【完結】恐れ入りますが、剣と魔法のファンタジーではなく迷推理のお話となります。

すみ 小桜(sumitan)

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第5話

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 モンスター鉱山、そう呼ばれる入り口に馬を繋ぐ二人の姿があった。
 一人は、今日冒険者になったばかりのルトルゼン・クレット。もう一人は、彼の監視役のフリード。

 「こっちだ」
 「はい」

 フリードが先頭を歩き、彼にルトルゼンがついて行く。

 「本当にありがとうございます。助かりました」
 「ふん。お前の為じゃないし」

 フリードは、ルトルゼンが気に入らなかった。馬がないから歩いていくと言うと、フリードが馬を借りてきたのだ。急いでいるのだからだそうだが、金があると見せつけられたようで苛立った。
 お金を出してもらって剣術養成学校に通った事も気に入らない一つだ。冒険者になるものは、剣術などならわずにモンスター退治を始める。命を掛けて腕を上げていくのだ。
 生まれた環境でスタート地点が違う。それを恨んでも仕方がないとはいえ、当たり前の様に馬を借り、当たり前の様に逸品の剣を持つ。もしそれをフリードが手に入れようとすれば、大変な事のだ。

 「あの、こっちでいいのですか? 下に降りないのですか?」
 「あのな、俺は監視について来たんだ。お前のおもりをするつもりはない。下に行くほど魔素が濃くなり魔石を発掘する確率が上がるが、それと同じくモンスターとの遭遇率も上がる。監視役とはいえ、お前に怪我をさせる訳にはいかない」
 「でも……」
 「別に意地悪して言っているわけじゃない。そこも掘れば採れるだろう。大体さ、モンスターを倒しながら採取できるのおたく?」
 「それは……」

 モンスターを倒すどころか、採取すら怪しい。というか、どちらもした事がないルトルゼンは黙り込んだ。

 「ふん。いやなら引き返すだけだ」
 「わかったよ。そこで探すよ」

 それから無言の二人は、行き止まりの場所に着いた。

 「ほらここだ。皆地下に行くから穴場だ。俺は一応ここで見張っているから、さっさとやれよ」
 「わかった。ありがとう」

 ルトルゼンは、発掘用に持ってきた道具をリュックから取り出す。

 「そんなのもあるのかよ」
 「え? あ、父が商売をしていて、売り物だけど。ちゃんと買い取って……」
 「っけ、貴族様はいいよな」
 「………」

 ルトルゼンがフリードに背を向けると、彼は剣を握りしめた。
 ハッとして、ルトルゼンが振り返る。

 「っち」
 「どういうつもり!」

 フリードは、さらにイラつく。まさか、剣を受け止められるとは思わなかったのだ。懇願する彼の姿を見たかったのにとルトルゼンを睨みつける。
 仕方なくその場を離れ、爆弾を放り投げた。元からそのつもりで用意してあったものだ。爆発と共に天井が崩れ落ち、出口は塞がれた。

 「ざまあみやがれ。貴族同士、つぶし合えばいい!」

 フリードは、鉱山から出るとルトルゼンの馬を放ち、借りた馬に乗りある場所へと向かった。人気がない場所。そこに相手が現れた。

 「上手く行った。今日いっぱいは鉱山の中だ」
 「いいだろう。ほらよ。残りは、明日だ」
 「あぁ。ちゃんとするさ」

 フリードは、ある程度時間をつぶし、慌てた様に夕刻冒険者ギルドに走り込んだ。

 「た、大変だ」

 息も絶え絶えのフリードに、シーダーが駆け寄った。

 「ほら水。で、彼は?」
 「そ、それが閉じ込められた」
 「は? 閉じ込められたですって!?」

 どうしてそうなるのだと、皆首を傾げる。落盤の可能性はないとは言えないが、点検は怠ってはいない。

 「何があったか、順序立てて話して」

 シーダーの言葉に、わかったと床に座り込んだままフリードは語り始めた。

 「実は、鉱山に着いたのは早かったんだ。馬を借りてくれたから。で、かなり急いでいるようで、地下に行って魔石を採ると言うからそれはおすすめしないって言ったんだけど、道具は持ってきているからと自慢げに見せて来て、仕方なく一つ下の階に行ったんだけど……」

 そこでフリードは、ちょっと困った顔を作る。

 「道具があってもやった事がないらしく、使い方がわからないと言って仕方なく教えてやったんだ。しかもモンスターが出ても逃げ回るばかりで倒さない。放っておくわけにも行かないからオレが倒していた」
 「何だよそりゃ」
 「あんないい剣があるのに。お飾りだったと?」
 「まだ使った事がなく、その剣でモンスターを斬りたくないって言っていたよ」

 ため息をしつつフリードは言う。

 「で、その先は?」

 シーダーが先を促す。

 「掘っても出て来ないからもっと下に行くといいだして、俺は無理だと言ったんだけど、金をやるから行くと……とりあえず、お金はいらないから行って見るかと行ってみたのはいいけど、掘る所じゃなかった。何せ全く戦えないから戦闘が終わるまで、俺の後ろで震えているだけだし、そして掘ってもちょぴっとだ。で結局、モンスターが出て掘れないと言い出して、最初の予定通り一階の奥へ行く事になった。そこで……」

 フリードは、一旦口ごもる。

 「どうした?」
 「あいつ、爆弾を出しやがった。やめろと言う暇もなく、そしてバカなのかそれで道をふさいでしまった。というか、俺に向けて投げつけたから自分が閉じ込められてしまった」
 「………」

 周りがしーんと静まり返った。あり得ない話に、シーダーはおでこに手を当てため息をついた。

 「本当にそこまで……」

 言った者が、ギュッと怖い顔で握こぶしを握る。フリードは、ニヤリとした。

 「掘るのが面倒だったんだろう? それで、慌てて外に出てみればなぜか馬がいなくて、走ってここまで来たんだ。俺は降りる。もう貴族なんて信用できねぇ。どうせ、俺がやるって言わなければ、出来なかった事だ。きつくお灸をすえるのに助け出すのは明日でいいんじゃないか」

 フリードがそう言うと、周りの冒険者が顔を見合わせる。

 「どうせ、一日ぐらい放置しても死にはしない。あそこは、モンスターもでないだろうし」
 「確かに死にはしないなぁ」

 そう誰かが相槌を打った。

 「聞いたか皆」

 シーダーが、周りを見渡して言う。

 「あぁ、ひどい話だ」

 皆、うんうんと頷いている。

 「だろう。俺じゃなきゃ、きっとあの場でぶっ飛ばしているかもな」

 あたかも本当にあったかのように言うフリードは、ルトルゼンを貶めて満足していた。どうせ、助けられた後にフリードがやったと言ったところで、証拠もない。剣だって汚れていないし、道具も持ってきていた。彼の味方などここにはいないのだ。
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