厄災の魔女と疫病神と呼ばれた英雄

ケイ

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6話 英雄と魔王-2

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「お前が魔王か。さぁ、殺し合いをしようか」



 カルロリア大国から1㎞程離れた場所に、そこそこ立派な城らしき建物を見つけ進入してみれば、案の定魔王と思わしき魔族が、装飾品が散りばめられた豪華な椅子に、偉そうに踏ん反り返って座っていたではないか。

 戦の最中だというのに呑気な野郎だ。
 確かに俺がいなければ魔王軍の圧倒的勝利だったからな。
 そう考えると、愚劣にも間抜けに踏ん反り返っている魔王にも、同情の念を抱いてしまう。

 というよりこの城、どうやって建てたんだ?
 戦の為だけに建てたとは思えない完成度の高さだ。


「き、貴様は何者だ?何しに此処へ来た?」


 声を震わせながら尋ねる姿に、内心嘆息を洩らさずにはいられなかった。

 原因は雷を纏ったこの姿だろうか。
 確かロデオが古代魔法がどうとか言っていたな。
 もしかすると、雷魔法はこの時代では珍しい魔法なのかもしれない。

 能力増幅 雷付与ライトニングブーストを解くと、強張っていた表情が軟化し、安堵する魔王の姿が目に入る。



 ‥‥‥これが魔王なのか?



 どう見ても小物じゃないか。
 がっかりにも程があるが、それは単に俺の目が節穴で、実は途轍もなく強いのかもしれない。

 そうであって欲しい所だ。

 なんたって魔王なのだからな。


「別に俺が何者かなんてのは、どうでもいい事だ。仮にも魔王なのだろう?だったら何者が現れようと不動でいろよ」
「なっ!?」
「それとも何か?得体の知れない奴が現れただけで、怖くて怯え震えるのが魔王なのか?」
「‥‥‥人族風情が我を侮辱するか!貴様が何者だろうと我の敵ではないわ。貴様の魂、我が喰ろうてくれる!」
「はっ。そうこなくちゃな」


 挑発は成功。憤慨し鬼の形相の魔王が出来上がる。
 震えたまま戦われてもつまらないからな。
 これで魔王も全力で、俺を殺しにくる事だろう。


「貴様には魔王軍を壊滅された恨みもある。生半可な死は与えぬ。我の全力をもって貴様を葬る。刮目せよ!これが我の真の姿!『魔王化』」


『魔王化』と口にしたと同時に魔王の肉体が変形を始める。
 身体が巨大化していき、それに伴い角や翼もより大きく、そしてより禍々しく。


 凡そ全長8m、『魔王』の名に相応しい変化だ。


「これが我が魔王たる証、『魔王化』よ!さぁ人族よ、存分に我の姿に恐れ慄き、泣き叫ぶのだ!」



 ‥‥‥なんて事だ。俺は馬鹿か。



「はっ‥‥‥ははっ‥‥‥」


 つい声が漏れ、手足が震えてくる。


「ふはは!流石の貴様も、この姿は恐れをなしたか!我はどうかしておったようだ。貴様如きに一瞬でも恐れを抱だくとは。所詮貴様も人族。我に敵う筈などな「‥‥‥さ‥‥‥だ」」
「ん?なんだ人族。今何と言った?命乞いなら聞かぬぞ?貴様はやり過ぎた。出る杭は打たねばなら‥‥‥」
「最高だ!」
「‥‥‥は?」



 手足を震わす俺に、恐怖で怯え震えているとでも思ったのか欣喜雀躍し口を開くが、その後興奮気味な俺の言葉に間抜けな声を上げる。


「最高の気分だ。魔王化だったか。その姿を見た瞬間に、武者震いを止める事ができなかった。こんなのは初めてだ」
「む、武者震いだと?」


 目にした瞬間に感じた。
 こいつは間違いなく、今まで殺し合ったどの強者達よりも遥かに強い。


 まさに最強だ。


「最初に侮った事を謝ろう。済まなかった。そしてお前のような強者に出会えた事を神に、いや、あの女に感謝しよう」


 何が小物だ。何がそうであって欲しいだ。

 情けない事にどうやら俺の目は、本当に節穴だったようだ。
 数分前の俺を斬り殺したいくらいだ。
 魔法を覚えていない頃の俺ならば、まず間違いなく勝てなかっただろう。


 異世界に来て本当に良かった。
 元の世界では、苦戦する事はあっても勝てないと思う程の強敵に出逢う事はなかった。
 もしかすると、何処かに居たのかもしれない。


 だが、出逢わなかった。
 そして、この世界では出逢えたんだ。


 俺自身も魔法を教わり強くなる事も出来た。
 更なる高みを目指せるようになった。
 更なる強敵と戦える力を身に付けられた。

 その力を存分に奮える自由を、得る事が出来た。



 ‥‥‥ナタリシアには感謝しないといけないな。


 力を、自由を、そして俺を必要とし、価値を与えてくれた女なのだから。


「ふ、ふははっ!この姿を目にしながら、まだそのような巫山戯た事を抜かすか!我もお前のような者は初めてだ。面白い!ならば貴様を葬り、我に仇したこと後悔させてくれるわ!」



「なら俺はお前を倒し、その最強を奪う!」



 目の前にいるのは、正真正銘の最強。
 相手にとって不足なし。


 今この時をもって、その最強俺が頂く!


「身体強化 能力増幅 雷付与ライトニングブースト!雷駆移動エクレアステップ!」


 ついに最強をかけた殺し合いが始まる。


 先手必勝。


 万の魔族を相手にした事で、より強力により速くなった2つの魔法。
 以前より破壊力と速さの増した剣技。もはや誰も目でも捉えられぬ閃光の如き速度。

 現時点での全身全霊で最強に挑む。

 雷を纏わせた光速の刃が魔王を捉える。


「ぐっ!がはっ!」


 背後に回り正確に魔王の首を狙う。完璧に捉えた。
 だが驚く事に魔王は剣先が首に触れる直前の所で体をそらす。
 剣先が魔王の首を掠める。
 目では捉えられていなかった筈。ならば勘だけで避けたという事か。


「何という速さよ。これが古代魔法か!面白い。ならば我も見せてやろう!闇魔法幻影の闇シャドウイリュージョン」


 魔王の姿が消え、視界全てが漆黒の闇に覆われる。


「この魔法は五感を狂わし、我の思うままを貴様に見せる空間を創りだす。故にこの様な事も出来る」


 何処からか魔王の声が聞こえ、その後何も無い暗闇から、大量の魔王が姿を現わす。
 50‥‥‥60いや、まだ増え続けている。
 幻影の闇シャドウイリュージョンと言っていたが、分身の類か。

 ならば本物は1人という事。
 全てを斬れば、何れ本物の魔王に当たる筈だ。
 雷駆移動エクレアステップを駆使し、全ての魔王を斬り捨てていく。
 光速の刃を前に、瞬く間に10、20と幻の魔王が姿を消していく。
 だが、数は減らない。いや、むしろ増えている。
 斬った数以上に増え続けているのか。

 だが幾ら増えようとも幻影では、俺を傷付ける事は出来ない筈だ。

 いったい、何を考えている。


「無駄よ。この空間は我の思うままを貴様に見せると言ったであろう。いくら斬ろうとそれ以上に増やす事が出来るのだ。そして我は五感を狂わすともいった筈だ。やるのだ」


 合図と共に、大量の魔王が同時に動きだす。
 その間も幻影は増え続けており、100体はいるであろう、8m程の怪物が俺に迫り襲いかかる。

 その光景はまさに地獄絵図。無慈悲で残虐。

 俺はその全てを躱していく。
 だが徐々に魔王の牙や爪は俺を捉えていく。


「ぐっ‥‥!」


 遂に1体の魔王の繰り出した鋭利な爪が、脇腹へ突き刺さる。

 可笑しい。

 俺は正確に避けている筈が、何故かズレが生じる。
 距離感が狂わされている?
 なるほど、これが五感を狂わすという事か。
 牙が足を腕を腹をと抉り、爪が体を貫き切り裂く。
 大量の血が体から湯水の様に溢れ出る。


 既に満身創痍。


 なんて厄介な技だ。突破口が見つからない。

 どうすればいい。何かないか?

 奴はここを、幻影の闇。自分が思うがままを俺に見せる空間といった。
 幻影、闇、空間……空間?
 ここが闇魔法が創り出した空間ならば、俺なら何とか出来るのでは無いのか。
 真の空間魔法の適正がある俺ならば。

 ナタリシアから教わった時は、本当に適正あるのかと疑いたくなるくらいに、全く使う事が出来なかった。

 だが今はそんな事は言っていられない。
 それしか突破口がないのだ。
 やれなければ死ぬ。それだけだ。


「これで終わりにしてくれる!悪魔王の息吹サタンロードブレス」


 1体の魔王の口から暗黒のブレスが、俺目掛け吐き出される。


 感覚を狂わされていても、感じ取れる。


 あれが直撃すれば、俺は確実に死ぬ。



 ならば、やるしかない。



 ナタリシアの言葉を思い出せ。あいつは空間に穴を開けるようにと言っていた。
 何もない空間に穴を開けるとはどういう事なのか。
 その感覚が俺には理解出来なかった。

 しかし現在ここには、現実世界とは違う空間が存在している。



 この幻の空間と現実世界を繋ぐ扉を創り出すイメージで。


 頼む!間に合え!




 だが魔王のブレスは、俺の居る場所へ直撃した。

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