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移動手段

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 「はあ、疲れた」

 オレは、歩みを止め道のすぐそばにあった木にもたれかかった。

 『ご主人様、まだ1時間ほどしか歩いていませんが?』
 「わかっているよ。でも喉も乾いたし……」
 『あ、お水飲みまちゅか?』

 カワズが言った。
 そういう使い方も出来るの?

 「飲む!」

 そういうと、杖の先からちょろちょろと水が出てきた!
 おぉ、これこそ命の水!
 杖から出て来る水を水道から水を飲む様に、ごくごくと飲んだ。

 「はぁ、生き返る。ありがとう、カワズ」
 『どういたちまして。そうだ。水の力で移動しましゅか?』
 「え? そんな事可能なの?」
 『あまりお薦めはしないけど、それがいいかもしれないわね』

 とクロラも言うから、お願いする事になった。

 杖をまたぎ乗り、水圧で移動。
 ぶしゅ~!!

 「ぎゃ~」

 確かに速いけど、これはお尻が痛い!!
 と思ったけど、いつの間にかぐるんとひっくり返り、杖につかま逆さまのままちょっと宙に浮いて凄い早さで移動する。
 オレが通った跡には、川の様な……いや川が出来あがっていた。これ怒られないのか。

 ◇

 「あははは……」 

 手足がガクガクで力がはいらない。
 目的の場所についてオレは、その木に寄りかかりぐったりとしていた。

 『大丈夫ですか? ご主人様』
 「あ、うん」

 クロラの言葉になんとか答える。
 本当は、大丈夫じゃない。オレ、暫く歩けないよ。
 でもシフォンのおかげで水にほとんど濡れずに済んだ。自我がある外套でよかった。風にはためく事もなくオレに巻き付き、手の裾も縮まって水が入ってこなかった。
 濡れたのは、外套から出ていた手のひらと足の先、それに顔。しかし、手足はオレ自身は濡れていない。さすが靴と手袋だ。

 『では、木の実を取りに行ってきますね』

 猫の姿に戻ったシフォンが元気にそういうと、枝が途中にほとんどない木の幹をタタタっと駆け上っていく。

 「すげぇ……」

 木に寄りかかったまま見上げ、オレはぽつりと呟く。
 そうだ。猫なんだから木登り得意だよな。

 『私も行って見るわ』
 「っは?」

 クロラは、オレが解除していないのにタレうさ耳からウサギに戻った。自身で解除出来たのかよ。
 そしてクロラは、小さな羽でかわいくぱたぱたと木の上に飛んで行く。
 あぁもう、許す。
 この辺は、なぜか人が全然いないし、オレのこの姿を見られる事もないだろう。

 シフォンが、木の実を咥えて降りてきた。だが器用な事に、歯形はついていない。
 大きさは、イチゴぐらい小さいが見た目はリンゴ。なんか一口リンゴでかわいいな。
 それにしてもこんなに小さいなんて、10個で銀貨一枚の仕事だった。だからスイカの様な大きさを想像していたけど、数がすくないのかな?

 クロラも持って帰ってきた。
 その姿がなんともかわいいのだ。両耳に一口リンゴをクルっとくるみ持ってきた。

 『いちいち持ってくるのが大変ね。そうだわ帽子を出してもらえる?』
 「いいけど」

 レベルが上がって11レベルになったからもう一体召喚できる。

 「帽子で召喚」

 ぽふんと帽子が召喚された。周囲につばが付き顎紐もついている。
 これ、10個以上になりそうだけど、凄く美味しい仕事だけど、たまたま?

 『ありがとう、ご主人様』

 礼を言うとクロラがそれを咥え、また上へと飛んで行く。やっぱりクロラが一番かわいいかも。
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