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11話

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 「ラボランジュです。少し宜しいでしょうか」

 トントントンと言うノックと共に、ドア越しに声が聞こえて来た。

 「何!? あの?」
 「まあ! あちらから訪ねて頂けるなんて!!」

 イヒニオとファニタが興奮気味に言って立ち上がる。
 二人は、服装を直し背筋を伸ばすとドアに向かう。

 (誰なのかしら?)

 緊張気味にイヒニオがドアを開けると、濃い紫色の髪に眼鏡をかけた男性が立っていた。その横には、メルティ達と同じぐらいか少し年上と思われる少年もいた。
 彼は、同じ髪色なのを見ると親子だろう。

 「やぁ。あの日以来だね。ご挨拶に伺ったのだが宜しいかな?」
 「もちろんですとも。わざわざご足労頂き感謝します」
 「いえいえ。あぁ君とは、顔を合わせていなかったね。私は、アーセン・ラボランジュ。こちらが息子のマクシムだ。二人共々、宜しく頼むよ」
 「マキシムです。宜しく」

 メルティと目が合うとそう自己紹介を受ける。慌ててメルティも自己紹介をした。

 「メルティ・レドゼンツです」

 カーテシーで礼をする。
 メルティは、ラボランジュと言う家名を思い出した。
 ラボランジュ公爵家。王弟が嫁いだ公爵家だ。つまり今目の前にいるのは、陛下の弟。二人が、慌てるのも納得がいく。

 「今日は、祝辞を述べに来ました。ルイス殿下とご婚約されたとか。おめでとうございます」
 「ありがとうございます」

 (え! 王子と結婚)

 三人がメルティに隠していた事とはこの事だったのだろうとメルティは気が付く。
 そして、もう後戻りが出来ない所まで来てしまった事にも気が付いた。
 王子と結婚出来るのは、聖女だから。
 本当は、メルティが聖女です。ごめんなさいではすまないだろう。

 「おや、メルティ嬢には退屈かな。マクシム、庭園でも見せてあげなさい」

 さも自分の庭の様に言うアーセンだが、マクシムは「はい」と素直に返事を返す。

 「め、滅相もございません。メルティは、体が弱く前回も寝込んでいたのです」

 寝込んだ原因は、聖女になるきっかけとなった予言をイヒニオに告げる為に、寝間着で外に出たせいであるが、もはやそんな些細な事はイヒニオの記憶にはない。

 「メルティ嬢は、どうしたい?」

 そう問われ、驚く。自分の意思を問われたからだ。
 ここに居ても息が詰まる。
 
 「行きます!」
 「メルティ! ご迷惑になると言っているのだ」

 かなり焦った様子を見せるイヒニオ。
 もしメルティが、マクシムに自分が聖女だなどと打ち明けられでもしらたと思うと気が気ではないのだ。

 「迷惑だなんて。僕もちょうど息抜きをしたいと思っていたところです。時間までにお連れ致します。行きましょう。メルティ嬢」
 「はい」
 「クラリサ。お前も行って来なさい」
 「え!?」

 ルイスと言う婚約者がいるのに、他の男性についていけという父の言葉にクラリサは驚く。
 「いけ」クチパクでイヒニオに言われ、クラリサは仕方なく頷く。

 「私もご一緒しますわ。メルティだけでは不安ですもの」
 「別にお姉様はついてこなくてもいいのですが」

 クラリサから離れたいのについてくると言うのでそう言うも、ラボランジュ公爵が三人で行っておいでというので、三人で行く事になった。
 廊下に出ると、警備兵以外誰もいない。
 一般の貴族は、このフロアにはいないからだ。

 「静かね」
 「そりゃ三部屋しか使われていないからね」

 クラリサの呟きに、サラッとマクシムが答えた。
 三部屋しかという事は、レドゼンツ伯爵家、ラボランジュ公爵に王女が嫁ぐ先の貴族のみという事だ。
 それに気が付いたクラリサは、優越感に浸る。
 まるで王族の一員にでもなった気分だ。

 「こっちだ」
 「え? ここが庭園?」

 連れていかれたのは、花が咲き乱れる庭園ではなく、雑木林の様な場所。城の敷地内にこんな場所があるとはと、二人は驚く。

 「前陛下の趣味で、自然が残されている。ここは、本来王家の者しか入れない」
 「まあ、そうなのですね。いずれ、私もその一員ですものね」

 胸の前で両手を合わせ、嬉しそうに目を輝かせクラリサが言うも、メルティは嬉しい顔つきではない。
 クラリサが言った王家の一員になる為の婚約下地は、偽りと言う泥沼だ。いつか露見し、取り返しがつかない事になる。

 (なぜ考えないのだろうか)

 偽聖女と婚約させられたと知れば、恥をかかされたと陛下一同激怒するだろう。だったら本物の聖女メルティと婚約しなおすなんて事にはならないのだから。
 そして、世間からも後ろ指指される事になる。
 もしかしたら、予言自体が嘘なのではという事にでもなれば、メルティも処刑されかねない。

 (やっぱり、婚約が発表になる前に)

 「ほら、ここ綺麗だろう。僕も好きなんだよね。湖みたいだけど、池なんだって」

 目の前には、澄んだ池が広がっていた。ここが、王城だなんて思えない景色だ。
 メルティは、進んでいきマキシムの横に並ぶ。

 「あの……マクシム様」
 「うん? 何?」
 「聖女は――」

 ドン。
 突然、後ろから押されがメルティは、ビシャという音と共に倒れ込んだ。水辺だった為にドレスには泥がべったりとついた。

 「何をするんだ」

 マクシムは、メルティの横に屈む。彼女は、手をつこうとした右手を見ていた。その右手は、池の中だ。
 池が光に包まれる。もちろんそれが見えたのはメルティだけだった――。
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