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オリビアの愛編

第15話・海賊エヴァンとの取引

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 どんどん海へ出ていく船目指してタカオ達は走り、波止場までやってきた。すでにジャンプしたのでは届かない距離になっており、ついタカオは舌打ちしてしまう。


「タカオ、あれ!」


 クレアが指さす方向には小さいながらボートがあった。でも、あれだけじゃ船に追いつくのは難しい。


「なにボーとしてるのよ。ここでこそあんたの出番よ!」


「はあ?!」


「あんたの土の元素の力、ここで使わずしてどこで使うの! ちゃちゃっとオールぐらい作りなさいよ」


 そうだ、ドワゾンで土の精霊を封印することで、物質を変換する錬金術のような力を得たのだ。あの力を使えばオールぐらいなら……。俺は波止場にあった樽に向かってクリエイト魔法を展開する。すると樽が光り出し、チャチながらオールができた。


「よし! 飛び乗るわよ」


 波止場から飛び降り、乱暴ながボートに無事着する。着陸と同時にターニャはいくぞ、と掛け声を上げてボートを漕ぎ始める。
 タウルス族の力を解放することでグングンボートは進み、船が沖へ海へ出てしまう前に追いつくことができた。船の近くまで来たものの、簡単に乗り入ることが難しい。悩んでいると、タカオは自分の身体がフワッと浮かぶのを感じる。隣とみると、ターニャが自分の身体を抱きかかえていたようだ。


「……ターニャ?」


「しっかり着地しろよ」


 反論する間もなく、彼女はブンとタカオを投げ飛ばしてしまう。叫び声もむなしく、空中に投げ出さて船の甲板を見下ろす形になる。上昇が終わると徐々に落下を始め、タカオは何とか着陸態勢を取る。
 しかし、ヒーローのように着陸なんてできる訳もなく、タカオは無様な姿で着地してしまう。高いところから落ちても大丈夫なのはゲームならあるあるだ。だが、痛みは本物だ。


「おいおい、あんたどっから来たんだよ? 大砲にでも飛ばされたか?」


 声がした方を向くと布製パンツにシャにチョッキを羽織り、町で会ったヴァイキングよりは身なりが整っている男が舵を取っていた。しかし、アゴのラインに沿ってヒゲはしっかり生やしており、洋画に出てくる主人公ばりに決まっている。


「あんた、この船には所有者がいるのを知ってるのか?」


「ああ。知っているさ」


「知っているって……。あんた、これ立派な泥棒だぞ」


「そりゃそうだ、海賊は他人のモノを盗むのが仕事さ」


 問い詰めている間に、ターニャがクレアを抱きかかえ船に飛び乗ってくる。ターニャはすでに頭に血が上った状態で、ゴブリンと対峙したときのように話し方が巻き舌状になっていた。


「おんどりゃ、この船をドワゾンの長が管理する船と知ってやっとんのか、あぁ?!」


「おおっと、こりゃまた怖そうながらキュートなお嬢さんが飛び込んできたもんだ」


「あ、ああ。何が、こんな姿で、お嬢さんですって、わりゃあ?」


 怒った状態にも関わらず褒められたのが意外だったのか、解放状態のターニャがいとも簡単にヘナヘナと力を抜いていってしまう。クレアも驚いた顔をするも、果敢に船の家事を取る男に噛みつく。


「あんたね、そんな軽口でターニャは騙せても私は騙せないわよ。この船使って、また新しい海に出て略奪行為にでも勤しむわけ?」


「残念ながら、そんなことをする暇はないのよね~」


「はあ? じゃあこの船を売り飛ばそうっていうの?」


「それも違う。あんたら、町でボニーっていう女の話は聞いたか?」


 女かどうかわからなかったが、その名前は聞いたことあると正直に話した。


「俺はその女の元に向かうために、この船を拝借しようと思ってな」


「そのためだけに、わざわざこんな大きな船を使ったわけ?」


「残っている船はこれぐらいだったし、俺単身で挑むわけだ。これだけ大きければ威嚇ぐらいにはなるだろ」


 男はしばらく鼻歌を歌いながら舵を取っているも、彼以外の船員がいる気配はない。本当に単身でこの船を動かしているようだが、そこまでしてボニーに会う用事があるのだろうか。町の人間はボニーが大勢で何かしているような話だったが、もしかしてそれが関係しているのかも。


 この男なら何か知っていると思い、タカオはボニーが海に出ている理由について聞いてみた。すると彼は、視線こそ合わせなかったが神妙な顔つきで答えてくれた。


「……もし、人魚誘拐だって言ったら、あんたら信用するかい?」


 思わず人魚誘拐、と聞き返してしまった。何ともファンタジーな要素が飛び出てきたなと思ったが、クレアは顔を真っ青にしていた。


「そのボニーって女、本当にそんな愚かなことを考えているの?」


「俺は誘拐された人魚の中に、どうしても助けないといけない人がいる。だから盗みを働いてまでボニーの元に向かっているわけだ」


「だからって、それは許されるこじゃー」


「ねえ、あんたの言っていることは本当でしょうね?」


「何ならこのまま船に乗って確かめればいい。船を盗んだことは申し訳ないと思うし、お願いできる立場でもないんだが。乗りかかった船だ、できるならお手伝い願いたいんだけど。いかがかな?」


 調子よすぎだろ、というとするとクレアはいいわと返答する。感情的なクレアとしては意外だなと思ったのだが、人魚を殺されることが許せなかったのだろうか。


「いい返事だね。それじゃボニーがいるところまで向かうぜ。……そうだ、俺はエヴァンだ。この件が終わった後に、この名前で役所へ突き出す何なりしてくれていいぜ。あんたらと一緒にいるかどうかわからないけどな」


 エヴァンが皮肉交じりに自己紹介したので、タカオ達も名前をそれぞれ告げる。なし崩し的に同行することになるも、タカオは納得できないものを感じクレアに詰め寄った。


「クレア、お前急にどうしたんだよ」


「なによ」


「てっきり言い返すかと思ってたからさ」


「……そっか、タカオには説明しておかないといけないわね。人魚は水の元素を調律する存在なの」


「調律?」


「そうよ。すべての生命の源である水は何よりも大事なの。そこで、水の元素を常に守る守護者として彼女たちが存在するの。特に海は規模が大きいから、彼女たちが調律することで荒れないようにするのが主なんだけどね」


「そんな大事な存在を、どうしてボニーは……」


「だからあんな怪しい奴と一緒でも、確認する必要があるの」


 クレアは船べりにある手すりに背中を預ける。潮風が彼女の髪をサラサラと流すも、不安までも拭いきれないようだ。


「確かに、一部の人間は人魚を食べれば不死身になるとか思っている人がいるみたいだけど……。そのためだけに誘拐しているとは想像しづらいし……」


 クレアはそこで言葉を切り、それ以上何も語ろうとしなかった。まだ氷解しないものを抱えながらも、タカオの前方に船の集団が見え始めた。
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