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41話 狙われた二人

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 振り返るとそこには、八羽仁組の組長の息子が立っていた!
 二人は、息をのむ。
 が、よく見ると、うっと声を上げ男性が、組長の息子の足元に倒れ込んだ。そして、足元には、大きな石があった。
 さっきまではなかったものである。
 二人は状況が飲み込めず、唖然としていた。

 「なんだ、助けてやったのに礼の一つもないのか?」
 「えっと、ありがとうございます……」

 ミキはとりあえず、組長の息子にそう返した。

 ――もしかして、私達この人に助けられたの? 八羽仁組に?

 「どういう事?」
 「それは知らないが、ここで厄介ごと起こさないでもらいたいな。俺は、ここで静かな生活を楽しんでるんだ。ここで事が起こると全部、俺のせいにされるだろうが!」
 「さとるさん、すみません。取り逃がしました。車で逃げられて……」

 組長の息子――優は、声を掛けた男に振り向くと、下に倒れた男を見た。

 「これを向こうに連れていけ」

 命令を受けた男は頷くと、倒れた男の足を引っ張りずりずりと連れていく。

 「え! ちょっと!」

 ミキは、乱暴な扱いに驚いて声を上げた。

 「で? かくれんぼでもしていたのか? 声掛けようかと思ったらさっきの奴が石で殴りかかるところだったけど?」
 「それ、本当?」

 ミキは、青ざめた顔で聞いた。
 浅井もミキの横で青ざめている。

 どうやら佐藤に、またはめられたらしい。
 男は、ミキと浅井が隠れている背後からそっと近づき、そこに落ちている大きな石で殴りかかろうとしていたところを助けてもらったようだ。
 それがわかっても二人は、なんで? のままだった。

 指定された時間より相当早い。
 見張りがいなかったのは、公園を一周して確認した。
 一つだけわかったのは、呼び出した理由は、自分達を殺す為だったって事だった。
 しかも八羽仁組じゃない、どこかの組にだ。

 ――佐藤さんにまた騙された!

 「あぁ。まあ、詳しい話は部屋でどうだ」

 そう言って、優がミキに一歩近づいて来た。

 ミキは、大きなため息をついた。
 佐藤が八羽仁組に追われていると言ったから、会社に掛かって来た電話の相手は八羽仁組だと思ったのである。だが、違った。今更ながら、最初から裏で操っているどこかの組の仕業だと気が付いた。

 「いえ、助けて頂いてありがとうございました」

 ミキは、立ち上げると深々と礼をした。
 浅井も慌てて、礼をする。

 「ほんと、面白いやつだな。で、今日は遊佐はどうした?」
 「遊佐さん? 別に一緒じゃないけど……あ、ちょっと、ごめんなさい」

 ミキは、ポケットからスマホを出した。
 電話が来たのである。相手は、遊佐だった。

 「噂をすればですね……」

 と、浅井が言った。
 ディスプレイに表示された名前を見たのである。

 「どうぞ」

 優が、出ろと促した。
 なので、ミキは電話に出る。

 「もしもし……」
 『無時か!』
 「え!」

 ミキは、ドキッとする。
 何故、ここに来た事をと思い浅井を見た。彼は、首を横にブンブンと振った。自分は、連絡していないと。

 『何かあったのか! 今、どこにいる!』
 「えっと。公園。土曜日だし浅井さんと一緒に散歩中よ。慌てて何かあったの?」

 ミキは、咄嗟にそう言った。

 『浅井さんも一緒か。よかった。佐藤が姿を消した!』
 「え? 佐藤さんが? いつからいないの?」
 『昨日から戻ってないらしい』

 ――昨日って……。

 さっきの電話は、脅されて演技をしていた事になる。そして、相手は本気で自分達を殺そうとしていると、ミキはゾッとする。

 『そこに、浅井さんがいるんだな? 彼に代わってくれ』

 ミキは、チラッと浅井を見た。不安そうな顔をミキに向けていた。

 「浅井さん。遊佐さんが、電話代わってだって」

 ミキは、そう言って手渡そうとスマホを浅井に差し出すと、横からスッと手が伸びて来た。

 「あ! ちょっと!」

 取り上げたのは、優だった!
 ミキは慌てるが、お構いなしに電話に出る。

 「よう元気?」

 にんまりしながら、電話の向こう側にいる遊佐に話しかけた。
 そして楽し気に、遊佐と会話をしている!

 「俺も散歩。ここ、俺のマンションの横の公園な」
 「ちょっと勝手な事、話さないでよ!」

 ミキは、相手が八羽仁組だという事を忘れ言うが、向こうはニヤッと笑って話を進める。

 「俺は何もしてないぜ。あ、そうそう佐藤だっけ? いなくなったみたいだな。俺、居場所を知っているけど教えようか?」

 ミキは、その言葉に驚く。
 八羽仁組に捕まっているわけではないからだ。
 なぜ優が知っている? とジッと探るようにミキは優を見た。

 ――嘘か本当か……。

 「貸だからな……」

 そう呟くと、組長の息子はスマホを浅井に突き出した。浅井は、慌てて受け取り電話に出た。

 「遊佐さん、すみません!」

 ミキが浅井の様子を見ていると、それを遮るように優が間に立った。

 「やるよ」

 突然目の前に立ち渡されたので、ミキはつい受け取ってしまう。それは、名刺だった!

 「八羽仁優……名刺?」
 「それ、プライベート用の名刺だから、なくしたらどうなるかわかっているだろうな?」

 優は、耳元でそう囁いた。
 名前と電話番号、メールアドレスのみのシンプルなものだった。

 ――いや、いらないから!

 「優さん、あいつら……」

 優は部下から呼ばれ、そっちを振り向いた。

 「ミキさん! 行きましょう!」
 「え?」

 その隙をついてか突然、がしっと浅井に手首を捕まれ、引っ張られて走り出す。
 そしてバイクまでくると、浅井にヘルメットを渡される。

 「どうします?」
 「放っておけ。で、何だ?」
 「あいつら三倉橋組……」

 浅井は、バイクを発進させた。二人の会話は、そこで聞こえなくなった。

 ――三倉橋組って言った? それって確か二大勢力のもう一方じゃなかったっけ?

 ミキは、困惑していた。
 そんな大きな組織が、自分達を罠に掛け殺そうとする意味がわからなかった。
 名簿の件なら佐藤だけ殺せばいい。話は、佐藤からしか聞いていないし証拠もない。それに、警察だって察しがつく事ではないだろうかと。

 「着きましたよ」

 浅井が、バイクを止め言った。
 考え事をしている間についた様だ。

 「ここって……警察署?」
 「すまない、浅井さん」

 そう言って近づいて来たのは遊佐だった。
 横には、年配の刑事も一緒だった。

 「こちらは俺の上司。水上課長だ。君達に話が聞きたい」

 遊佐は、そう言って二人を促した。
 着いた先は、西警察署だった!
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