7 / 51
7話
しおりを挟む
「お父様。おかえりなさい」
イヒニオが帰宅し、ディナーを食べる為にダイニングルームに家族が集まった。
父親であるイヒニオは今日も上機嫌。姉のクラリサは、ムスッとしたままだ。
「うん? どうしたクラリサ」
「メルティがお話があるそうですわ」
チラッと見てふんとそっぽを向くクラリサ。
「何だ。メルティ。予言でも見たか」
「……いえ」
いざ言うとなると、勇気がでない。
でも陛下にクラリサではなく、メルティですと告白するのには、聖女の祝賀会の前にしなければならない。
(がんばれ、私)
「あの! やっぱり、私が聖女だと正直に言った方がいいと――」
「黙れ!」
全部言い切る前に、イヒニオが怒鳴った。
ほれ見た事かと、クラリサが得意げな顔でメルティを見る。
「いいか。これが知らればただじゃすまないのだぞ」
「騙したと言っても、お姉様か私かであって、予言は嘘ではありません」
バン!
イヒニオが、テーブルを叩き立ち上がった。
「何を言っている。それでも陛下をだましたのだぞ」
「そうしたのは、お父様達です! 別に私が予言したと仰ればよかったではありませんか。私は熱を出しこれないと。そうすればいい事だったでしょう」
「今更だ!」
確かに聖女を賜るなど誰も思っていなかっただろう。
だが、そうだと聞いた時に正直に言えば済んだ事。
「どうして、どうして。私だけ除け者なの!」
「な、何を言う」
「だって……」
メルティは、ついこないだの事を思い出す。予言で見た内容だ。それは、馬車の事故より少し前の事。
父親から何かを貰い凄く喜んでいる姉のクラリサの姿。
その日、イヒニオはメルティとクラリサにお土産を買って着てくれた。お揃いの髪飾りだ。
それを見た時メルティは、「え?」となった。
クラリサが受けった物が、予言で見た品と違うからだ。
どういう事だろうと、考えた。
途中で買う品を変えたのだろうか。
売り切れだったとか? でも何もなくて、買う物が変更になるだろうか。
この『何も』とは、メルティが何かを言って事態を変えるという意味だ。そのような事が起こらない限りは、変わらない。
(だったらこれから貰うのでは?)
くれたのは、それ一つだった。
その夜、寝る前にこっそりとクラリサの部屋を覗いた。
そこには、喜ぶ姿の姉の姿が。
お揃いで貰った髪飾りではなく、予言で見た宝石がついた高価そうな髪飾りだ。
そう予言通りクラリサは、イヒニオから貰っていた。しかもわざわざお揃いを買っておいて、別に買い与えていたのだ。
(どうしてお姉様だけ!)
子供だからなのか。だとしても齢は一つしか変わらない。
いつもドレスだってお下がりで、小柄なメルティはドレスがヨレヨレになったとしても、まだ着れるのだからと買ってもらえないのだ。
その点、姉のクラリサは、飽きたからと着れるドレスをお下がりに回し、新しいドレスを買ってもらえていた。
一度、ずるいと言った事があった。
けど、同じだけのドレスの数だと言いわれ、新しいのは必要ないと結局買ってもらえなかったのだ。
「一歳しか違わないのに、お姉様だけずるいわ!」
「またそれか。全くどうしてそんな我がままに育ったのだろうか」
「わがまま?」
「そうよ、メルティ。食事だって着る物だって与えているじゃない」
「でもお姉様のお下がりだわ」
「一つしか離れていないのだもの、仕方がないでしょう。それに、今だけよ。あと一、二年もすれば、普通に二人とも買い与えるわ。今はね、成長期なの。わかってちょうだい」
母親のファニタにそう言われると、言い返す言葉が思いつかない。
成長しきってしまえば、メルティにも買い与えると言うのだから。
メルティは、ほとんどを屋敷の中で過ごしているので、外出用のドレスを着る機会がない。室内用ならそれこそ、お下がりで十分だ。と、刷り込まれている。
「わ、わかりました。でも、予言の事は――」
「まだ言うか。聞き訳がない子だ」
「だって!」
「いいか。明日、仕立て屋が来る。聖女の祝賀会用にだ。王室御用達の所だぞ」
「え? 本当、お父様」
王室御用達だと聞き、クラリサが大喜び。
「もちろん、メルティもドレスを仕立てる。好きに仕立ててかまわん」
「ありがとう、お父様!」
「メルティもそれでいいな」
「……わかりました」
あんなにドレスがと言っていたメルティだが嬉しくなかった。ドレスが欲しいわけではないからだ。クラリサと対等にして欲しいと思っているだけ。
でも今回は、聖女と紹介されるクラリサだけではなく、家族であるメルティの分も仕立てると言う。
わかっている。一人だけみすぼらしい格好だと外聞が悪いだけだと。
だが本当のところは違った。
ドレスの仕立て代は、国で持つ。
そう、陛下の祝いとしての振舞いだった。
いじけるメルティを丸め込む為に、そうとは言わずに、さも自分が頼んだように言ったまで。
嘘は何も言ってないのだから、あとでメルティが何を言っても、誤解したのはそっちだと言えるが、そもそもメルティは子供だ。大人に従うものだ。
だがへそを曲げられて、予言を言ってくれなくなれば困るのも事実。
クラリサの機嫌も直り、三人は楽しそうに明日の仕立ての話に花を咲かせていたが、メルティは一人黙々食べるだけだった。
イヒニオが帰宅し、ディナーを食べる為にダイニングルームに家族が集まった。
父親であるイヒニオは今日も上機嫌。姉のクラリサは、ムスッとしたままだ。
「うん? どうしたクラリサ」
「メルティがお話があるそうですわ」
チラッと見てふんとそっぽを向くクラリサ。
「何だ。メルティ。予言でも見たか」
「……いえ」
いざ言うとなると、勇気がでない。
でも陛下にクラリサではなく、メルティですと告白するのには、聖女の祝賀会の前にしなければならない。
(がんばれ、私)
「あの! やっぱり、私が聖女だと正直に言った方がいいと――」
「黙れ!」
全部言い切る前に、イヒニオが怒鳴った。
ほれ見た事かと、クラリサが得意げな顔でメルティを見る。
「いいか。これが知らればただじゃすまないのだぞ」
「騙したと言っても、お姉様か私かであって、予言は嘘ではありません」
バン!
