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覚悟の時

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 ヤンさんは、違う作戦を考えてくれるようだけど、解毒剤を作った方が早そうな気がする。けど……それが本当に効くかどうか不安で、飲んでも腕輪を外せないだろう。
 はぁ……。
 この頃、ため息が多いな。

 「大変だ」

 お昼過ぎにブラムさんがやってきて、話を終えたヤンさんが血相を変えてオレ達の前にそう言って出てきた。
 嫌な予感がする。

 「どうした?」

 レックスさんが聞くと、真剣な顔つきでヤンさんが口を開く。

 「ドンが、宣戦布告してきたそうだ」
 「何だって!」
 「モッチ殿とシガ殿が、アオの者を結成したと吐いたと」

 ヤンさんが言うモッチさんとは猫族の代表で、シガさんがキリン族の代表。どちらもオレ達が逃げる為に犠牲になった獣人だ。きっと拷問を受けたのだろう。

 「くそう! マジで戦争を仕掛けるつもりなのか!」

 ロンドさんが、テーブルを叩く。木のテーブルが割れそうだ。

 「ドンは、ヒソカくんを殺すか手渡す事で許すと言っている」

 ブラムさんの言葉に、皆がオレを見た。
 殺すって何? 他の手に渡るぐらいなら殺してしまえって事?

 「そして今日の午後、つまりすぐに人質を引き連れてドン自身も来るらしい」
 「今日だと!」

 困り顔のヤンさんが言うと、レックスさんが宣戦布告の事を聞いた時より驚きの声を上げた。

 「ワープして来るって事だろう? ワープって、場所指定しないといけないとか。それって、来たことがなくても出来るのか?」

 ロンドさんが聞く。そうだとしたら指定さえミスらなければ、どこにでも行けてしまう。

 「いや、国それぞれにワープを妨害する結界が張ってある。それを無効にする為には、予めワープゾーンを設置しなくてはいけない。他国の者が他国に移動するワープゾーンが設置してあるが、同盟同士のみ扱える。つまり、ベア国の者が他国へワープできるはずもない」
 「では、歩いて来ると?」

 ヤンさんの返答にレックスさんが聞いた。
 ぞろぞろと歩いて来るつもりだろうか。この世界ならありかもしれないけど。

 「いや、モッチ殿のワープ石を使うつもりだろう。それでも人数制限がある。こちらの要求は、来るなら人質を全員つれて来いと返答した」
 「え? 許可したという事ですか? ヒソカをどうするつもりで?」

 ブラムさんの言葉にレックスさんが焦って聞く。

 「もちろん渡す気などない。だが全員取り戻すには、それが一番いいと思ったのだ。なので三人は、猫族の国に来て頂く。よいな」

 よいなって、オレ達に拒否権などないだろう。
 もちろん行くけど、どうしたらいいんだ。このままだと殺されるかもしれない。
 人質の全員の命と召喚されたオレの命。考えるまでもなく、彼らの命の方をとるだろう。
 レックスさんとロンドさんが反対したところで、二人はこの世界の者達でないところか、召喚された魔の者だ。
 オレ達には言っていない決めごとがあるかもしれないから、覚悟した方がいいかもしれない。

 オレ達は、ブラムさんと一緒に猫族へとワープした。
 そうだ。オレが死んだらクロラ達はどうなるのだろうか。元の世界へ帰るだけだといいけど。
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