5 / 16
第5話
しおりを挟む
モンスター鉱山、そう呼ばれる入り口に馬を繋ぐ二人の姿があった。
一人は、今日冒険者になったばかりのルトルゼン・クレット。もう一人は、彼の監視役のフリード。
「こっちだ」
「はい」
フリードが先頭を歩き、彼にルトルゼンがついて行く。
「本当にありがとうございます。助かりました」
「ふん。お前の為じゃないし」
フリードは、ルトルゼンが気に入らなかった。馬がないから歩いていくと言うと、フリードが馬を借りてきたのだ。急いでいるのだからだそうだが、金があると見せつけられたようで苛立った。
お金を出してもらって剣術養成学校に通った事も気に入らない一つだ。冒険者になるものは、剣術などならわずにモンスター退治を始める。命を掛けて腕を上げていくのだ。
生まれた環境でスタート地点が違う。それを恨んでも仕方がないとはいえ、当たり前の様に馬を借り、当たり前の様に逸品の剣を持つ。もしそれをフリードが手に入れようとすれば、大変な事のだ。
「あの、こっちでいいのですか? 下に降りないのですか?」
「あのな、俺は監視について来たんだ。お前のおもりをするつもりはない。下に行くほど魔素が濃くなり魔石を発掘する確率が上がるが、それと同じくモンスターとの遭遇率も上がる。監視役とはいえ、お前に怪我をさせる訳にはいかない」
「でも……」
「別に意地悪して言っているわけじゃない。そこも掘れば採れるだろう。大体さ、モンスターを倒しながら採取できるのおたく?」
「それは……」
モンスターを倒すどころか、採取すら怪しい。というか、どちらもした事がないルトルゼンは黙り込んだ。
「ふん。いやなら引き返すだけだ」
「わかったよ。そこで探すよ」
それから無言の二人は、行き止まりの場所に着いた。
「ほらここだ。皆地下に行くから穴場だ。俺は一応ここで見張っているから、さっさとやれよ」
「わかった。ありがとう」
ルトルゼンは、発掘用に持ってきた道具をリュックから取り出す。
「そんなのもあるのかよ」
「え? あ、父が商売をしていて、売り物だけど。ちゃんと買い取って……」
「っけ、貴族様はいいよな」
「………」
ルトルゼンがフリードに背を向けると、彼は剣を握りしめた。
ハッとして、ルトルゼンが振り返る。
「っち」
「どういうつもり!」
フリードは、さらにイラつく。まさか、剣を受け止められるとは思わなかったのだ。懇願する彼の姿を見たかったのにとルトルゼンを睨みつける。
仕方なくその場を離れ、爆弾を放り投げた。元からそのつもりで用意してあったものだ。爆発と共に天井が崩れ落ち、出口は塞がれた。
「ざまあみやがれ。貴族同士、つぶし合えばいい!」
フリードは、鉱山から出るとルトルゼンの馬を放ち、借りた馬に乗りある場所へと向かった。人気がない場所。そこに相手が現れた。
「上手く行った。今日いっぱいは鉱山の中だ」
「いいだろう。ほらよ。残りは、明日だ」
「あぁ。ちゃんとするさ」
フリードは、ある程度時間をつぶし、慌てた様に夕刻冒険者ギルドに走り込んだ。
「た、大変だ」
息も絶え絶えのフリードに、シーダーが駆け寄った。
「ほら水。で、彼は?」
「そ、それが閉じ込められた」
「は? 閉じ込められたですって!?」
どうしてそうなるのだと、皆首を傾げる。落盤の可能性はないとは言えないが、点検は怠ってはいない。
「何があったか、順序立てて話して」
シーダーの言葉に、わかったと床に座り込んだままフリードは語り始めた。
「実は、鉱山に着いたのは早かったんだ。馬を借りてくれたから。で、かなり急いでいるようで、地下に行って魔石を採ると言うからそれはおすすめしないって言ったんだけど、道具は持ってきているからと自慢げに見せて来て、仕方なく一つ下の階に行ったんだけど……」
そこでフリードは、ちょっと困った顔を作る。
「道具があってもやった事がないらしく、使い方がわからないと言って仕方なく教えてやったんだ。しかもモンスターが出ても逃げ回るばかりで倒さない。放っておくわけにも行かないからオレが倒していた」
「何だよそりゃ」
「あんないい剣があるのに。お飾りだったと?」
「まだ使った事がなく、その剣でモンスターを斬りたくないって言っていたよ」
ため息をしつつフリードは言う。
「で、その先は?」
シーダーが先を促す。
