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プロローグ
しおりを挟むーーー此処は何処だ?
俺ーー朝霧葉真あさぎりようまーーは、何時もの様に高校へ通い、何時もの様に実家の家業である場所に居た筈だ。
それが今は、辺りは一面荒れ果てた大地。昼なのか夜なのかも分からないような薄気味の悪い明かり。人も建物も何一つ存在しない、といった場所に一人騒然と佇んでいる。
いや、何かいる、のか?
見渡す限り荒れ果てた大地が広がっており、一見何もない様に見えたが俺の正面に違和感を感じた。
目を凝らすと朧げだが球体の形をした何かが目の前に確かに存在している事に気付く。
『へぇ、既にこの結界を認識出来るのね。貴方は別の世界から呼び出した筈だけど、この世界と同等以上の魔術が存在しているという事かしら?』
球体の様な何かを凝視していると、何処からか鈴の音の様な美しい声が頭に響く。
なんだこれは。
「……お前は……誰だ?」
声帯から発したような声ではなく、頭に直接伝えてくるようなその声に内心困惑しながらも、何とかその声の主に対し返答する。
『……そうね、1000年振りにこの結界から出るから少し怖いけど、貴方なら大丈夫よね。だから私の元に呼び出したのだから」
又もや頭に響く声と共に、微かに認識出来ていた球体が天辺から徐々に崩れていくのが分かった。
『私はナタリシア。そうね、魔女の様なものかしら』
そんな言葉と共に球体の中から現れたのは、この世のものとは思えぬ程に、人間離れした美貌を持った女だった。
その女の幻想的な美しさに見惚れながらも、何故こんな事になったのかと朧げな記憶を頼りに考え始めた。
^o^╹◡╹^o^
「よ、葉真くん!き、今日これから皆でカラオケに行こうって話してたんだけど、葉真くんも一緒に行かない?」
午後の授業が終わり、放課後になり帰る支度をしていた所に、同じクラスの1人の女がそんな事を言ってきた。
その女の後ろを見ると、期待の篭った眼差しで俺とその女を見ているクラスメイトのギャルのような女子が3人と、敵意の篭った眼差しで俺を睨みつけている同じくクラスメイトの男子が3人。
その6人に一瞬だけ目を向けた後、話掛けてきた女に目を向ける。
明るめの茶髪に薄っすらと化粧をした、少し垢抜けた雰囲気の女だ。
まぁ、そこそこ可愛いな。
この女には、高3になりクラス替えで初めて同じクラスになって以来、こういった誘いを幾度となくされてきた。
確かこれで5回目だったか。今は5月半ばでクラス替えから1ヶ月と少ししか経っていないが、週に一度のペースで誘われているということになる。
だから今日も何時もと同じ返事をするだけだ。
「無理だ。今日も家の手伝いがあるからな。」
5回とも、全く同じ言葉で断っている。
まぁ、これは本当に家業で忙しいから仕方のない事なんだが、大人数で遊ぶというのが嫌いだというのも理由の一つだ。
「そ、そっか。ご、ごめんね。毎回毎回誘っちゃって」
「あぁ~。また葉真君来てくれないんだぁ~。残念だなぁ~」
「ええ!今日も葉真っち来ないの~?なら、私も帰ろうかな~。他の男子達と行ってもつまんないし~」
「本当にねぇ!折角、葉真君と同じクラスになれたのに。これじゃぁアタックするチャンスも来ないじゃん!」
断ると茶髪の女が見るからに落ち込み、後ろのギャル3人が残念そうに口々に発する。
「けっ、あの真紀が何回も誘ってんのに全部断るなんてな。あいつ馬鹿だろ」
「だよな。ちょっとめちゃくちゃイケメンだからって調子に乗ってんじゃねぇの?そろそろシメとくか?」
「馬鹿っ!あいつ、超強いんだぜ?この間も他校の男子10人に絡まれて、それを返り討ちにしたらしいからな!絶対やめろよな!?」
断った事で女4人共が残念がっているのが悔しいのか、3人共が嫉妬や敵意丸出しだ。いや、1人は噂に怖気付いてるって感じか?
