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第52話 存在しなかった

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 ギルドに借りている部屋に満月の夜の三人と僕が立つ中、リルが楽しそうに駆け回っていた。

 「えっと、お話ってなんですか?」
 「エドラーラさんとはどうやって知り合った? 彼は君を見るなり詰め寄った。顔見知りという事だろう?」

 う。鋭い。

 『もう話してしまえばいいだろう。彼らも君の秘密を知っているのだから』

 秘密って魔眼でしょう? うーん。

 「実は、エドラーラさんの娘、チェミンさんは今回の見合いの前にもう一人見合いした相手がいたんです。その人と結婚するのが嫌で冒険者登録をして、錬金を取得したのですがエドラーラさんは認めず、彼女では取りに行けないような物を取って来るなら認めると条件を出した。それで彼女は、冒険者の知り合いが僕しかいなかった為頼ってきたんだ。その時、二人の間を取り持った縁なんです」
 『そういう経緯があったのか。金持ちの娘はどの時代も同じなのだな』

 おかげで色々大変な目にあってるよ。

 「なるほど。では今回の縁談の事で知っている事はほかにあるか?」
 「あの、個人的な事なので……」

 ロメイトさんに聞かれたけどそう答えた。向こうも内緒にしてほしいみたいだし。

 「あのさ、興味本位で聞いているわけじゃないからな。もしかしてその、騙されたりしてないかなって事さ」
 「騙されるって何を?」
 「君に接触して情報をとか……」
 『リトラが言いたいのは、君と娘をワザと接触させたのではないかという事だ』

 何の為に? わかっていると思うけどリレイスタルさんと出会う前の話だよ。僕があの洞窟の魔素を吸収する以前だし、いやその前に僕が錬金を受けるって知れるのは、当日だよ。あり得ない。

 『なるほど。では出会いは偶然だな』
 「もうみんな、勘ぐりすぎ。彼女との出会いはパーティーを抜けてすぐだよ。僕が錬金を習う事など知らないだろうし。一体僕と接触してエドラーラさんに何の得があるというんだ」
 「悪かった。そう怒らないでくれ。最初は偶然でも君を取り入れようとしていたかもしれない」
 「だからどうしてそう思うんですか?」

 ロメイトさんの言葉につい声を荒げてしまった。

 「落ち着けって。娘を使ってある人物と繋がる為に婚姻させようとした。その相手がスーレンだ。いない人物だっただろう。俺が聞いて確かめたんだから。娘に嘘を言っている事から……」
 「違うから! エドラーラさんはケチだけどチェミンさん、ううん。家族の事は大切にしているよ。それに従業員じゃなくてフェニモード家の次男! それにそこで働いていると言っていたんじゃなくて、この村に住んでいるって聞いていただけなんだ」
 「「「フェニモード家の次男!?」」」

 僕の言葉に三人が声を揃えて驚いた。

 「それは確かなのか?」

 ロメイトさんの問いに僕は頷いた。

 「チェミンさんはそう聞いているみたいだったけど」
 「俺達も全て把握しているわけじゃないけが、フェニモード家は街一番の金持ちだ。長女が婿を取り村でフェニックスを経営している。そして長男が街にある店を正式に受け継いだばかりだ。君が言う、スーレンという次男の話は聞いたことがない。村に住んでいると言っているが、聞かない名だ。フェニモード家の者が住んでいるなら噂になってもおかしくないんだが」
 「え? でもチェミンさんはスーレンと言う人に一度は会ってますよ」
 「だからおかしいって話をしているんだろうが。知り合いだから悪く思いたくないかもしれないが、フェニモード家の名をチラつかせられ、君の情報を流していたかもしれない」
 『リトラが言っている事はあり得ない事ではないぞ。チェミンが何も知らないから口にしてしまった。ただ問題なのは、エドラーラがどこまでわかっていて今回の縁談をしたかという事だ。乗り込んで来たと言う事は、結婚はさせる気だったのだろう?』
 「チェミンさんを使って悪さをするとは僕には思えないよ。けど相手の事は伏せなくてはいけない理由はあったんだと思う。僕の情報と言っても彼女達は何も知らないよ」
 『いやあるだろう。リムーバルだ。高価な材料を使わずに、エリキシルと同等の物をつくれると思っているのだからな。知れば喉から手が出るほど欲しい人物であろう』
 「それがきっかけ!?」
 「どうした?」

 しまった。口に出しちゃった。三人は僕が叫んだので驚いて僕を見ていた。
 あれが原因で悪に手を染めたとなると、凄いショックなんだけど……。
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