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10話

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 「うふふ。凄く楽しみだわ」
 「………」

 クラリサは、馬車に乗り込むと同時にニヤニヤしっぱなしだ。
 前回は、ルイスと会話は出来なかったけど今日は出来る。嬉しくてたまらない。
 微笑を浮かべるクラリサをムッとした顔でメルティは見ていた。

 これから、偽聖女であるクラリサが、聖女として発表され称賛されると思うとやはり納得がいかない。
 これでまだ、メルティが本物だと彼らだけでも称賛してくれるのなら、協力する気も起きるのだが、言う事を聞けと言って従わせようとするだけだ。
 しかも、クラリサはただ聖女として立つだけなのに、さも本物の聖女だという様にメルティを蔑んでいた。

 「いいか、メルティ。絶対に余計な事を言うなよ。もし会場で事を起こせば、罰として食事抜きにするからな」
 「もうドレスも買ってもらえないかもよ」

 イヒニオが注意すれば、それに便乗してクラリサがニヤリとして言う。
 それに対して、両親は何も注意をしない。

 「なぜ私だけが悪いの?」
 「そういうところだ。お前の能力は、お前だけのもモノではなく、レドゼンツ伯爵家のモノだという事だ。家族で力を合わせて行こうではないか」
 「力……何それ」
 「とにかく、いい子にしていれば、またドレスを買ってあげるわ。これからパーティーも増えるでしょうし」

 (もうそんなのいらない!)

 力を合わせると言われても意味がわからなかった。
 そもそもクラリサが偽聖女になるより、メルティが聖女の方が煩わしくない。それに彼らは、自分の得になる予言でなければ、興味がなく適当だ。
 そして一番気に入らないのが、クラリサの態度。彼女が「これはあなたが受ける称賛よ」と言うならまだわかるが、自分が称賛されるのが当たり前と言う態度なのだ。
 しかも、両親はそれを責めるではなく受け入れろと言う。

 (どっちが正しいか、会場のみんなに聞いてやるんだから!)

 もう陛下にバレて、罰を受けようがどうでもよかった。
 そもそも、嘘をついたのは両親だ。自分は、正直に言おうと言ったのだ。
 だから、みんなの前で予言をしてやる!
 そう思って意気込んでいたが、馬車から降りて唖然とする。

 大きな城にたくさんの人々。
 今日は、聖女の祝賀会なので、たくさんの貴族が招待されていた。

 「レドゼンツ伯爵家の皆さま、お疲れ様です。お部屋をご用意させて頂きました。こちらです」

 馬車を降りると、貴賓室に通される。

 「うそ。聖女様って本当に凄いのね」
 「えぇ。あなたの母親でよかったわ」
 「いずれは、伯爵どころか侯爵になれるかもな」

 王家に連なる者か、他国からの客人などを持てなす部屋だ。その者達と同等の扱い。三人が浮かれるのも仕方がないだろう。
 だが、それがメルティのお陰だとは思っているようなセリフではない。

 (こういうおもてなしを毎回受けるとなれば、そりゃ聖女になりたがるはずだわ)

 聖女にさえならなければ、こんな事にならなかった。
 だがあの時、イヒニオ達を見捨てる事などメルティには出来ない。予言を見て告げたのは、自分の利益の為ではなく他の人を助ける為だ。
 使用人に対してもそう。自分ではなく、姉のクラリサが称賛されるとわかっていても、告げていたのだから。

 「これでわかっただろう。大人しくしていれば、これらが手に入るのだ」
 「……聖女なら手に入るというのならお姉様でなくてもいいじゃない」
 「いいかげんにしろ! 蒸し返すな! もうここまで来たのだ。お前は言えるのか、あんな大勢の中で! お前も罵られるのだぞ」
 「……ねえ、お父様にとって予言って何?」
 「なんだ。急に」

 俯いて問うメルティに、怪訝な顔をイヒニオは向ける。

 「慈善事業だな」
 「そうよね。感謝される為にする事ではないのよ。わかったメルティ」

 イヒニオが慈善事業だと言えば、ファニタがそう付け加えた。
 慈善事業と聞けば、貢献するよい行動と聞こえるが、イヒニオはと付け加えている。
 彼にすれば、慈善事業の様な事だが、それによって利益がもたらされるモノという事だろう。

 聖女が行う予言によって見返りなどはない。だが、援助はある。今回の様にドレスの提供などだ。
 一番彼にとって得て嬉しいのは、バックに王家が付く事だ。
 昇進するに違いないと思っている。周りの態度も変わるだろう。
 その為には、クラリサが聖女にならなくてはならない。

 おいしいと言う意味をメルティも、何となくわかった。
 聖女と同じで、偽慈善事業なのだと。
 このままだと絶対にいけない。どうすればいいのか。
 イヒニオはの言う通り、大勢の目の前で自分が聖女ですと言う勇気はない。
 誰かに相談したい。けど、そのような者が思い当たらない。

 (あ……そうだわ。アールなら知っている)

 ふと気が付いた。
 イヒニオに予言を言ったのは、メルティだと知っていると。今までの経緯を話し協力を仰ごう。
 レドゼンツ伯爵家に仕える執事長だが、メルティの話を聞いてくれる人だ。
 それに、自分の味方の様な気がした。皆には内緒だと首飾りをくれた人。サプライズだと言っていたが、それがどういう意味なのかも訪ねてみよう。
 聖女の件に何かいい案を考えてくれるかもしれない。
 そう思うと少し気が楽になるのだった。
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