「家業をサボる事は出来ねえからな。すまんな」
「う、ううん!全然大丈夫だよ!こっちこそごめんね?しつこくて。…あはは」
別に断る事自体何とも思ってないが、一応謝ると、逆に向こうが必死に謝ってきて、まだ落ち込んでいるのか最後はから笑いだ。
5回も断ってるからな。流石にもう誘ってこないかもな。
とはいえ、これでも遊びたい盛りヤりたい盛りの健全な男子高校生だ。
大人数で遊ぶってのがなければ、この茶髪の女ーー真紀と呼ばれてたかーーの為に家業がない日に時間を作るくらいしてやってもいい。
帰り支度を終えて、教室を出ようと席から立つ。
そして去り際に真紀に顔を近づけて
「まぁ、今度お前の為に時間作るからそれで許せ。大人数は嫌だからな。2人きりでな」
真紀にしか聞こえない声で耳元で囁く。
「!?……は、はぃ……喜んでぇ」
「ち、ちょっと!真紀!?」
「え?な、なに?どうしたの!?」
耳元で囁かれた真紀は、頬を真っ赤に染め上げその場にふらっと座り込む。それに驚き慌てて駆け寄るギャル3人組。
何事も無かったかのように、教室を後にした。
^o^╹◡╹^o^
現在真夜中0時。
ある場所で身を潜めていた。
少し離れた先には立派な中世風の屋敷が建っており、その庭にある茂みに気配を殺して隠れている。
何故そんな真夜中にその様な場所で身を隠す必死があるのかというと
俺の仕事、暗殺を行う為である。
『こちらコードネーム、チャイカ。周囲に異常はなし。標的は三階の寝室に移動したぜ。殺るなら今がチャンスだぜ』
無線のイヤホンからザーッという雑音と共に、チャイカと名乗る男の声が聞こえてきた。
「こちらコードネーム、疫病神。了解した。これより標的の居る屋敷への侵入を開始する。何か異常が出たら教えてくれ」
『へいへい、了解』
そう言うとチャイカは気怠そうに答える。
チャイカという男の名は、勿論本名ではなく仕事上で使うコードネームであり、疫病神というのが俺のコードネームだ。
チャイカとは10歳の頃から現在までの7、8年もの間、互いが互いを唯一無二の信頼出来る相棒として、数々の仕事をこなしてきた。
といってもチャイカは諜報員、実際に暗殺を実行するのは俺の役目だが。
『なぁ疫病神。最近お前さんにご執心の子とはどうなったんだよ?もう手付けたのか?』
あの子…というと恐らく真紀の事だろう。
「いや、まだ何もしてねぇよ。今度2人で会う約束はしたがな」
『けっ。なら時間の問題じゃねえか。これで何人目だ?』
「知らん。そんなもん一々覚えてられるか。というより毎度の事だか、何でお前がそれを知ってるんだ」
こいつは何故かいつも、俺の女関係を話してもいないのに詳しく知っている。
何処かで見られているのでは、と思うくらいだ。
『ふん。俺を誰だと思ってやがる。俺に調べられねぇ情報はねえのさ』
「それは凄い。それくらい仕事でも熱心だといいんだけどな」
こいつはやる時はやる男だが、普段はどうも適当な所があるからな。
『馬鹿野郎っ。俺は仕事もプライベートも、いつでも何処でもどんな時でも全力なのさ。それにしても、お前はいいよな。毎度毎度あんな可愛い子ちゃんとあんな事やこんな事してんだからよ。その癖すぐ飽きて捨てちまうんだから、勿体ねぇよな』
「本気になられても困るからな。どうせ、家の跡を継げば俺の相手は親が決めるんだからな」
遊び相手の女は作るが、本気の女は一度も作った事はない。
作ったとしてもそれは絶対に報われる事はないと分かっているからだ。
というより今まで、好きになった女もいなかったんだが。
『ふんっ。いい御身分なこって。放っとき過ぎて逆にその子に振られないよう気をつけるんだな』
「まぁ、この仕事が終わったら相手してやるとするさ」
『お前、この状況でそんな事言っちまったら死ぬぞ?』
チャイカが冗談めかしてそう茶化す。
「俺が失敗するとでも?」
『まぁ、そりゃ無ぇわな』
「そろそろ冗談は終わりだ。寝室に辿り着いた。これから任務を遂行する」
『了解。周りには異常はなしだ。ちゃっちゃと終わらせて早いとこ飲みに行こうぜ』
2人して冗談を言い合っている間にも、屋敷の中へ侵入しており、そこで仕事モードに切り替える。
その後標的に気取られないように、気配を殺し音を立てぬよう寝室へと侵入する。
そして椅子に座り酒を飲んでいるであろう標的の背後に立ち、慣れた動作で銃を取り出し銃口を標的の後頭部へ向ける。
後は引き金を引き屋敷の者が此方に来る前に撤退すれば終わりだ。
だが、引き金を引ける事はなかった。
何故か体が全く動かないのだ。
一瞬驚いたが、これでもこの道7年のベテランだ。
直ぐに平静に戻り、これが罠だと考える。
罠だとすればなんだ?上か下か?糸で絡められているのか?
動かない頭で何とか目だけを動かし周りを確認する。
だが下を見た瞬間、またも驚愕した。
床には見た事も無い模様が描かれた円形の何かが俺を覆う様にして広がっていた。
何だこれは!?
「ん?…な!?だ、誰だお前は!?」
やばい!気付かれた!?
標的は俺に気付き驚いた様子で声を荒げる。
俺は今も銃口を標的の座っていた椅子に向けて構えて動かないでいる。
「だ、誰か!侵入者だ!直ちにこちらへ来い!」
標的が屋敷の者を呼ぶ声が聞こえてくる。
そして扉を乱暴に開け中に何人かの武装した者達が入ってくる。
「銃を持っている。俺の始末が目的か。何故か動けないみたいだが、間抜けな奴だ。直ちに始末しろ!」
標的がそう叫ぶと武装した男の1人が銃を取り出し銃口向け、そして引き金を引く。
『お、おい。疫病神!何があった!もしかしてさっきのか!?さっきのフラグの所為なのか!?返事をしてくれ疫病神ぃぃー!!』
鈍い爆音が聞こえてくる直前に、イヤホンからはチャイカの耳触りな濁声が聞こえて来た。
フラグってなんだよ。この仕事が終わったらってやつか?くそっ、あんな事言うんじゃなかった。
そんな事を考えながら目を瞑り最期の時を待つが、そんなものは来ず次に目を開けた瞬間。
何故か身に覚えのない場所で、1人佇んでいた。
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