「掘っても出て来ないからもっと下に行くといいだして、俺は無理だと言ったんだけど、金をやるから行くと……とりあえず、お金はいらないから行って見るかと行ってみたのはいいけど、掘る所じゃなかった。何せ全く戦えないから戦闘が終わるまで、俺の後ろで震えているだけだし、そして掘ってもちょぴっとだ。で結局、モンスターが出て掘れないと言い出して、最初の予定通り一階の奥へ行く事になった。そこで……」
フリードは、一旦口ごもる。
「どうした?」
「あいつ、爆弾を出しやがった。やめろと言う暇もなく、そしてバカなのかそれで道をふさいでしまった。というか、俺に向けて投げつけたから自分が閉じ込められてしまった」
「………」
周りがしーんと静まり返った。あり得ない話に、シーダーはおでこに手を当てため息をついた。
「本当にそこまで……」
言った者が、ギュッと怖い顔で握こぶしを握る。フリードは、ニヤリとした。
「掘るのが面倒だったんだろう? それで、慌てて外に出てみればなぜか馬がいなくて、走ってここまで来たんだ。俺は降りる。もう貴族なんて信用できねぇ。どうせ、俺がやるって言わなければ、出来なかった事だ。きつくお灸をすえるのに助け出すのは明日でいいんじゃないか」
フリードがそう言うと、周りの冒険者が顔を見合わせる。
「どうせ、一日ぐらい放置しても死にはしない。あそこは、モンスターもでないだろうし」
「確かに死にはしないなぁ」
そう誰かが相槌を打った。
「聞いたか皆」
シーダーが、周りを見渡して言う。
「あぁ、ひどい話だ」
皆、うんうんと頷いている。
「だろう。俺じゃなきゃ、きっとあの場でぶっ飛ばしているかもな」
あたかも本当にあったかのように言うフリードは、ルトルゼンを貶めて満足していた。どうせ、助けられた後にフリードがやったと言ったところで、証拠もない。剣だって汚れていないし、道具も持ってきていた。彼の味方などここにはいないのだ。
一人は、今日冒険者になったばかりのルトルゼン・クレット。もう一人は、彼の監視役のフリード。
「こっちだ」
「はい」
フリードが先頭を歩き、彼にルトルゼンがついて行く。
「本当にありがとうございます。助かりました」
「ふん。お前の為じゃないし」
フリードは、ルトルゼンが気に入らなかった。馬がないから歩いていくと言うと、フリードが馬を借りてきたのだ。急いでいるのだからだそうだが、金があると見せつけられたようで苛立った。
お金を出してもらって剣術養成学校に通った事も気に入らない一つだ。冒険者になるものは、剣術などならわずにモンスター退治を始める。命を掛けて腕を上げていくのだ。
生まれた環境でスタート地点が違う。それを恨んでも仕方がないとはいえ、当たり前の様に馬を借り、当たり前の様に逸品の剣を持つ。もしそれをフリードが手に入れようとすれば、大変な事のだ。
「あの、こっちでいいのですか? 下に降りないのですか?」
「あのな、俺は監視について来たんだ。お前のおもりをするつもりはない。下に行くほど魔素が濃くなり魔石を発掘する確率が上がるが、それと同じくモンスターとの遭遇率も上がる。監視役とはいえ、お前に怪我をさせる訳にはいかない」
「でも……」
「別に意地悪して言っているわけじゃない。そこも掘れば採れるだろう。大体さ、モンスターを倒しながら採取できるのおたく?」
「それは……」
モンスターを倒すどころか、採取すら怪しい。というか、どちらもした事がないルトルゼンは黙り込んだ。
「ふん。いやなら引き返すだけだ」
「わかったよ。そこで探すよ」
それから無言の二人は、行き止まりの場所に着いた。
「ほらここだ。皆地下に行くから穴場だ。俺は一応ここで見張っているから、さっさとやれよ」
「わかった。ありがとう」
ルトルゼンは、発掘用に持ってきた道具をリュックから取り出す。
「そんなのもあるのかよ」
「え? あ、父が商売をしていて、売り物だけど。ちゃんと買い取って……」
「っけ、貴族様はいいよな」
「………」
ルトルゼンがフリードに背を向けると、彼は剣を握りしめた。
ハッとして、ルトルゼンが振り返る。
「っち」
「どういうつもり!」
フリードは、さらにイラつく。まさか、剣を受け止められるとは思わなかったのだ。懇願する彼の姿を見たかったのにとルトルゼンを睨みつける。
仕方なくその場を離れ、爆弾を放り投げた。元からそのつもりで用意してあったものだ。爆発と共に天井が崩れ落ち、出口は塞がれた。
「ざまあみやがれ。貴族同士、つぶし合えばいい!」
フリードは、鉱山から出るとルトルゼンの馬を放ち、借りた馬に乗りある場所へと向かった。人気がない場所。そこに相手が現れた。
