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9話

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 ど、どうしましょう。男装ではなく女装で、ルティアン嬢ではなくルティロン子息だったなんて。まあ誰にも話す気はないようだし、向こうはその意思はないと命を狙われているという事を教えてくれた。
 きっと嘘ではないわね。前にお父様にラフリィード嬢の話をした時に感じた事はこれだわ。お父様もラフリィード嬢が命を狙われていたのを知っていた。だからお茶会に参加していると聞いて、驚いたのだわ。

 「いらっしゃいませ。メンデス様」
 「今日は、にも一着お願いしたい」
 「おい……」
 「かしこまりました」

 うふふ。焦ってる。

 「では、寸法をお測りしますので、こちらへ」
 「いや、俺……私は」
 「大丈夫よ。その声でバレたわよ」
 「……お前なぁ」
 「どうぞこちらへ。測るのは男性が行いますのでご心配いりません」
 「し、しかし、脱いでも自分では着れなくて……」
 「承知しております」
 「………」

 ラフリィード子息は、ため息をつき諦めて店員について行った。
 焦る彼を見るのは、これはこれで楽しいわね。

 「メンデス様、先日ご注文をされたご洋服が出来上がっております」
 「え? 本当? 着てみるわ」

 鮮やかな青色の真空まぞら色の上下。スーツっぽく仕上げてあって、縁に金色でちょっとした模様が施してある。
 ちょっと派手かなと思ったけど、私が地味色の髪に顔だから丁度よいと思う。
 よし、今日はこれで行動しよう。

 「はあ……疲れた。って、何その恰好!?」

 サイズ測定を終わらせて戻って来たラフリィード子息が、私を見て驚く。
 うふふ。彼が驚く顔ってかわいい。言ったら怒られそうだから言わないけどね。

 「どう? 似合う?」
 「うん。まあ。でも派手だね」

 なぜか、ラフリィード子息が少し顔を赤らめて言う。

 「では、これでデートしようか」
 「は? デート?」
 「うん。王都の平民街を歩くの」
 「な、なぜ」
 「なぜ? ただの散歩よ。出来れば貴族に会いたくないからね」
 「いや、俺、この恰好で歩きたくないんだが」
 「ではここで、既製品でも買って着ていく?」
 「は? いいや。もう帰るよ」
 「え~。もう少しお話したかったのに」
 「……俺と一体何の話をするんだよ。共通の話題などないだろう」
 「思ったのだけど、女装も男装も大して変わらないと思うのよ!」
 「あのな! 俺のは趣味じゃない。今日だってルティアン宛に来たから仕方なく……」
 「そういう時は、来れなくなったと言えばいいだけでは?」
 「で、できたらそうしてるよ」

 まあ断れない様な方法を取ったけど、侯爵家なのに権力を使わないのね。カシュアン侯爵家とは大違い。

 「悪かったわ。私はただ、ルティアン嬢とお友達になりたかったの。同じ秘密を共有しているとわかれば、お友達になれるかなぁって……」
 「うーん。その件については、俺で良いなら。けどもう女装は勘弁してほしい」
 「え? そんなに嫌?」
 「当たり前だ!」
 「そうなんだ」

 なら共通の話題がないじゃない。がっくしだわ。
 ラフリィード子息がお友達になってくれると言ったけど、これでは話題がないわね。
 やっぱり話題作りが必要よ。うん!

 「ふふん。今日はお散歩付き合ってもらうわよ」
 「……結構、押し強いな、君は」
 「だって。今日の予定は、二人で男装して探索だったのよ。ほら私達、同じぐらいのでしょう? だったら……」
 「言葉使い戻ってる」

 なぜか、ジト目で言われた。何か怒っているような? そんなに探索が嫌だったのかしら?

 「そう。そんなに嫌なら仕方がないわ。今日はお開きに……」
 「ちょ、ちょっとだけならいい。でも今回限りだからな」
 「ありがとう!!」
 「あぁ……」

 少し照れている姿も可愛いかも。

 「では行こうか」
 「うん? その恰好でいいの?」
 「帰る時は、この恰好で帰らないとまずいからな」

 帰りにまたここに寄るのは面倒って事ね。

 「では、行きましょう!」
 「言葉使いを気を付けれよ」
 「大丈夫。うふふ。それより声出さない様に気を付けて」

 そうだったと、真顔でラフリィード子息は頷いた。
 本当にカシュアン子息と違って、真面目よね彼。そんな彼が、必要に駆られたからと女装するとはね。
 しかも、私のお願いを聞いてこの姿で街を一緒に歩くと言うのだから!
 もう悶えるしかない。

 馬車に騎士の制服を預け、このまま街へと向かう。

 「結構、歩くと思うけど大丈夫か」
 「僕は平気。毎日走り込みしているし、ほぼ立ってるから。それよりラフリィード嬢こそ、それ着て歩くのしんどくない?」
 「服より靴かな……あと、これから言いたくても言えないのがもどかしいかも」
 「なるほど。履きなれないと靴擦れするよ。もし、伝えたい事があったら僕の手の平に文字を書いて」
 「あぁ、そうする」

 なぜか少し照れて言うラフリィード子息が可愛かった。
 
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