上 下
30 / 63

第30話 魔素の証明

しおりを挟む
 「ここにいたか!」

 うーん? 何?

 『リトラという者が、テントを覗いているが?』

 え? リトラさん!?
 僕は、がばっと起き上がった。

 「おはよ。起きて早々に悪いけど、ギルドに来てくれないか?」
 「え? なんで?」
 「ちょっと証言してほしいことがあるんだ」

 証言? 一体僕に何を?

 「わかりました」

 返事を返した僕は、寝ているリルをポーチに入れ、テントの外に出た。そしてそのテントをたたむ。
 あ、どうしよう。リトラさんの前でしまえないよね?

 『先に行ってもらえ』

 そうだね。

 「先に行っていてください」
 「いいけど、それどうすんの?」
 「か、隠しておくので……」
 「犬を飼ったみたいだって聞いたけど、生まれたてか? もしかして犬と過ごすのにテントを買ったのか?」

 驚いている様子のリトラさんの質問に、素直に頷いた。

 「まあいいけど。お前らしいし。ただし、犬を守る為に自分の命を投げ出すようなことはするなよ。じゃ待ってるからよろしくな」
 「はい。後で……」
 『彼の言う通りだぞ』
 「う……」

 無意識に動いちゃう気がする。

 僕は辺りを見渡して人がいないのを確認してから魔素空間に、テントをしまった。
 ところで僕に何の用だろうね?

 『わからないが、探しに来たのだから急用なのだろう』

 思い当たる節がない。

 『行ってみればわかるだろう』
 「うん」

 僕は、パーティーギルドに向かった。



 ギルドで待っていたのは、満月の夜のメンバーとダリリンスさん。それともう一組のパーティーの三人組。そこにパーティーギルドのギルドマスターのディルダスさんが加わり、話が行われるようだった。
 ディルダスさんは、表舞台にはほとんど出てこない。片目を負傷していて眼帯をしている。きれいな碧眼なのにな。

 『なんか思っていたより大ごとそうだな』

 な、なんだろう? 僕、何かしたかな?

 「そんなに構えなくてもよい。君に聞きたいことがあってな。まあ彼らを信用しないわけではないが、君も一緒に行ったと聞いて最終確認だ」

 ディルダスさんがそう難しい顔つきで言った。
 満月の夜のパーティーと一緒に行った場所って、紅灯の洞窟かな?

 『そうだな。そこだろうな』
 「実は、満月の夜の三人の話によると、紅灯の洞窟には30%の魔素が充満していたらしい」
 『やはり紅灯の洞窟の事だったな』

 まさかリルの事がばれた!?

 『それはないと思うが……』
 「ところが昨日ダリリンスさんとレモンスパーティーで洞窟を確認しに行くと、魔素が外と同じ量しかなかったらしいのだ。魔素は本当に30%あったのか?」
 「え!?」

 しまったぁ。そんな事が問題になるなんて思わなかった!

 「あの! 入ったとたん、魔素感知器が凄い音が出したんです! 僕びっくりして、ミューリィさんに抱き着いちゃって!」
 『抱き着いた事は言わなくていいのではないか?』
 「あ……いやその……わざとじゃないんです」

 ジドーっとした目で見られてしまった。

 「なるほど。20%を超えた時点でブザーが鳴るから20%は超えていたようだな」

 僕の説明に、ディルダスさんは納得してくれたようだけど、本当に僕は何余計な事を言っているんだ。

 「しかしそうなると、一晩で魔素がどこに行ったのかだな」

 ダリリンスさんがそういうと、全員渋い顔で頷いた。
 魔素は、一晩どころか数分で魔素空間の中だけど言えないよね。どうしたらいいと思う?

 『黙っておけ。それよりも魔素が増えていないか聞いてくれ』

 うん? 減ったままって言っていなかった?

 『それは入り口だろう? 奥まで行ったかを聞くのだ』

 ……いいけど。

 「あの、洞窟の奥はどうだったんですか? 行きました?」
 「あぁ、行き止まりまで行ったが2%のままだった」

 ダリリンスさんが答えてくれた。
 今更だけど魔素空間に取り入れた時、入り口までのも全部吸い取ったのか。凄い威力だ。

 『妙だな』

 妙って?

 『あの場所に魔素ポイントがあったわけではなかったという事だ』

 うん? 魔法陣を消したからじゃないの?

 『あれはリルを縛る為の物だと思っていた。だが魔素も出す魔法陣だとすれば、魔素を送り込んでいた事になる。どこかに魔素がたくさんある場所から送っている事になるのだぞ? わざわざあの場所にだ』

 うん? どういう事?

 『つまり魔素ポイントがあったからそこにリルを置いたのではなく、わざわざ魔素を充満させて、リルを縛り付けていたってことだ。なぜそんなことをしたのか』

 そういえばそうだね。魔素がある場所があるならそこでやればいいものね。なんでだろう?

 「どちらにしても、ちゃんと調べる必要があるようだな。ダリリンスさん、頼めるか?」
 「あぁ。任せておけ。そうだ、マルリードだったか、あなたも来るか?」
 「え? 僕?」

 行っていいものなの?

 『ついていけ』
 「わかりました」
 「私達もお供します」

 そう言ったのは、レモンスパーティーの人だった。満月の夜のメンバーは、一緒にはいかないみたい。
 こうして今度は、メンバーを変えて紅灯の洞窟へと向かう事になったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:369pt お気に入り:20,379

侯爵の孫娘は自身の正体を知らない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:74

冒険者をやめて田舎で隠居します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:4,319

【R18】微笑みを消してから

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:30,375pt お気に入り:1,066

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:912

【完結】それは愛ではありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:695pt お気に入り:399

処理中です...