イヒニオが、テーブルを叩き立ち上がった。
「何を言っている。それでも陛下をだましたのだぞ」
「そうしたのは、お父様達です! 別に私が予言したと仰ればよかったではありませんか。私は熱を出しこれないと。そうすればいい事だったでしょう」
「今更だ!」
確かに聖女を賜るなど誰も思っていなかっただろう。
だが、そうだと聞いた時に正直に言えば済んだ事。
「どうして、どうして。私だけ除け者なの!」
「な、何を言う」
「だって……」
メルティは、ついこないだの事を思い出す。予言で見た内容だ。それは、馬車の事故より少し前の事。
父親から何かを貰い凄く喜んでいる姉のクラリサの姿。
その日、イヒニオはメルティとクラリサにお土産を買って着てくれた。お揃いの髪飾りだ。
それを見た時メルティは、「え?」となった。
クラリサが受けった物が、予言で見た品と違うからだ。
どういう事だろうと、考えた。
途中で買う品を変えたのだろうか。
売り切れだったとか? でも何もなくて、買う物が変更になるだろうか。
この『何も』とは、メルティが何かを言って事態を変えるという意味だ。そのような事が起こらない限りは、変わらない。
(だったらこれから貰うのでは?)
くれたのは、それ一つだった。
その夜、寝る前にこっそりとクラリサの部屋を覗いた。
そこには、喜ぶ姿の姉の姿が。
お揃いで貰った髪飾りではなく、予言で見た宝石がついた高価そうな髪飾りだ。
そう予言通りクラリサは、イヒニオから貰っていた。しかもわざわざお揃いを買っておいて、別に買い与えていたのだ。
(どうしてお姉様だけ!)
子供だからなのか。だとしても齢は一つしか変わらない。
いつもドレスだってお下がりで、小柄なメルティはドレスがヨレヨレになったとしても、まだ着れるのだからと買ってもらえないのだ。
その点、姉のクラリサは、飽きたからと着れるドレスをお下がりに回し、新しいドレスを買ってもらえていた。
一度、ずるいと言った事があった。
けど、同じだけのドレスの数だと言いわれ、新しいのは必要ないと結局買ってもらえなかったのだ。
「一歳しか違わないのに、お姉様だけずるいわ!」
「またそれか。全くどうしてそんな我がままに育ったのだろうか」
「わがまま?」
「そうよ、メルティ。食事だって着る物だって与えているじゃない」
「でもお姉様のお下がりだわ」
「一つしか離れていないのだもの、仕方がないでしょう。それに、今だけよ。あと一、二年もすれば、普通に二人とも買い与えるわ。今はね、成長期なの。わかってちょうだい」
母親のファニタにそう言われると、言い返す言葉が思いつかない。
成長しきってしまえば、メルティにも買い与えると言うのだから。
メルティは、ほとんどを屋敷の中で過ごしているので、外出用のドレスを着る機会がない。室内用ならそれこそ、お下がりで十分だ。と、刷り込まれている。
「わ、わかりました。でも、予言の事は――」
「まだ言うか。聞き訳がない子だ」
「だって!」
「いいか。明日、仕立て屋が来る。聖女の祝賀会用にだ。王室御用達の所だぞ」
「え? 本当、お父様」
王室御用達だと聞き、クラリサが大喜び。
「もちろん、メルティもドレスを仕立てる。好きに仕立ててかまわん」
「ありがとう、お父様!」
「メルティもそれでいいな」
「……わかりました」
あんなにドレスがと言っていたメルティだが嬉しくなかった。ドレスが欲しいわけではないからだ。クラリサと対等にして欲しいと思っているだけ。
でも今回は、聖女と紹介されるクラリサだけではなく、家族であるメルティの分も仕立てると言う。
わかっている。一人だけみすぼらしい格好だと外聞が悪いだけだと。
だが本当のところは違った。
ドレスの仕立て代は、国で持つ。
そう、陛下の祝いとしての振舞いだった。
いじけるメルティを丸め込む為に、そうとは言わずに、さも自分が頼んだように言ったまで。
嘘は何も言ってないのだから、あとでメルティが何を言っても、誤解したのはそっちだと言えるが、そもそもメルティは子供だ。大人に従うものだ。
だがへそを曲げられて、予言を言ってくれなくなれば困るのも事実。
クラリサの機嫌も直り、三人は楽しそうに明日の仕立ての話に花を咲かせていたが、メルティは一人黙々食べるだけだった。
109
お気に入りに追加
671
あなたにおすすめの小説
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
I'm looking forward to it
maruko
ファンタジー
もうすぐ私のデビュタント
ずっと楽しみにしてました
パートナーは幼馴染のミレー
二人で皆様にお披露目です。
✱作者の妄想の産物です
温かい目でお読みください
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる