は我慢してくれ」
イヒニオに言われ、悔しそうにクラリサは部屋へ戻って行った。
「あなた」
「わかっている。メルティの16歳までに何とかする為に、デビュタントを先延ばししようと思ったが、それが叶わなくなった今、何としてもクラリサをルイス殿下と婚約させないとな」
「そうね。婚約さえ漕ぎ着ければこのまま……」
イヒニオとファニタは、頷き合う。
ルイスとメルティが知らない所で会っており、クラリサより仲良くなっているなど思っていない二人は、デビュタントさえ終わればリンアールペ侯爵夫人がメルティから離れる。
そうなれば、自信を失ってメルティをまた丸め込めると思っているのだ。
「今日は、クラリサが余計な事をしないように見張ろう」
「そうね。あの子の評判を落とすわけにはいかないわ」
今日行く場所は、今までとは違う。お呼ばれしている人達も伯爵以上だろう。その中で、デビュタントをする一人として紹介されるのだ。
クラリサがメルティの姉とさえ、覚えて貰えばいい。そうすれば、クラリサが聖女として発表された時に、連鎖的に思い出されるだろう。
なので好印象を与えるだけでいいのだ。そう思い身支度をするのだった。
131
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
I'm looking forward to it
maruko
ファンタジー
もうすぐ私のデビュタント
ずっと楽しみにしてました
パートナーは幼馴染のミレー
二人で皆様にお披露目です。
✱作者の妄想の産物です
温かい目でお読みください
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる