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第3話

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 僕は、父から貰った剣を腰に下げた。剣が立派だと僕でも様になる。
 せめて、魔法が使えたらなぁ。
 父さんは、魔力はなかった。けど、第六感だとか目利きだとか、そういうのを持ち合わせていて、商人に向いている人だ。母さんには、少し魔力がありそれを僕らは受け継いでいる。だから魔法が使えないかと協会に行って見てもらったけど、生まれ持った魔法はなかった。後は……。

 僕は、机の上にある小さな植木鉢を見つめる。小さな蕾を付けた花が一輪。精霊のゆりかごと言われる花で、自身の魔力を流し育てると咲いた花から精霊が生まれてくると言われている。
 その精霊は、その魔力に属し力を貸すらしい。
 今から魔法を手に入れるとしたらこれしか方法がないけど、十歳から毎日魔力を与え続けやっと蕾。まあ蕾を付けただけでも凄いらしいけど。
 母さんの話だと、母さんは未だに蕾すらつけてない。姉さんもだ。

 「一応、魔力を注いでから行くかな。僕に力を貸して」

 蕾の近くに手を持っていき、魔力を注ぐ。
 さて、行くか。

 「母さん、行って来る」
 「一人で大丈夫?」
 「大丈夫。これでも学校を卒業したんだから」
 「そうね。ごめんなさいね。今日はあなたのお祝いのはずだったのに」
 「うん。解決したら今日より盛大に宜しくね」
 「えぇ、もちろんよ。気を付けて行ってらっしゃい」

 僕は、馬に乗り冒険者ギルドに向かう。少し遠回りになるけど、街の中は速く走れないので、街の外を回って走る事にした。貴族なら馬車で移動なのだろうけど、単独なら馬だけの方が断然速い。
 冒険者ギルドは、街の端にある。ここは、モンスターを倒す事を専門とする団体だ。傭兵と違い、モンスターを倒す事自体が仕事で、傭兵は、モンスターがいる場所へ行く時に雇う護衛の様なもの。冒険者を雇ってもいいけど、貴族は滅多に雇わない。そうするぐらいなら、冒険者ギルドに欲しい物を採って来てほしいと依頼するのが基本だ。
 なので、冒険者からはあまり貴族は好かれていない。いや貴族が冒険者を毛嫌いしているからかな。僕は、そういうのはないけどね。だけど、初めて対峙するからどうなる事やら。

 馬小屋があったので、そこに馬を預け冒険者ギルドへと足を運ぶ。冒険者ギルドの前に来ると、皆振り返って僕を見た。まあ身なりはそこそこだからねぇ。さっきもらった立派な剣も下げているし、貴族様が何の用だって見ているのだろう。普通、用事があれば侍従もしくは護衛兵に行かせるからね。

 「失礼します」

 ボソッと言って開け放された扉から入り辺りを見渡すと、注目を集めた。周りには、僕よりごつい人達が怖い目で僕を見ている。とつぜん、ボコられはしないだろうけど、目がボコられたいのかと言っているように見える。

 「あの、すみません」

 カウンターに行くと、奥から真っ赤な髪の女性が出てきた。もしかして、対貴族用の人かもしれない。

 「ご依頼ですか? でしたら奥でお伺い致します」
 「えーと……」

 依頼でもないし、時間をかけていられない。

 「依頼ではなくて、お願いに来ました」
 「お願いですか?」
 「はい。えっと、責任者の方はいらっしゃいますか?」
 「な、何か、ございましたか?」
 「え! いえ! そうではなくて……」

 冒険者が何かやらかしたのかと思ったようだ。まあ責任者を出せと言えばそう思うか。

 「ちょっとお借りしたい物がありまして……」
 「あぁ、護衛の依頼でしたか」

 うん? あ、モノ違いか……。

 「えっと、人じゃなくて物です。マコトのオーブを……」
 「えー!!!」

 凄く驚かれた。たぶん、ここにそんなものを借りに来たのは僕ぐらいだろうからね。

 「し、失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
 「はい、僕、いえ私は、ルトルゼン・クレットと申します」
 「クレット家と言うと、やり手のクレット男爵家の?」

 そんな噂があるのか。

 「はい。クレット男爵家です」
 「これまたなぜに? 男爵家とはいえ、配布されていると思われますよ」
 「実はちょっと込み入った事情がありまして、家にあるのは使えないのです。できれば、見届け人も一緒にお願いしたいのですが。もちろん、お金はお支払いします」

 僕は、深々と女性に頭を下げた。この人に下げても仕方がないかもしれないけど、誠意を見せないとね。

 「そうですね。貸せませんね……」
 「え! どうしてもだめですか?」

 僕は、頭を上げカウンターにしがみつき聞いた。お金を詰めば貸してくれるところではないとわかってはいるけど、後は直接警察に行くしかない。けど、それでは手続きに時間がかかってしまう。

 「わかっているとは思いますが、ここにあるのは冒険者のいざこざに使用する為にあるのです。無関係な方にお貸しする事はできませんし、関わる事もできません」
 「ですよね……」

 やっぱり無理か。

 「ですが……」
 「なんですか? 何か方法があるとか?」
 「あなたが冒険者になればいいのです」

 にっこりと微笑んで彼女は言った。
 貴族でも冒険者になる者はいる。それこそ男爵家生まれものが。しかし家計が厳しい三男とかだ。僕は、こう言ったらここの人達に恨まれるかもしれないが、お金には困っていない。しかも嫡男だ。でもそれだけで、借りられるなら恥を忍んで……。

 「わ、わかりました。冒険者になります!」
 「おい、お前! ふざけるなよ。俺達は命を掛けてこの仕事をやっているんだ。借りるだけの為に入るってあり得ねえ!」

 冒険者の一人がそう言って僕を睨みつけた。いや、周りの者のほとんどがそう思っているのだろう。滅茶苦茶視線が怖い。

 「あ、えーと……」

 言われた通りなので、言い返せない。けどこっちも事情があるんだ。

 「そうですね。お遊びではないのですよ?」

 と受付の彼女の提案なのに、そう言ってきた。僕だって遊びのつもりではない。

 「では、どうすれば認めていただけますか?」
 「ずいぶんと立派な剣ですね。剣に腕がおありで?」
 「基本は。今日、剣術養成学校を卒業しました」

 そう言うと、また皆ポカーンとした。きっと、それなのになぜここに来たんだという事なんだろうね。貴族が学校を卒業出来れば、仕事はいくらでもあるからだ。普通なら就職先も決まっているだろう。そこに借りに行けばいい。僕は、家の護衛兵になるつもりだったから就職先はクレット家だ。

 「なるほど。かなり訳ありのようですね」

 なぜか、彼女はクスリと笑った。

 「私は、シーダーといいます。本気のようですので、冒険者のご説明をしますね」

 僕の覚悟を試したのか。認めたのはシーダーさんだけのようで視線はそのままだけどね。
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