「上手く行った。今日いっぱいは鉱山の中だ」
「いいだろう。ほらよ。残りは、明日だ」
「あぁ。ちゃんとするさ」
フリードは、ある程度時間をつぶし、慌てた様に夕刻冒険者ギルドに走り込んだ。
「た、大変だ」
息も絶え絶えのフリードに、シーダーが駆け寄った。
「ほら水。で、彼は?」
「そ、それが閉じ込められた」
「は? 閉じ込められたですって!?」
どうしてそうなるのだと、皆首を傾げる。落盤の可能性はないとは言えないが、点検は怠ってはいない。
「何があったか、順序立てて話して」
シーダーの言葉に、わかったと床に座り込んだままフリードは語り始めた。
「実は、鉱山に着いたのは早かったんだ。馬を借りてくれたから。で、かなり急いでいるようで、地下に行って魔石を採ると言うからそれはおすすめしないって言ったんだけど、道具は持ってきているからと自慢げに見せて来て、仕方なく一つ下の階に行ったんだけど……」
そこでフリードは、ちょっと困った顔を作る。
「道具があってもやった事がないらしく、使い方がわからないと言って仕方なく教えてやったんだ。しかもモンスターが出ても逃げ回るばかりで倒さない。放っておくわけにも行かないからオレが倒していた」
「何だよそりゃ」
「あんないい剣があるのに。お飾りだったと?」
「まだ使った事がなく、その剣でモンスターを斬りたくないって言っていたよ」
ため息をしつつフリードは言う。
「で、その先は?」
シーダーが先を促す。
「掘っても出て来ないからもっと下に行くといいだして、俺は無理だと言ったんだけど、金をやるから行くと……とりあえず、お金はいらないから行って見るかと行ってみたのはいいけど、掘る所じゃなかった。何せ全く戦えないから戦闘が終わるまで、俺の後ろで震えているだけだし、そして掘ってもちょぴっとだ。で結局、モンスターが出て掘れないと言い出して、最初の予定通り一階の奥へ行く事になった。そこで……」
フリードは、一旦口ごもる。
「どうした?」
「あいつ、爆弾を出しやがった。やめろと言う暇もなく、そしてバカなのかそれで道をふさいでしまった。というか、俺に向けて投げつけたから自分が閉じ込められてしまった」
「………」
周りがしーんと静まり返った。あり得ない話に、シーダーはおでこに手を当てため息をついた。
「本当にそこまで……」
言った者が、ギュッと怖い顔で握こぶしを握る。フリードは、ニヤリとした。
「掘るのが面倒だったんだろう? それで、慌てて外に出てみればなぜか馬がいなくて、走ってここまで来たんだ。俺は降りる。もう貴族なんて信用できねぇ。どうせ、俺がやるって言わなければ、出来なかった事だ。きつくお灸をすえるのに助け出すのは明日でいいんじゃないか」
フリードがそう言うと、周りの冒険者が顔を見合わせる。
「どうせ、一日ぐらい放置しても死にはしない。あそこは、モンスターもでないだろうし」
「確かに死にはしないなぁ」
そう誰かが相槌を打った。
「聞いたか皆」
シーダーが、周りを見渡して言う。
「あぁ、ひどい話だ」
皆、うんうんと頷いている。
「だろう。俺じゃなきゃ、きっとあの場でぶっ飛ばしているかもな」
あたかも本当にあったかのように言うフリードは、ルトルゼンを貶めて満足していた。どうせ、助けられた後にフリードがやったと言ったところで、証拠もない。剣だって汚れていないし、道具も持ってきていた。彼の味方などここにはいないのだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。
白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。
国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。
そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。
そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

特別捜査一課!
†Shana†
ファンタジー
元刑事であった父の背中を追い、警察官になった神兎(じんと)。
神兎が配属した捜査一課は警察署の中でも特別なとこであった。
個性的なキャラが集まるとこで神兎はやっていけるのか?!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる