8 / 11
6話 英雄と魔王-2
しおりを挟む「お前が魔王か。さぁ、殺し合いをしようか」
カルロリア大国から1㎞程離れた場所に、そこそこ立派な城らしき建物を見つけ進入してみれば、案の定魔王と思わしき魔族が、装飾品が散りばめられた豪華な椅子に、偉そうに踏ん反り返って座っていたではないか。
戦の最中だというのに呑気な野郎だ。
確かに俺がいなければ魔王軍の圧倒的勝利だったからな。
そう考えると、愚劣にも間抜けに踏ん反り返っている魔王にも、同情の念を抱いてしまう。
というよりこの城、どうやって建てたんだ?
戦の為だけに建てたとは思えない完成度の高さだ。
「き、貴様は何者だ?何しに此処へ来た?」
声を震わせながら尋ねる姿に、内心嘆息を洩らさずにはいられなかった。
原因は雷を纏ったこの姿だろうか。
確かロデオが古代魔法がどうとか言っていたな。
もしかすると、雷魔法はこの時代では珍しい魔法なのかもしれない。
能力増幅 雷付与ライトニングブーストを解くと、強張っていた表情が軟化し、安堵する魔王の姿が目に入る。
‥‥‥これが魔王なのか?
どう見ても小物じゃないか。
がっかりにも程があるが、それは単に俺の目が節穴で、実は途轍もなく強いのかもしれない。
そうであって欲しい所だ。
なんたって魔王なのだからな。
「別に俺が何者かなんてのは、どうでもいい事だ。仮にも魔王なのだろう?だったら何者が現れようと不動でいろよ」
「なっ!?」
「それとも何か?得体の知れない奴が現れただけで、怖くて怯え震えるのが魔王なのか?」
「‥‥‥人族風情が我を侮辱するか!貴様が何者だろうと我の敵ではないわ。貴様の魂、我が喰ろうてくれる!」
「はっ。そうこなくちゃな」
挑発は成功。憤慨し鬼の形相の魔王が出来上がる。
震えたまま戦われてもつまらないからな。
これで魔王も全力で、俺を殺しにくる事だろう。
「貴様には魔王軍を壊滅された恨みもある。生半可な死は与えぬ。我の全力をもって貴様を葬る。刮目せよ!これが我の真の姿!『魔王化』」
『魔王化』と口にしたと同時に魔王の肉体が変形を始める。
身体が巨大化していき、それに伴い角や翼もより大きく、そしてより禍々しく。
凡そ全長8m、『魔王』の名に相応しい変化だ。
「これが我が魔王たる証、『魔王化』よ!さぁ人族よ、存分に我の姿に恐れ慄き、泣き叫ぶのだ!」
‥‥‥なんて事だ。俺は馬鹿か。
「はっ‥‥‥ははっ‥‥‥」
つい声が漏れ、手足が震えてくる。
「ふはは!流石の貴様も、この姿は恐れをなしたか!我はどうかしておったようだ。貴様如きに一瞬でも恐れを抱だくとは。所詮貴様も人族。我に敵う筈などな「‥‥‥さ‥‥‥だ」」
「ん?なんだ人族。今何と言った?命乞いなら聞かぬぞ?貴様はやり過ぎた。出る杭は打たねばなら‥‥‥」
「最高だ!」
「‥‥‥は?」
手足を震わす俺に、恐怖で怯え震えているとでも思ったのか欣喜雀躍し口を開くが、その後興奮気味な俺の言葉に間抜けな声を上げる。
「最高の気分だ。魔王化だったか。その姿を見た瞬間に、武者震いを止める事ができなかった。こんなのは初めてだ」
「む、武者震いだと?」
目にした瞬間に感じた。
こいつは間違いなく、今まで殺し合ったどの強者達よりも遥かに強い。
まさに最強だ。
「最初に侮った事を謝ろう。済まなかった。そしてお前のような強者に出会えた事を神に、いや、あの女に感謝しよう」
何が小物だ。何がそうであって欲しいだ。
情けない事にどうやら俺の目は、本当に節穴だったようだ。
数分前の俺を斬り殺したいくらいだ。
魔法を覚えていない頃の俺ならば、まず間違いなく勝てなかっただろう。
異世界に来て本当に良かった。
元の世界では、苦戦する事はあっても勝てないと思う程の強敵に出逢う事はなかった。
もしかすると、何処かに居たのかもしれない。
だが、出逢わなかった。
そして、この世界では出逢えたんだ。
俺自身も魔法を教わり強くなる事も出来た。
更なる高みを目指せるようになった。
更なる強敵と戦える力を身に付けられた。
その力を存分に奮える自由を、得る事が出来た。
‥‥‥ナタリシアには感謝しないといけないな。
力を、自由を、そして俺を必要とし、価値を与えてくれた女なのだから。
「ふ、ふははっ!この姿を目にしながら、まだそのような巫山戯た事を抜かすか!我もお前のような者は初めてだ。面白い!ならば貴様を葬り、我に仇したこと後悔させてくれるわ!」
「なら俺はお前を倒し、その最強を奪う!」
目の前にいるのは、正真正銘の最強。
相手にとって不足なし。
今この時をもって、その最強俺が頂く!
「身体強化 能力増幅 雷付与ライトニングブースト!雷駆移動エクレアステップ!」
ついに最強をかけた殺し合いが始まる。
先手必勝。
万の魔族を相手にした事で、より強力により速くなった2つの魔法。
以前より破壊力と速さの増した剣技。もはや誰も目でも捉えられぬ閃光の如き速度。
現時点での全身全霊で最強に挑む。
雷を纏わせた光速の刃が魔王を捉える。
「ぐっ!がはっ!」
背後に回り正確に魔王の首を狙う。完璧に捉えた。
だが驚く事に魔王は剣先が首に触れる直前の所で体をそらす。
剣先が魔王の首を掠める。
目では捉えられていなかった筈。ならば勘だけで避けたという事か。
「何という速さよ。これが古代魔法か!面白い。ならば我も見せてやろう!闇魔法幻影の闇シャドウイリュージョン」
魔王の姿が消え、視界全てが漆黒の闇に覆われる。
「この魔法は五感を狂わし、我の思うままを貴様に見せる空間を創りだす。故にこの様な事も出来る」
何処からか魔王の声が聞こえ、その後何も無い暗闇から、大量の魔王が姿を現わす。
50‥‥‥60いや、まだ増え続けている。
幻影の闇シャドウイリュージョンと言っていたが、分身の類か。
ならば本物は1人という事。
全てを斬れば、何れ本物の魔王に当たる筈だ。
雷駆移動エクレアステップを駆使し、全ての魔王を斬り捨てていく。
光速の刃を前に、瞬く間に10、20と幻の魔王が姿を消していく。
だが、数は減らない。いや、むしろ増えている。
斬った数以上に増え続けているのか。
だが幾ら増えようとも幻影では、俺を傷付ける事は出来ない筈だ。
いったい、何を考えている。
「無駄よ。この空間は我の思うままを貴様に見せると言ったであろう。いくら斬ろうとそれ以上に増やす事が出来るのだ。そして我は五感を狂わすともいった筈だ。やるのだ」
合図と共に、大量の魔王が同時に動きだす。
その間も幻影は増え続けており、100体はいるであろう、8m程の怪物が俺に迫り襲いかかる。
その光景はまさに地獄絵図。無慈悲で残虐。
俺はその全てを躱していく。
だが徐々に魔王の牙や爪は俺を捉えていく。
「ぐっ‥‥!」
遂に1体の魔王の繰り出した鋭利な爪が、脇腹へ突き刺さる。
可笑しい。
俺は正確に避けている筈が、何故かズレが生じる。
距離感が狂わされている?
なるほど、これが五感を狂わすという事か。
牙が足を腕を腹をと抉り、爪が体を貫き切り裂く。
大量の血が体から湯水の様に溢れ出る。
既に満身創痍。
なんて厄介な技だ。突破口が見つからない。
どうすればいい。何かないか?
奴はここを、幻影の闇。自分が思うがままを俺に見せる空間といった。
幻影、闇、空間……空間?
ここが闇魔法が創り出した空間ならば、俺なら何とか出来るのでは無いのか。
真の空間魔法の適正がある俺ならば。
ナタリシアから教わった時は、本当に適正あるのかと疑いたくなるくらいに、全く使う事が出来なかった。
だが今はそんな事は言っていられない。
それしか突破口がないのだ。
やれなければ死ぬ。それだけだ。
「これで終わりにしてくれる!悪魔王の息吹サタンロードブレス」
1体の魔王の口から暗黒のブレスが、俺目掛け吐き出される。
感覚を狂わされていても、感じ取れる。
あれが直撃すれば、俺は確実に死ぬ。
ならば、やるしかない。
ナタリシアの言葉を思い出せ。あいつは空間に穴を開けるようにと言っていた。
何もない空間に穴を開けるとはどういう事なのか。
その感覚が俺には理解出来なかった。
しかし現在ここには、現実世界とは違う空間が存在している。
この幻の空間と現実世界を繋ぐ扉を創り出すイメージで。
頼む!間に合え!
だが魔王のブレスは、俺の居る場所へ直撃した。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる