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32話 二人の間柄

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 「若狭さん、もう帰ってもらって宜しいですよ。あ、署の前で遊佐さんが待っているそうです。ご協力ありがとうございました」

 四十分ほど経った頃、青野が顔を出しそう言ったのである。

 ――逃げられなかったか……。

 「失礼します」

 解放されたミキは、礼を言ってその場を後にして、署を出た。
 言われた通り出てすぐの所に遊佐は立っていた。ミキを発見すると、鋭い視線を向ける。
 ミキは、小走りで遊佐に近づいた。

 「えーと……ご迷惑掛けてごめんなさい」

 そう言ってミキは、頭を下げた。

 「全くだ。言っておくが、今回はじゅんに迷惑を掛けない為だからな! 二度はないぞ」
 「わかってるわよ。私だってごめんよ。でも、助かったわ。ありがとう」

 遊佐は、小さくため息をついた。
 この様子だと、伊東に来てもらう様にお願いしても却下されていたかもしれない。

 「で、被害者の佐藤さんとは、本当に取材で知り合った仲だけなんだな?」
 「そうよ。相談を聞きに行っただけ」

 ミキは、遊佐の質問に頷いて答えた。

 「ミキさーん!」

 呼ばれてミキは振り向くと、浅井がダッシュで向かってきた。
 その顔は、安堵を浮かべている。

 「よかった! 誤解は解けたんですね! 僕どうしようかと……。あ、刑事さん?」
 「たぶん?」
 「たぶんとは何だ?」
 「だって私、警察官だとしかあなたの事知らないもの」

 それを聞くと突然遊佐は、ポケットから何やら取り出すと、ペンで書き込む。

 「遊佐だ。もし、ミキが無謀な事をしそうになったら、携番を書いたので遠慮なく連絡をくれていい」

 遊佐は、ミキではなく浅井に渡した。
 どこかで見た光景だった。

 「何それ……」

 何故か可笑しくなってミキは笑いながら呟いた。

 「西警察署生活安全課……。あ、僕は、浅井です。カメラマンです」
 「何がおかしいんだ」

 まだ笑っているミキに、呆れ顔で遊佐は言った。

 「だって、この前の光景に似てるから……」
 「あ、そういえば! あの時は、ミキさんが貰ったんでしたね」
 「何の話だ?」
 「ミキさんナンパされたんですよ! それで名刺に携番書いて渡されたんです」
 「君をナンパする奴がいたとは……」

 ミキはムッとして遊佐を睨み付ける。

 「何よそれ! って言うかナンパじゃないわよ」
 「何故そう思う?」
 「浅井さんも一緒だったのよ? しかも睨み付けたのに近づいて来たの。何の目的かは知らないけど……」

 それを聞くと遊佐は、眉間にしわを寄せる。
 話を聞く限り、ナンパとは思えない話だ。

 「あまり変なのに係わるなよ」
 「ふん。大きなお世話よ」
 「でも、用心する事に越したことはないと思いますよ。昨日だって佐藤さんから電話来た時、その男かと思ったんだから……」

 ミキは、ため息をする。

 「あのね、こっちは教えてないんだから掛けてくる訳ないでしょ?」
 「おや、まだこんな所にいらっしゃったのですか?」

 突然声が掛かり振り返ると、青野と緑川がこちらに向かってきた。
 遊佐は、軽く会釈した。

 「あ、そうだ。浅井さん、取材行きましょう」
 「え? あ、そうでした! ミキさんが解放されてよかったです。僕一人で取材になったらどうしようかと……」
 「では、私達はこれで……」

 遊佐から逃げるチャンスだと、ミキも軽く会釈するとバイクに向かおうとした。

 「まて! どこに行くきだ!」

 だがそう言って、遊佐がミキの手首をがしっとつかんだ!

 「取材よ。サッポロンに行くの」
 「余計な事はするなと言っただろうが!」
 「これは最初から決まっていた取材よ! 刑事さんにも話してあるわ! 離してよ!」

 ミキは、そうよねと青野を見る。

 「そういえば、そう言ってましたが……」
 「わかった? は・な・し・て!」

 青野は、ミキと遊佐を交互に見た。
 仕方がなく遊佐は手を離すと唐突に言った。

 「俺も行く!」
 「お好きにどうぞ」

 遊佐にニッコリほほ笑んで、ミキはそう返した。

 「私達、バイクだから……」

 遊佐は、驚いた顔をするも、二人の服装を見て納得した。

 「あの、お二人もサッポロンに?」

 そして突然に遊佐は、青野達に問う。

 「そうですが……」
 「申し訳ありませんが、同行しても宜しいでしょうか?」

 青野が嫌そうな顔をするが頷く。
 遊佐は、相手が嫌そうにするも動じず、礼を言う。

 「ありがとうございます」
 「宜しいですが……。やんちゃな彼女だと苦労しますね」
 「え? いや、そういう間柄では……」

 遊佐は、小さくため息をついた。
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